人嫌い、体調を崩す

人は無理をすれば倒れるか、体調を崩すものだ。それは誰にだって訪れ、避けられないものである。


「37℃…完璧に熱だね。」


遠足にて普段より疲れた秀人は、朝方自分の体調に違和感を感じた。まさか人付き合いで体調を崩すとは思っていなかったが、想像以上の疲れが溜まっていたらしい。


「1ヶ月の休みで平気かと思ったけど、イベント疲れは重いね。」


自分の状況をしっかりと把握しながらも、秀人は学校に連絡をいれることにした。無断欠勤などすれば親に連絡があり、何を言われるかわからないからだ。それに、いらぬ心配や面倒は起こしたくない。


「すみません、1年3組の高山秀人です。幡山先生はいらっしゃいますか?…ええ、遠足で拾ってしまったのか風邪を引きまして。」


それを聞いた幡山から帰ってきた言葉は、お大事にだそうだ。


「はい、安静にしてます。」


電話を終え、秀人は家にある薬を確認する。年のためと常備薬を置くことにしているのだ。


「風邪薬は…あるか。なら、飲んで寝るだけだね。」


特にやることもないので、おとなしく薬を飲み休む秀人。幸い食欲はあるので、軽く食べて横になった。


「はあ、そんなに疲れたかな。」


過去にも集団イベントはあった。欠席もせずに参加はしたが、ここまで顕著に現れる異変はなかった。しかし、それは秀人が一人でいたからに他ならない。


今回の遠足では、秀人は一人になることはなく常に誰かが側にいた。最後には五人になり、気づけば遊びの中にいたのだ。今まで経験してこなかった全てが一気に起こったために、ここまでの疲労が重なった。


「…まあ休めるのは嬉しいし、一人を満喫しないと。」


考えても埒が明かないと思った秀人は、すぐに寝ることにした。今はタマもいないので、本当に一人を過ごせる秀人。普通なら寂しさを感じ、誰かと繋がりを持とうとするだろう。しかし、秀人とってはこれ以上ない幸福だった。


どれくらい寝たのか、起きた秀人の耳に聞こえたのはチャイムだった。


「…なんだろう。開けない方が幸せな気がする。」


何かが届く日でもなく、親がタマを返しに来るのは週末のはず。このチャイムは予定になく、開ける必要もないと秀人は思った。


「先生!プリントを届けに来ました!」


「…寝てる?」


「あの高山くんだぞ。居留守ではないかな?」


「ありえるわね。」


「た、高山くん。大丈夫?」


聞き覚えのある声に、秀人は頭を抱える。開けても良いことはないし、開けなければ明日問い詰められそうだ。最近諦めを知った秀人は、今日相手をすることにした。


「…なにか用?」


「先生!お元気ですか?」


「…やっほ。」


「やあ高山くん。その様子だと、本当に居留守していたのかな?弱っている時こそ、先輩を頼りたまえ。」


「昨日ぶりね。」


「か、風邪はよくなった?」


「1度にいろいろ話しかけないでよ。見ての通り動けるし、話もできるさ。」


「では先輩!これがプリントです!」


「…来週…中間テスト。」


「分からないところは、私に聞くといいよ。」


「聞いたけど、あなた1ヶ月も休んでたのよね?勉強は問題ないの?」


「ぼ、僕は数学なら教えれるよ。」


「そっか。入院が長くて忘れてたけど、もう五月も終わりか。ありがとうさよなら。」


受け取るものを受け取ったので、素早くドアを閉めようとする秀人。しかし大山と正子にバレていたのか、閉めきる前に足を入れられた。


「さて先生、体調も悪いでしょうし夕飯は任せてください!」


「いらない。」


「今日はまだ一緒に食べてないだろ?」


「それは学校だけの話です先輩。」


「…いろいろ…買った。」


「なんでも食事会らしいわよ。私と彼の歓迎会…そう聞いたからきたのだけど。」


「か、感激だよ!まさか友達の家に呼ばれるなんて!」


「呼んでないよ。どうして話がそうなってるのさ、病人だよ僕。」


「なので!看病してる後ろで、歓迎会してます!」


「あいにくと、他の皆は家に家族がいて難しいそうだ。」


「…秀人…独り暮らし。」


「さすがに病人は休んでなさい。少しなら、掃除や料理を手伝うわ。」


「せ、精一杯頑張るよ!」


「…また熱が出そうだ。」


こうして、秀人家で急遽食事会が開かれた。独り暮らしというのは、こういったイベントで使われやすい。秀人はそれを学んだ。


「本当に気分悪くなったら帰ってよね。2日も休むと、学校に行きたくなくなるから。」


熱も引いて、完治している事は自分がよく知っていた。もし熱がまだあるようなら、本気で抵抗して入れるつもりもなかった。


「ではお邪魔します!」


「…失礼…します。」


「やっかいになるよ。」


「お邪魔するわ。」


「し、失礼します!」


秀人は周りがいくら騒ごうとも、寝ようと決めた。

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