人嫌い、やっと休める

「次は胡蝶ですね!」


「あー適当で良いよ。」


「駄目だよ高山くん、聞いて。」


まだ話は続いており、タマはいつの間にか逃げていた。


「胡蝶はですね!高校生になっても兄貴の下で働きたく、この辺一帯の学校を探し回りました!」


「うっわ迷惑。」


「僕の高校にも来てたよ。こちらに兄貴はいますか!って。」


「それで兄貴がいないことを知りまして!胡蝶もどうしようかなと…そこに五十嵐さんが来てくれました!」


「同じ中学だったから、力になりたかったんだ。」


「ただ世話焼きたいだけだったんじゃ?」


「最後にはお互い同じ探し人、兄貴を見つけようとなったのです!」


「くっそ迷惑。それにさ、顔を殴った相手をそこまで必死に探す?」


「あの時の胡蝶は愚かでした!誰にも負けない、男だって相手にならないって天狗でした!そんな鼻をへし折ってくれた兄貴…胡蝶はその時弟子になったっす!」


「頭のネジ足りてるよね?」


「…でもさ、なんで遠い高校にしたの?」


「もしや!まだ見ぬ強敵を求め、遠方へ行かれたのですか兄貴!」


「違うよ、そんな設定ないから。」


そして秀人は話し出す。高校を転機にするため、自分を知らない人たちのところへ行くことにした事。そのために独り暮らしが始まり、鳴神学園で騒がしく過ごしている事。


「お元気に過ごしてるんですね!胡蝶安心ですよ!」


「そっかー鳴神か…またその内会うかもね。」


「は?冗談きついよ、もうこの場で以外会うことないと思ってたのにさ。」


「胡蝶も初耳ですよ!」


「ふふ、まあ楽しみにしてて。」


そこから胡蝶と陽斗の近況報告だったが、もちろん秀人は上の空。適当に聞き流していると、この場を作り出した両親が帰ってきた。


「あらあら秀ちゃん、仲良くなれたのね。」


「ただいまっと。母さん、荷物ここに置いとくよ。」


「それじゃ!胡蝶は帰るっす!」


「僕もおいとましようかな。家族団欒だもの、邪魔しちゃ悪いよね。」


「うんうん、君たちは1秒でも早く帰らないと。」


「残念ねえ、一応人数分買ってきちゃったのに。」


その言葉に、帰り支度をしていた2人が止まる。


「せっかく秀人も帰ってきたから、すき焼きだったんだがな。」


「こんなに食べきれないわ。」


「食べきれない分は保存してさ、2人で食べるべきだと思うけど。」


「いやーでもなー。」


「どうしましょー。」


「…わざとやってるよね。」


「うぅ、胡蝶食べたいです!」


「お、お言葉に甘えようかな。」


「本当かい!それは良かった、なあ母さん。」


「ええ、助かるわねえ。でもまずは、家に行って許可を取ってきてね?私たちも親だもの、子供が夜に帰ってこないと大騒ぎだわ。」


「はい!すぐ戻ってきます!」


「なるはやで済ませます。」


陽斗と胡蝶は走って家を飛び出し、残された秀人は少しの間部屋に戻ることにした。


「…本当に、帰ってくるんじゃなかった。部屋で寝る。」 


「秀ちゃん、後で起こしに行くわねー。」


「ゆっくり休めよ。」


秀人の気など知らず、両親は来客用の椅子や食器を用意していた。まるで最初からこうなることを知り、準備していたかのようだ。


「いや、偶然じゃない。僕の友達が来たと勝手に舞い上がって、こんな事態に。」


秀人の部屋は2階にある。階段を登りながら過去を振り替えると、秀人を訪ねて来た人は誰もいない。強いて言えば病欠の日にプリントが届いたくらいだ。


「…だからって騒ぎすぎだよね。」


「みゃー。」


見るとたまが秀人の部屋の前で、ドアが開くのを待っていたように座っていた。


「ここに逃げてたのね。」


「みゃー。」


「はいはい、しばらく休めそうだし。どうぞ。」


ドアを開ければ、中学時代のまま変わらない部屋だった。布団は干しておいてくれたようで、横になると気持ちいいものだった。


「お休み。」


「みゃー。」


しばしの休息。存分に寝ることにした秀人だった。

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