チリコンカンが好きすぎる

 小学生と中学生の頃、昼ごはんは給食だった。給食センターから運ばれてくる給食。給食メニューに関して「思い返してみればうまかった」と語る人が多いけど、僕は当時から給食メニューが好きだったように思う。


 特に、チリコンカン。


 給食で食べるチリコンカンは汁物扱いで、汁気が多い。ひよこ豆がトマトベースの汁で煮込まれている。辛くはないけど、チリの香りはしっかりと感じられた。それがうまかった。


 高校を卒業して一人暮らしをはじめて少ししてから、チリコンカンを作ろうと思い立った。レシピとか料理の成り立ちとかを調べていると、汁気が多い作り方は意外と少数派だということがわかる。僕は調べたレシピ通りにチリコンカンを作り、食べた。今度は汁気が少なくて豆がもっとゴロゴロしている感じのチリコンカンだ。唐辛子もニンニクも入れた。


 別物だった。


 給食のも美味しかったけど、自作したものとは別物だ。汁気が少ないだけじゃない。辛味の有無や強弱でかなり風味が変わる。僕は汁気が少ないチリコンカンのほうが好きなんだと実感した。


 それから、僕は何度かチリコンカンを作るようになったんだ。一度作れば二日間はチリコンカンだけを食べた。ご飯にかけてみたり、バゲットと一緒に食べたり、パスタにしてみたり……。もちろん、そのまま酒のつまみにするのも良い。


 チリコンカンさえあれば、なんだってできる。


 飽きてきたらカレーにしてしまうという手もある。僕は豆カレーも好きだから、カレーにしたチリコンカンも大好物だ。


 僕はチリドッグが好きだし、他の豆料理も好き。


 要は「チリ」と「豆」が好きなんだよ。その二つが合わさったチリコンカンを好きにならないわけがなかった。作るのも簡単、食べるのも手間がかからない。何をどうしてもうまい。酒にも合う。最強だ。


 しかも、刑事コロンボを思い出す。


 荒野飯という感じもする。


 チリコンカンを食べるときは、誰にも邪魔されたくない。コンテンツも要らない。ただチリコンカンがあればいい。小さめのスプーンで少しずつすくいながら、ガツガツと口に運び続けるだけだ。勢いを殺さず、ガツガツと。淡々と。食べ終わったときに水を飲み、煙草を吸う。これが最高に幸せだ。


 給食で出会ったチリコンカンだけど、今の僕にとっては学校給食とは程遠い食べ物になってしまったように思う。

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