第62話 根室重光が根室容保と再会すること
「さては親父、これで時々俺たちの様子を観察してやがったな」
窓を見ると、すでに日が西へ傾いていた。
和室は畳が焦げ、襖が破れ、神棚も水瓶が割れて宮型が破損。
驚くほど被害は軽微なものであったが損害は損害だ。どう如斎谷に弁償させてやるかと考えながら月長石の玉を高くかざした。
「何か光っているみたいですよ?」
「はい、あっ先生、部屋を暗くして!」
「いけません! そんなつもりで来たんじゃありませんから!」
敬意を込めて軽めのゲンコツを差し上げる。
信南子先生は半泣きでカーテンを引いてくれた。
和室が暗くなると、水晶玉が幻灯機の役割を果たしていることがわかった。柔らかな光が壁でなく空間に映像を映し出す。
最初はぼんやりした影が次第に鮮明な形を取る。
「ホログラフィー……?」
「人が映っていますよ。まあっ! ダンディー!」
遠く聞こえる波音。南国らしき白い砂浜。ヤシの木陰で本を片手にデッキチェアに寝そべるアロハシャツの中年紳士。
「親父!」
「この人が根室くんのお父様ですか?」
「父の
そこでアロハシャツの男は本を閉じた。
「ん? おお、重光」
サングラスをあげて無駄にハンサムな素顔をのぞかせる。
「やっとこの
「やっぱり父さん無事だったんだな」
「うむ、見てのとおり南国情緒を満喫中だ」
普通の親子ならば生存を知って喜び合うところだが我が家は事情が違った。
「富士の遺跡発掘に行ってたんじゃなかったのかよ……」
「なんだその反応は? 父の生存が不満か?」
「生きてたんなら、もっと早く連絡よこせよ!」
「私とて、どれほど連絡したかったか知れん。しかし、その玉との交信機役を果たすカメオが破損してしまってなあ」
父が指に挟んだカメオは二つに割れていた。
「うっかり落としたはずみで割れた。おかげで水晶玉の受信率が高いときに私の言葉を途切れ途切れで届けるのがやっとという有様だった」
嫌味みたいなつぶやきばかり聞いた気がするが。
「今どこだ! どこなんだその地上最後の楽園みたいな場所は!」
「場所は教えかねる。青銅の孔雀から逃れるために富士山で落盤事故にあったと見せかけようと一芝居打ったのだ」
「親父も奴らのこと知ってたのか!」
「祖霊復活に私の知識が必要だと協力を乞われていたのだ。当然あんな奴らに手は貸せん。おまえも奴らに会っていたことは了解ずみだぞ。何しろこの和室限定とはいえ、おまえたちの初々しい生活ぶりは筒抜けだったからな」
「……見てやがったか」
「根室くん赤くなってますよ──ごめんなさい」
眼力ビームで信南子先生を黙らせる。
「神電池を見つけた朝だったか、重光ちゃんを劣情を催させられないのは恥とか言わせて、イニシアチヴを取っているのは幽香のほうじゃないか」
「わ~っ!」
必死に大声を絞り出してかき消した。
「堅物なところは相変わらずだな。私は別におまえを責めたりはせんぞ? 直接の血の繋がりのない若い男女が二人だけで暮らしているわけだからな」
「親が近親姦を奨励するようなこと言うんじゃねえ!」
「推奨しているが? 私が幽香を養女にしたのは、妹夫婦の忘れ形見を守りたいという動機以外に、おまえと意識し合う関係になったら、さぞかし面白かろうという密かな目論見があってのことだったのだ」
そうだった。父とは、根室容保とはこういう男だった。
「それより大変なことになってんだぞ! 幽香が青銅の孔雀に攫われたんだ! こっちの様子が見えてたんならわかるよな?」
「わかっているさ。自爆しようとした小娘をこの部屋へ入れたのは良い判断だ。神電池が自然精製されるだけあって我が家でいちばん霊威の高い場所だからな。おかげで一戸建てをフイにせず済んだ」
「今は幽香が優先だ。あいつのことで聞きたいことが色々ある」
「鬼女の子孫とかいう件だろう? まずは母さんの遺影を持ってこい。何でも答えてやる」
おしゃべりな紳士、根室容保が完全に場を仕切った。
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