『もしも見えたら』

 視覚障害の方が持ってる……杖? 名前あるんだろうけど、知らない。長い間居てるから建物内の状態、どこに机があるか、頭の中に描かれてるのかな。

 仕事の間は手探りでゆっくりと進み、お手洗いなどに行っている。雨のにおい、誰か来た音、感覚が研ぎ澄まされてるように思う。


 見えれば視覚の情報で片付くところを、聞いたり触ったり、その人なりの判断材料が要るのかな。


 初めは迷った。渡したいのを手に当て、声を掛ける。通路に居るときは通りすぎるまで、見ていた。

“居る”という事を知らせようと、鼻歌まじりや何かしら呟いたりもした。案の定、避けて歩いていく。


 暗い部屋、電気をつけようと手探りでスイッチを探すだろう。床に物があれば慎重に歩みを進めるかもしれない。

 そういう動作が毎日だ。温厚そうな男性。怒ってるところを見たことが無いから、その印象となっている。


「あー…段ボールがある」

 一ヶ所に固めてあるが、私が持ってきている物だから気にしていると──


「んー? 大丈夫、大丈夫!」


 ススッと歩いてきて、椅子に座った。いつもは通り道無いほどに並べてあるから、私のやり方は余裕なのかな。


 ときどき考える、みえたら、彼はどんな事をするんだろうって。



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