人嫌い、遭遇する

「疲れた…」


「なあ高山くん。バイト休むのはいいけど、ここで食べる?」


「そうだぞ捻れ野郎。仕事休んでプールで楽しむとか、それで昼飯だけは食いに来るとはいい度胸だな。」


「店長、この店員客に失礼です。今すぐ解雇しましょう。」


「んだと?お前に敬語使うわけないだろ。」


「ふっ、プライベートと仕事も分けれないとか。」


「「あ?」」


「…君たち変わらないね。まあ正部くん、今日はお客さんだから。」


「ちっ、注文はどうされますか。」


「チェンジ。」


「その様なシステムは、当店無いものでして。」


「店長、サンドイッチとコーヒーを。」


「注文は私が聞きますので。」


「あれ?まだいたんだ。」


「…店長、こいつ殴ってもいいですかね。」


「正部くん。気持ちは凄く分かるから、休憩いってきな。俺がやっとくからさ。」


「だってさ。ぷぷ、仕事もろくにこなせない店員さん。」


「テメー覚えとけ。」


「君の顔なんて覚えてたら、吐きそうだから無理かな。」


「同じ言葉返してやるよ。」


正人は裏へ行き、店には秀人と店長のみだった。秀人はこの時間、客が少ないことを知っていたからだ。


「今日は客少ないですね。」


「まあいつも満席ってのも、疲れるからな。これくらいが良いのさ。」


「今日はすみません。僕は働きたかったんですが…連れてかれまして。」


「見てたから分かってる。高山くんの周りは、強引な人が多そうだ。」


「その通りですよ。」


秀人は食事が来るまで本を読むことにし、会話を止めた。店長も察してか仕事へ戻り、秀人には安らぎが訪れた。その時、来店を告げるベルが鳴る。


「いらっしゃい…ませ。」


「久しぶりですね店長さん。」


「つ、津河山さん!また来ていただけるなんて。」


「今日は店員さん、暇かしら。」


「あー…今日は休みでして。」


「そうなのね。じゃあコーヒー一杯くださるかしら。」


「喜んでお持ちしますとも!」


秀人は持っていた本で顔を隠す。店長が気を利かせてくれたが、見つかれば即アウトとなる。秀人は自分の気配を殺し、目の前の文章に集中した。


「はいどうぞ!」


「ありがとうございます…そうだ店長さん、聞きたいことがあったの。」


「何でしょうか津河山さん、サインなら入り口に飾らせてもらってます。」


「あの店員さん、名前はなんと言うのかしら。」


「えっと…個人情報になるので。」


「そうよね、失礼なことを聞いてしまったわ。」


「とんでもない!」


「ならもう一つ、あそこで本を読んでる彼なんだけど。」


「あー…なかなか好青年ですね。」


「いえ、雰囲気が店員さんに似てる気がして。」


「さ、さあ?今日は休みですから、どこかで遊んでるかと。」


「そうよね。休みをとった勤務先で昼食なんて…おかしいわね。」


「そうですよ!」


「…本当のところはどうなの?」


「…高山くん、助けてくれ。」


店長が折れた。秀人は顔を隠していた本を下げると、目の前に舞の顔があった。


「高山くんね、覚えたわよ。」


「僕を覚えたところで、何も良いことないですよ。」


「そんなことないわ、恩人の顔と名前を覚えれたもの。」


「脅しにでも使うわけ?」


「…本当に変な答えが返ってくる人ね。」


「じゃあそんな僕は忘れて、お互い離れた席でコーヒーを飲みましょうか。」


「相席、構わないわね?」


「高山くん…俺は仕事あるから頼んだぞ。」


店長は逃げた。テーブル席にいた秀人の向かい側に、舞は座った。舞が前にいても、秀人の読書は終わらない。


「何の本を読んでいるの?」


「読書中に話しかけないでほしいんだけど。」


「気になっただけ。気になることはその場で解決しないと、もやっとするのよ。」


「僕のせいじゃないでしょ。」


「そうよ?でもあなたが答えてくれないと、とても嫌な気分になるわ。そのタイトルを聞くまで、毎日来店しようかしら。」


「めんどくさいな…背表紙を見て調べたら?僕の口から言うつもりは、これっぽっちもないから。」


「…その本の実写化、私出てるわ。」


「そうなんだ。」


「もっと反応ないのかしら…無欲なのは知っているけれど。」 


「僕が好きなのはこの本であって、そこから展開される商業にはまるで興味ないよ。」


舞に聞かれたことを返答する秀人、そこへさらに来店のベル。


「先生!こちらに…」


「…秀人…見つけ…」


「もー秀人ーウチら置いて…」


「高山くん、ご飯に私抜きとは…」


「お、お昼にはちょうど…」


「探し…」


「…面白くなりそうね。」


「あら、あなたのお友達かしら?」


「…どうしてこうも、問題は大きくなるかな。」


秀人を探していた六人は、テレビでしか見たことない舞を見て固まってしまう。秀人はこの場から消えたいと、心から思った。

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