残金30円の男
給料日までの所持金が30円になりました。正確に言えば36円。うーん。これでは、100円ショップで買い物すら出来ません。どうしたものか。
でもまあ、すぐに餓死してしまうという状況ではありません。パスタやそうめんなどの乾麺、米、缶詰が少し、その他色々な何かの備蓄はあります。卵も15個ぐらい、冷凍した魚もあります。水道は止まっていないので水も大丈夫。何より、給料日までは1週間ぐらいですから、贅沢しなければ十分生きられます。紅茶のティーパックも200個ぐらいありますし、これだけ食料があれば、もう贅沢ですけどね。
どうしてこういう状況になったのか。
僕がもらっている給料は決して多くはありません。しかし、普通に生きていけるだけのお金ではあります。豪遊したり、そこそこの贅沢をしなければ、ちょっとぐらいの贅沢をするお金だってあります。月に一度映画を見に行ったりしても大丈夫です。
しかし、私の浪費癖は恐ろしいものでした……。
どうしても衝動的に何かを買ってしまうのです。それも病的なほどに。給料をもらってからショッピングモールなんかに行けば、油断すると、後で胃が痛くなるほど使ってしまいます。それも、自分には必要無い物に。
良く分からない1番くじを引いてしまったり、良く分からないガチャガチャをしてしまったり、ゲーセンでクレーンゲームしたり、良く分からないマグカップを買ってしまったり、特に良いとも思わない何かを食べたり、見た瞬間に「あっ」と思ったら即買いです。お金が懐にあると、その衝動買いが加速します。
家に帰ってから、良く分からない大きなサメのぬいぐるみを部屋に置き、そいつがスペースをめっちゃ取るを見て「ああ、こんなことするんじゃなかった……」と激しく後悔します。
外食も、いつも食べる以上に食べてしまって、後でお腹が気持ち悪くなって後悔します。お金を使って後悔するのはアホウの極みです。
「お金を使う前に本当に必要か考える」「部屋に置いた時に邪魔にならないか考える」「それが自分をどう幸せにしてくれるか考える」などなど、お金を使う前に一度立ち止まって自分に聞く時間を作ったので、以前よりは浪費癖は無くなったのですが、いまだに消えません……。僕の魂に刻まれた呪い……。
物を買って、所有して幸せになるのは、たぶん僕には出来ないことです。お金を稼ぐ力がありませんから。それに、お金がたくさんあって、物をたくさん持っていても、僕が幸せになれる気もしません。世の中のお金持ちを見ても、僕の目にはほとんど幸せそうに映らないからです。
だから、物欲が幸せにしてくれるとは思わない。それが第一に頭に刻み込んでおくこと。
第二に頭に刻み込んでおくことは「そのお金が自分を幸せにするのか」ということです。お金を使った時に自分が幸せにならないは絶対ダメ。お金を使って自分だけが幸せになるのと、他の人だけが幸せになるは、ギリギリセーフ。お金を使って自分と他の人が幸せになるのが、大成功。という基準です。
意外なことに、僕は一番ダメな、誰も幸せにならないことにお金を使うことが多いです。まず、ここをやめなくてはいけない。もう一つ、お金を使って、自分が人にすごいと思わせる、そういうことにもお金を使っています。多少優越感は得られるかも知れませんが、それは仮初の幸福感でしか無く、対価のわりにすぐ消えます。しかも、自慢された方は幸せではない。これも良くない。
「誰も幸せにならないことにお金使ってたんだな」
財布の36円を握りしめながらそう思います。
そんなこと言っても、もうどうにもならないですけどね。財布からお金が湧き出てくるわけではありませんし、どうせお金が沸き上がって来ても無くなるまで自分の欲望のために使うだけです。
結局、もらえるお金が増えたところで、浪費する量が増えるだけで、お金に困ることには変わりは無いと思います。むしろ、自分の欲望を肥大化させ、人の形をした化け物になるだけな気がします。
そうなる前に、少ないお金で、自分の欲望と向き合い、真人間になる。そういう修行だと思えば、良さそうです。
しっかりここで修行をし、自分を律せるようになったら、持つお金が増えた時も、本当に必要なことにお金が使えそうです。
さて、このお金をどうしよう。
36円では、この現代日本で買えるものは少ないです。
もやしを買う?チロルチョコ?うまいぼう?
どれも「うーん」と腕組みしてしまいます。お金の使い方が分からない。この36円で自分と他人が幸せになる方法は……?
僕はパッと思いつき、家を飛び出し、コンビニへ向かいます。僕の目指すは募金箱。聞くところによると、2円あったら、恵まれない子供たちが病気の予防や治療をするためのビタミン剤が買えるそうです。36円あったら18もビタミン剤が買えます。微々たるものかも知れませんが。
それなら、欲望の権化とかした僕が無駄にお金を使うよりも、良さそうです。僕はこの36円が無くても今すぐ死ぬわけじゃわりません。というか、不幸になるわけでもありません。ですが、世の中にはこの36円で人が助かるかも知れないのです。スケールでかい話かな?話を盛り過ぎた?
まあ、どちらにしろ、この36円で僕がチロルチョコ食べるより、有意義に使えるだろうと思い、募金箱に投入、家に帰ります。少なくとも、これで誰かのための幸せに使えたんだから、ギリギリセーフの使い方です。
それに、たった36円の募金ですが、その時の僕はとても気分が良かったです。36円でチロルチョコ食べるよりも、満足感が得られました。自分が幸せになって、他の人も幸せになるなら、とても良い使い方が出来たのでは?と自画自賛します。
僕は「誰かのために何かする」という言葉が大嫌いです。
僕は、人のために何かする。嘘だろ。本当は、人を助ける自分に酔ってるだけだろと。結局は、弱い人を踏み台にして自分の地位を上げてるだけじゃないかと。
時に、善人はずるい時があります。良い人は、自分の汚い部分も正当化して綺麗に出来ます。それがあまり好きではない。
だから、僕は今回の募金でも「これは恵まれない子供たちのためじゃない。自分のためにやったんだ!!」と心の中で叫びました。僕は人のことなど考えない、欲望に忠実な極悪人です。
でもまあ、極悪人の欲望のせいで、人が助かるなら、それもまた良いことなのかなと思います。
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