惨状

「おい……!?」


2人で駆け寄り、アンが両の手枷を断ち切ってライヤが受け止める。


「息はしてるし、外傷も特にはない……」


もしくは、あったとしても自分で治しているか。


「ぁ……」

「起きたか! 大丈夫か!?」


うっすらと目を開けるヨル。

同時に魔力も感じられるようになり、損傷がないことに安堵する。


「ライヤさん……。すみません、ドジっちゃいました……」

「謝ることじゃない! 体は平気か?」

「まぁ、回復だけが取り柄なので……。おかげで苦労しましたけど……」

「苦労?」


事ここに至って今までの人生の話をしているわけじゃないはずだ。


ちょいちょいとアンがライヤの服を引っ張り、ヨルの内ももあたりを指さす。


「いや、いくらなんでも見れないけど……」


がんばって視線がそっちにいかないようにしていたのに。


「血の痕……?」


薄くなってはいるが、血が流れた痕跡があった。

それも、同じ経路で何度も。

やはり、自分で治していたのか。


「そんな……!」


あのアンが青褪めている。


「ヨル、あなた……!」

「まぁ、殺されるわけにはいかなかったので……」


無理に笑うヨルとアンはわかっているようだが、ライヤには状況がつかめない。


「拷問でもされてたのか? ヨルを拷問しても出てくる情報は諸国連合のものだろ? 戦争が終わった今、他にもっと確実性のある方法があるはず……」


ぶつぶつと考え事を続けるライヤからアンがヨルを奪い取って抱きしめる。


「よく我慢したわね……!」

「これでも先生ですから……。生徒の皆さんは守らないと……」


スッとヨルがライヤの頬に手を伸ばす。


「初めてじゃなくなっちゃいましたけど、ね」


その言葉でようやくつながる。

そして内ももの血痕にも察しが及ぶ。


「まさか、何度も……?」

「あはは、初めてを奪うのが好きみたいで……。私は傷が治る前であれば外傷として治せますから……」

「笑い事じゃないだろ……!」


ヨルは女性として汚されたのだ。

どこの誰とも知らないクソ野郎に。

そして初めてを奪うのが趣味だというそいつに生徒たちが襲われないように。

自分で自分の膜を再生させ、何度も相手をしたのだと。


「攫われちゃった時点で先生としては失格ですから……。せめてってことで……」

「そこまでする必要なかっただろ……」

「私は王国の人間じゃないですから……。このぐらいしないと……」

「お前、未だに……」


まだ、抱えて生きてたのか。


「……アン、帰って来たやつの相手は俺にさせろ」

「無理な相談ね。私もちょっと抑えられそうにないわ」


チリチリとアンの周りに火の粉が舞っている。

魔力制御を上達させて魔力が外に漏れ出ることはなくなったはずだが。


それだけ、抑えが利かないのだろう。





[あとがき]

こういう話を書いている時は心が痛いです。


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