第95話


なんだか結が素直に言う事を聞いてくれて嬉しくなる。だけどやっぱりまだ眠い。私は結の背中に腕を回しながら目を擦った。


「結……やっぱまだ眠い。キスしなくていいから離れないで?」


さっきと言ってる事が違うのは自分でも分かっているが眠気には勝てない。私は結が怒るだろうなと思っていたら結は怒りもせずに私の頭を撫でてくれた。意外な行動に少し驚く。


「もう少しだけだからね。全く」


「うん。ありがと」


頭を撫でてくれる結の手が気持ちいい。私は思わず目を閉じてしまっていた。結の温もりが私を眠りに誘う。


「泉」


「ん……?なぁに?」


結の声のおかげで一瞬目が開く。結は私を見つめているから首を傾げたらキスをしてくれた。さっきは恥ずかしがっていたのに恥ずかしくなさそうな結は私の頭を抱いてきた。


「そんなに眠いの?昨日早く寝たのに」


優しい結の声に私は結に擦り寄って答える。


「うん。……結も暖かいし、眠い」


「泉の方が暖かいでしょ」


「そうかな……」


「そうだから。それより髪ボサボサだし。だらしない顔して……。いつもと全然違う」


ちょっと笑いながら結は私の頭を本当に優しく撫でてくれる。結がこんな事をしてくれるなんて滅多にないだろう。私は甘えるように結にくっついた。


「いつもと同じだよ。結もっと頭撫でて……。気持ちいい」


「いつもはもっとちゃんとしてるでしょ。前からずっと世話は焼けるけど」


結の言葉は間違っていなくて私も笑ってしまった。


「いつもごめんね結。ありがと」


「私は彼女だから世話なんかいくらでも焼くから。それに、泉の事は私がなるべくやってあげたいし……」


「結は本当に優しいよね。いっつも結に頼ってるのに…。結の優しいとこ好きだよ」


結は私の事を必要以上に気にかけてくれる。結の優しいところは本当に好きだ。結は私の頭を抱き締めて撫でながら落ち着いた様子で呟いた。


「……泉の方が優しいでしょ。誰にでも、いつも優しいじゃん。……やっぱり見てると嫉妬しちゃうけどこうやって泉と一緒にいれて、泉が甘える人は私だけなんだなって思うと嫉妬する自分が情けない…」


「……なんで?結は嫉妬しやすいから仕方ないじゃん」


以前もデートで言っていた。結はやっぱり気にしているのだろうか。


「だって……エッチもして好きって言い合ってこうやって一緒にいるから泉の気持ちも分かってて信用してるはずなのに……泉が誰かに取られたり、いなくなったりするかもしれないって考えてる。そんな事ないのに、急に不安になって……モヤモヤして……私、全然だめ。……信用してるのにごめんね泉。めんどくさくて、重いよね…。ちゃんと気を付けるから」


「謝らなくていいよ。人それぞれ感じ方も考え方も違うんだからいいよ」


結の気持ちは大きいだけだ。結は前も悩んでいたし悩みをどうにかしてあげたい。私は結の手を取って結と目を合わせた。不安そうな申し訳なさそうな顔はさせたくない。


「あのさ、私の事もっと束縛していいよ?」


「え?……なに言ってんの?」


結が不安に感じる事があるなら私は縛られても構わない。結の気持ちが私には一番重要なのだ。


「結が安心できるように束縛してって言ってるの」


「そんなの……道徳的にも倫理的にもおかしいでしょ」


「でも、そういう話じゃないし理屈じゃないじゃん。分かってるでしょ」


「………そうだけど」



結は益々顔を歪めた。真面目な結からしたらそんな事をしたくないのは分かる。でも、恋愛に正しいも正しくないもない。これは人それぞれだ。


「私は結のためならいいよ。結を安心させてあげたい。なるべく悩ませたりしたくないし、人によってこういうのは違うんだから束縛しちゃダメなんてないよ」


それでも結は悩んでいるようだった。


「でも、……よくない。……泉に…負担がかかるし………」


「だから大丈夫。平気だからしよう?結の言うこと聞くから教えて?」


結は教えてくれる。お互いに好き同士なら変じゃないしおかしくない。

結は私の手を強く握ると私を切なげに見つめた。


「…言っても好きでいてくれる?」


「もちろん。ずっと好き」


そんな確認不要なのに結は本当に繊細だ。私も手を握り返すと結はやっと秘めていた気持ちを呟いた。


「……私以外にあんまり笑わないで?話すのも触るのも私以上にしないで。…それで私だけに優しくして、私だけに甘えてほしい。……他の人には絶対しないで……。全部私だけ。泉が頼るのも、好きでいるのも私だけ。……私だけじゃないといや……」


「うん。全部結だけにするよ。結が一番特別だから結だけにする」


私に強い愛情と執着を見せた結は尚も続けた。


「うん。あとね、あと……私の前で他の人とあんまり仲良くしないで?泉が笑ってるの見るの胸がざわつくの。それから、……いつも何してるか知りたい。……私、泉の事全部知りたい。何をするのか、どんな人といるのか……知りたい……」


「いいよ。全部教えてあげる。これからちゃんと全部教えるし結の言った事全部守るよ。ちょっと難しいのもあるけどそれでいい?」


結の秘めていた思いは私を離さないようにしたいが故なのだろう。かと言って束縛はできないから大きく膨らんでしまったみたいだが、その枷は私が外す。結が悩まないで不安にならないで済むなら別に良いんだ。


結に笑いかけたのに結は目を潤ませて謝ってきた。


「……ごめん泉」


「なんで?」


「だって私、……ずっと、こういう事考えてた。平気って言って、割りきろうとしてたのに……無くならなくて……泉をずっと束縛したいと思ってた。……私、最悪だよ。泉に言われるの待ってたみたいで、ずるい……」


結は涙を溢すから胸が苦しくなる。ダメだと思っていても膨らむ気持ちを抑えられなくて真面目な結は苦しんだ。でも逃れられなくて私と一緒にいる事でそれをどうにか和らげていたんだ。それなのに私に暴露して意見を通そうとしている自分が身勝手で都合が良いと思ったのか。


「そんなの別にいいよ。気にしないで?」


それでも嫌いになんてならない。結が私を好きでいてくれて、好きなあまりに束縛してしまいたくなるなら嬉しい事だった。だってそれは私を必要としてくれていて離したくないと思ってくれているという事だから。私としては喜ばしいのだ。何もない私を好きでいてくれるんだから。


「……気にする……。泉に、嫌われたくないもん…」


「結平気だよ」


結は涙を流すから私は結を抱き締めるように背中に腕を回した。私を考えてくれる結が愛しくて早く泣き止んでほしい。


「した方が不安じゃなくなるでしょ?」


「……うん」


「私は結が好きだから平気。結にはいつも色々してもらってるから嫌じゃないよ。そんな事思わなくて良いから泣かないで?そういう結も大好きだよ」


結を受け入れないはずがない私は強く抱き締めてあげた。もう泣かないように頭を優しく撫でていたら結も抱きついてきた。


「ごめんね泉。ありがとう。大好き…」


「うん。私も」


結が納得してくれてよかった。私は体を離すと軽くキスをした。


「もっとなんでも言ってね?結のためなら私何でもするから」


「うん……。ありがとう」


結もキスを返してくれて嬉しくなる。私達はその後少し抱き締めあっていた。

帰り際まで結と私はくっついていた。結の気持ちを聞き出した私は改めてルールを決めた。一日の予定を話す事やどんな人と会うのか、その人はどんな人か説明する事等結が不安にならないように細かく決めた。


結はその間も少し気にしたような顔をしてたから気にしないように言い聞かせてキスをしてあげた。結が私をそこまで束縛したいと思ってくれている事には驚いたが可愛らしいなとも思った。結の新たな一面が愛しいのだ。



結とおうちデートをしてから冬休みはあっという間に終わった。おうちデートの日に写真を撮っていた私はその写真を見ながらずっと浮かれていた。結と毎日連絡はしていたけれどあのデートのおかげでより結が愛しくなった気がする。


冬休み明けの学校はほとんど結と一緒にいた。休み時間も結のところに行ってみたり教室にいても結に連絡をしてみたり私は結にしつこいくらい愛情を伝えていた。それに対して結は至っていつも通りだったが文面では少し照れていたので良しとする。


しかししばらく経ったある日、私は千秋から衝撃的な話を聞いた。

千秋がそれとなく話してくれなかったら私は知らずに過ごしていたと思う。

千秋は結の誕生日の話をしてくれたのだ。

年明けにパーティーがあって結の誕生日も祝ったと。


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