人嫌い、昔話

「おい高山、話聞いてたか?」


「…」


「おい高山!」


「…聞いてますけど。」


「ならちゃんと前を見ろ、それとすぐ返事しなさい。」


「別に聞くだけなら前見なくても、それに返事をしないからと聞いてない判断をしたのは先生ですよね。」


「…お前相変わらずだな。1年からの付き合いじゃなかったら、今頃指導室行きだぞ。」


「それはどうも。」


中学二年の秀人。しっかりと授業に出席し、今のところ欠席0の優秀生徒に見える彼だが、授業態度や人付き合いは壊滅的だった。


「じゃあ聞いてたか試すが、この時の作者の気持ちは?」


「亡き友人を思い、作中に出したんですよね。まあ本人に聞いてなさそうですし、本当かは知りませんけど。」


「ちゃんと答えるから流石だよな、他の奴なら本当に聞いてないのによ。」


「どうも。」


「先生、なんで作者は…」


そこから先の会話は、秀人の耳には届かなかった。自分に向けられる会話以外、彼にとって聞く価値がなかったからだ。


「…ま君、高山君。」


「何さ。」  


「何さ、じゃないよ。もうお昼なのにぼーっとしちゃってさ。」


「ああそう。」


そう言って秀人は立ち上がり、1年から愛用している食事場所へ向かうことに。


「ちょっと待って、いつも何処へ行ってるの?」


「食事しに行ってます。」


「そうじゃなくて、たまにはクラスの」


「それじゃ。」


誰かからの声を遮断し、秀人はお気に入り場所へ向かう。彼、彼女だろうか?は世話焼きの人間らしい。秀人にとって必要ない情報だし、関わる気もないので顔や性別は記憶されていない。


「ちっ、また来たのかお前。」


「どうも。」


彼が見つけた場所は屋上、天気が悪ければその手前階段で食事している。当初は悪者の溜まり場だったが、秀人の暴力こうしょうにより平和になった。


「お前も物好きだよな。」


「ですね。」


「ま、まあ好きにしな。お前には皆負けて、文句なんて言わねえからよ!」


「はあ。」


そう言って弁当を取り出し、静かに食べ出す秀人。今日の天気は快晴であり、絶好の屋上日和だった。


「じゃあな。」


「どうも。」


ちなみに食べている間、不良は世間話を投げているのだが秀人は空返事。そんな空返事で会話が続いてると思い、不良も話続ける。外面だけなら知り合い通しで食べているように見えるが、片方は相手の顔すら覚えていない。


「…さてと。」


一人になった秀人がする事、読書である。本は彼に非日常を見せてくれるツールであり、一人で没頭できる素晴らしい物だからだ。そんな彼も、時間には勝てない。


「ちっ。」


授業にはちゃんと出る秀人。遅れないためにと栞を挟み、教室へ戻っていく。次の授業準備を終えた彼は、また窓の外を眺める事にした。秀人は窓側の2列目、この学年で初めて窓側を手にいれた。


「よーし授業始めるぞ。」


先生であろう人物の声が聞こえても、秀人の視線は窓の外。グラウンドを見ても他人だらけなので、秀人は空を見ていた。流れる雲の形を見て、何に似ているかを考えるのが暇潰しになっていた。


「…ま、高山!」


「はい。」


「はい。じゃない、この問題は?」


「x=3、y=-2。」


「…座って良い。」


教師たちも外を見る秀人は見える。そのためよく問題を解かせるのだが、全て正解されてしまう。ここで間違えるのなら、外を見るなと叱れるのだが。この調子で放課後になり、秀人も帰る時間になった。


「それじゃあ皆、気を付けて帰れよ。」


「「はーい。」」


「…帰るか。」


秀人が帰る前に寄る場所がある、それは図書室だ。中学生が好きに本を買えるほど、金銭を持ち歩くのは難しい。なので学校図書を読む、そう決めた秀人は1年からの常連だった。


「また君か、もう読破したと?」


「ええ。」


「毎度早いから、今回は長編を持たせたつもりだったんだがな。」


「そうですか。」


「ならば次は…これだ。」


「どうも。」


「君の事だ。また明日には来そうだが、無理に読み進めるなよ。」


「はあ。」


図書室を出た秀人は下駄箱へ。靴を履き替えさっさと帰ることにしているが、たまに邪魔が入る。


「あの…高山さんですか?」


「違います。」


「ちょ、ちょっと待ってください!呼んでこないと、今月の小遣いが。」


「違います。」


「いや絶対そうでしょ!」


「おいおい高山くん、嘘は駄目だよ。」


秀人は一人が好きだ。それゆえに目をつけられ、からかわれた事も多々ある。それ程度なら無視して生きているが、中には手を出す輩も。彼もその一人で、秀人をいじめようとしたが返り討ちにあった人物だ。


「でさー高山くん。あのまぐれのせいで、俺ずっと笑われ者なんだよね。」


「誰ですか?」


「そ、それじゃあ自分は帰ります!」


「おうご苦労…忘れるなんて酷いじゃないか。君に1年の頃、殴られた被害者だよ。」


「覚えがないので。」


「…その態度がさ、気にくわないんだよ!」


その声と共に、被害者を名乗る男は殴りかかってくる。しかしあまりにもまっすぐなパンチ、秀人は伸びてきた腕を掴み、そのまま背後へ持っていき関節をきめる。


「いでででで!」


「あんま調子乗らないで、大人しくしてた方がいいと思うけど。君弱いしさ。」


「んだとテメぇ!」


背後にいる秀人に当てようと、掴まれてない手を裏拳のように繰り出す。しかし読んでいた秀人はしゃがむだけで回避、そのまま足を払い転倒させる。地面に打ち付けられた男に、秀人は追撃としてその腹部に蹴りを何発か。


「あがっ。」


「…これで懲りたとは思わないけど、僕に勝つならもう少し努力したら?」


相手は言葉を返せないようだったので、秀人はほったらかしに家へ帰った。


「ただいま。」


「あらお帰りなさい、学校はどうだったの?」


「まあ、楽しかったよ。」


主に雲の形を見ることが、とは決して言わない。

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