第5話 ゼウスの雷

 発射15分前、ボクは指示された起爆コードを入力する。


「戦術核の起爆コード受け付けました。続けて免責事項の確認と承諾をお願いします」

「了解」


 いつものように中身を読まずに承諾をタッチする。大まかには責任は軍がとるけど生命の保証はできないとかの内容だ。そして、命令違反があった場合は個人の責任に及ぶと脅してある。核兵器使用の責任を個人に擦り付けるのも大概にしてほしい。


「確認ありがとうございます。それではゼウスの雷発射シークエンスに移行します」

「了解」

「弾体推進用ロケットを発射レールにセット。同時にヒートビットの電源入ります」

「了解」

「続いてプラズマロケット点火します」

「出力最小から最大へ」

「出力最小から最大へ」

「異常はないか」

「ありません」

「では出力最小へ」

「出力最小へ。弾体誘導システム起動します」

「了解」

「弾体誘導システム異常なし」

「了解」

「全ての安全装置解除します」

「解除しろ」

「解除しました」


 これで核は何時でも起爆する。自分の頭の上で爆発してくれるなと祈ってしまう。


「発射3分前」

「ララちゃん。緊張してきちゃったよ」

「引き金だけはちゃんと引く事。他はすべて私がやります」

「大丈夫。ちゃんとやるよ」


 メインモニターにカウントダウンされる数字。

 相対速度は秒速56kmで固定されている。

 相対距離のカウンターはものすごい勢いで減っている。


「発射2分前」


「ねえララちゃん。私たちあの小惑星よりも早い速度だよね」

「はいそうです。速度差は約2.3倍です」

「ぶつかったりしないかな」

「このまま飛べばぶつかりますよ。相対距離約5000㎞でゼウスの雷を発射。60秒後に着弾しますが、その間に減速しつつ軌道修正をかけます。破片散布の予想エリア外へと移動しつつ地球の周回軌道に入ります。減速Gはキッツイですからビビらないようにお願いします」

「分かってるって」


「発射1分前」


「ますます緊張してきちゃったよ」

「大丈夫ですか? どうしても落ち着かないなら私を抱きしめてキスするなんてシチュエーションを想像してください」

「あ、ダメ。別の意味で緊張してきた」


「30秒前」


「ララちゃん。くすぐったいよ。ああん」


「25秒前」


「仕返しだ。このお」


「20秒前」


「どう? 感じちゃってる?」


「15秒前」


「あっ♡。そこはダメだよ。ボク弱いんだ」


「10秒前。そろそろ現実リアルに戻ってください」

「せっかくいいところだったのに」

「8……文句を言わない……6」

「わかりました」


「4……3……2……1……」


「発射」


 ボクは引き金を引いた。人型機動兵器トリプルDハドロン改の背中に据え付けられている巨大な推進器。それに取り付けられた大型ミサイル発射用のレールから対小惑星破砕弾頭ゼウスの雷を装備した大型ミサイルが飛び出していく。


「軌道変更、及び減速を開始します。後は私にお任せください」

「了解」


 ハドロン改は120度くらい向きを変えてプラズマロケットを噴射する。またまた強烈なGに押しつぶされそうになる。減速Gと言っても感覚的には加速の時と変わらない。対Gゲルの詰まったブヨブヨのシートに押し付けられるのだ。


「ララちゃん。やっぱりこれキツイ」

「おしゃべりできるのは元気な証拠だと判断します」

「どうにかならないの」

「なりません。減速をしなければ太陽系外へすっ飛んで行きますよ」

「それは困る」

「だったら我慢です」

「うん。わかった」

「ゼウスの雷、着弾します」


 モニターには小惑星にミサイルが命中し爆発する様子が映っていたが、それをゆっくりと眺める余裕なんてなかった。

 先端を超高熱化するヒートビット。それに加え劣化ウラン弾芯を仕込んだ質量弾。これらの相互作用で弾体は数十メートル小惑星に食い込む。食い込んだところで遅延信管が作動し戦術核が起爆するという寸法だったのだが、果たしてうまくいったのだろうか。


 ボクの位置からは確認できなかった。

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