人嫌い、打ち上げ

「それでは!林さんの勝利を祝して!」


「「乾杯!」」


「あーおめでとおめでと。」


「…秀人…テンション低いね。」


「高くなる要素が無くてね。」


「先生!お肉焼けましたよ!」


「あーどうも。」


「き、今日は思いっきり食べないとね。」


「なんせ林くんの勝利祝い、盛大にやらねばな。」


「感謝。」


「…今までは…どうしてたの?」


「特にない。」


「まあそうよね。一緒に祝う人がいないのなら、次に備えるだけだもの。」


「そう。」


「それはー寂しいよーよしよしー。」


再び集まった七人が来たのは、3000円で食べ放題な焼き肉店だった。休日なので多少混雑はあったが、大山が予約していたのですぐ入れた。

大人数用の個室で、それぞれ席につく。


「…予約…ありがとね。」


「なんのなんの!これぐらい当然ですよ!でもすみません、勝手に場所を決めてしまって!」


「あ、謝ることないよ。僕だったら最後まで迷って、時間ばっかり使っちゃうから。」


「目的地が決まれば向かうだけ、それにこの程度で文句を言う者はいないよ。」


「助かる。」


「こーゆー食べほな店知らないからーありがたいよー。」


「私も。あまり食べ歩くことも無いから、ここにお店があるの知らなかったわ。」


「僕は家で食べる事が何より、どんな店より幸せだからね。」


「ありがとうございます!」


「…じゃんじゃん…やろ。」


「や、焼きは任せてよ。」


「うーむ…サラダも良さそうだな、誰か食べる人は?」


「はいはーい。」


「肉。」


「先にデザートでも食べようかしら。」


皆が思い思いに好きに時間を過ごしていく中、秀人はこつこつと自分のテリトリー内で食べ続けていた。


「うん、うまい。」


「…秀人…楽しい?」


「こうやって、自分が育てた肉を食べる瞬間は良いね。」


「…会話は…慣れた?」


「そもそもこうして来てる事が、立派な成長の証だよ。来ないために努力してたら、今この場にはいないって断言できるし。」


「…そうだね…秀人は変わったよ。」


「君に評価されるのがあれだけど、自覚してるから大目に見るよ。君だって、友達作り順調じゃないか。」


「…うん…秀人のおかげ。」


「適当言わないでよ。」


「…本当だよ…入学式の日に…話しかけて…良かった。」


「僕としては災難の始まり、今のところ人生最悪日だから。」


「…ふふ…知ってる。」


「先生!次は何を食べますか!」


「じゃあタン塩とホルモン。」


「麗華さんは!」


「…ビビンバ。」


「おお!ガッツリですね!」


「食べきれないとかやめてよね。」


「…みんなで…食べるもん。」


「お、焼けた。」


秀人もせっかく来たからと、食事としては大いに楽しんでいた。家にタマを残しているのが気がかりだが、帰りに高級缶を買って帰るつもりだ。


「先生!お持ちしましたよ!」


「はいはい。」


「今日はありがとうございます!」


「何を感謝してるのさ。」


「全部ですよ!来てくださって、応援も!全部です!」


「そりゃ約束だからね。前もって行くと言っといて、ドタキャンなんて人として無いだろう?」


「まあ先生の場合、最初から行かないと言われますからね!」


「ここ最近は、僕に聞くことなく周りが決めてる節があるけど。」


「そこは…すいません!」


「まあいいよ、次レバーね。」


「分かりました!」


「ど、どうも。」


「あれ、向こうで焼き担当じゃないの?」


「そ、そうだけど。高山くんと話す機会、今まで少なかったから。」


「言われてみると…遠足以来君から話してくること、ほとんど無いね。」


「あ、あはは…ごめんね。何を話したらいいか、よく分からないんだよ。」


「特に僕相手じゃ、話すだけで逆鱗に触れるからね。」


「そ、そこまで思ってないよ!ただその…高山くんと初会話があれだったから、嫌われてるかと。」


「なんだっけ…1人の極意を知りたいってやつだっけ。安心してよ、僕は人類皆嫌いだから、君だけ特別嫌いとかないから。」


「あ、安心…でも良かったよ。」


「そう思うと、今の君は1人じゃなくなっちゃったね。」


「ほ、本当にね。なんか高山くんといたら、楽しいことばかりだよ。」


「大袈裟だね。適当に生きてたって、これくらいのイベント一度は出会えるよ。」


「で、でもこの3ヶ月、まるで一生分だよ。友達…もできたし、まさか海に行くなんてさ。」


「まだ友達の部分に自信がなさそうだけど。」


「し、仕方ないって…今まで少なかったから。」


「まあ楽しみなよ。僕はふらっと消えて、また極意を使うから。」


「ま、まだ諦めてないんだね…これからもよろしくね。」


秀人は食べながらも思い返す、たった3ヶ月というのにここまで変わった環境を。


「はあ…」


「ため息は幸せを逃がすそうよ。」


「…聞きたいんだけど、なんで順番に来るのさ。」


「あなたに迷惑かけない、でも1人放っておくと心苦しい。そんな悩みの解決策よ。」


「いや僕1人の方が良いの知ってて、ただの嫌がらせでしょ。」


「まあ好きに捉えて。」


「で、君と話すことあったっけ。」


「私も来てみて、今それを考えているところだから。」


「じゃあいらなくない?」


「持ち時間の間は頑張るわよ。」


「また勝手に…」


「それじゃあ、あなたのおかげで私がどれくらい変わったかなんてどう?」


「凄く興味ない。」


「でも、あなたという人がどんな変化を与えたか。それに周りがあなたを放っておけない理由、考えるには知っておいた良いんじゃないかしら。」


「じゃあ話しなよ、僕は食べてるから。」


「まずそうね…あなたとは最初から話があったもの。他の人よりは苦労せず、この場に来たわね。」


「そうだっけ?」


「それで、クラスの人たちよりもっと面白そうな人達がいる。そう思えたわ。」


「まあこのメンバー、個性強いのは認めるよ。」


「あなたが一番強いけれど。」


「僕は人嫌い以外は、常識ある一般人だから。」


「…昼食会ができて、いろんな所に行ったわ。本の虫だった私にとって、いろいろ貴重な体験の日々よ。」


「無視するんだ。」


「あなたと会えたこと、感謝してるのよ?不本意だろうけれど。」


「けっ。」


「変化で言えば…明るくなったんじゃないかしら私。昔より喋る事が増えたし、活動的になったわ。」


「言ってて悲しくないの?」


「本さえあれば良かったのよ。でもみんなに会って、人と話すのも悪くないって感じたわ。」


「僕は感じないな。」


「あなたとの会話も、刺激的で面白いわよ?」


「そんなに刺激が強いなら、他所行ってほしいんだけどね。」


「無理よ。刺激が強いから、みんな来てるの。」


「じゃあ僕は逃げれないって?」


「あなたっていう刺激に、みんなはまっちゃったのよ。変な言い方だけれど。」


「僕は危ない薬か何か?」


「あら時間だわ。」


そう言って彩花は去り、その後ろには正子が見えた。どうやら続くらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る