第46話
翌日、私は朝早めに起きて結の家に向かう準備をしていたら琴美がまたいきなりやって来て結の家に連れてかれた。
いきなりの琴美の行動に私は驚いていたけど結はこうなるのを予測していたのか特に反応を見せなかった。少し琴美には呆れていたけど私達を普通に迎え入れてくれた結は早速私のために勉強を教えてくれたんだけど、私はいつも通り二人の真ん中に座っていたらべったりくっついていた琴美が私のノートを見ながらはしゃぎだした。
「琴美これ分かるよ!これ適当に数字を当てはめて計算したらできるやつだよね!」
テンションが高くて楽しそうな琴美に結はもううんざりしていた。
「……琴美うるさい」
「何で?これ琴美が泉に教えてあげたい!」
「混乱するからやめて」
琴美に容赦ない結はそう言ってから私に勉強を教えるのを再開したけど琴美は諦めていなかった。
「ねぇ!結ばっかりずるい!琴美も泉のために何かしたい!」
結に抗議するように言った琴美に結は一瞬琴美をウザそうに見てまた教科書とノートに目を向ける。今日は喧嘩しないでほしいけど大丈夫だろうか、私は内心不安だった。
「じゃあ静かにしてて」
「えー、やだぁー。静かにしてたらつまんないもん」
「チッ……ちょっと待ってて」
ついに舌打ちをした結に雲行き怪しいなと思っていたら結は立ち上がって自分の綺麗なデスクから何か箱のようなものを何個か持ってきて琴美の前に置いた。
「これでもやってて」
「ん?あっ!これ琴美の好きなやつ!ありがとう結!」
席に戻った結は特に何も言わないから私には何だかよく分からなかった。なんだろう、私は箱みたいなのを開けて中身を広げた琴美を見ていたらやっとそれがパズルなのが分かった。
箱にはパズルの完成図の絵が描いてあるけど明らかに細かいし難しそうだった。
ていうか、結って琴美の扱いよく分かってんな。
「ほら泉、さっさとやるよ」
「え、あぁ、うん」
琴美はそれきり独り言を言いながらパズルに夢中になっていて私の勉強は捗った。
休憩に入るまで琴美は楽しそうにパズルをやりながら私に時おり話しかけてきたけど琴美はパズルを早い段階で形にしていた。
パズルが好きなのは意外だけど琴美の手に迷いはなくて琴美が嵌めようとする場所に必ずパズルのピースが入る。ただ楽しそうにピースを見るだけで場所が分かったかのような琴美はやっぱり私達の理解を越える。
「泉パズルできた!誉めて?」
いざ休憩に入ると琴美はできあがったパズルを私に見せてきた。風景の空がメインの細かいパズルは私がやったんじゃ一日かかりそうなのに普通に凄いと思う。
「凄いじゃん。早いね琴美」
「ふふふ、やったぁ!誉められた!嬉しいなぁ~」
琴美は上機嫌に笑うから私も笑ったら結に足を思いっきり踏まれた。
「いっっった!!!」
「琴美を調子に乗らすなって前から言ってんでしょ」
あまりの痛さに跳び跳ねそうになったけど何とか我慢した。誉めただけなのに結は気に入らないみたいだ。ていうか、琴美絡みだといつもキレてるから気を付けないと。結は眉間にシワを寄せていたけどため息をついて椅子に凭れた。
「……それより、前よりはよく勉強ができるようになったみたいで安心したわ」
「え、そりゃそうだよ。千秋も結も教えてくれるし私もちゃんと頑張ってるから」
私はじんじんする足が痛く思いながら結に真面目に答える。私は結と千秋のおかげで本当に前よりは分かるようになっている。自分での勉強は怠らないし教えてもらう以上分からないは減らしたい。
「ふーん……」
全く興味が無さそうに私の話を流してきた結は九条さんが休憩の時に持ってきてくれたお菓子を食べた。何かまた地雷踏んだ?と思いつつ苦笑いしながら私は一応お礼を言ってみた。
「あー、あのさ、いつもありがとね結。結のおかげで本当に勉強分かるようになったし本当に助かってるよ。私にわざわざ付き合ってくれてありがとう」
「……別に、困ってたらお互い様でしょ」
チラッと私を見た結は私から目を逸らすとそのままお菓子を食べ続ける。言い方はいつもの強気な感じだけど結は照れているみたいだ。可愛いなと思うけど一応結なりに隠していると思うから私はフォローを入れようとしたら私の隣から顔を出した琴美は余計な事を口にした。
「結照れてるー!分かりやすーい!」
「こ、琴美ちょっと…」
結をキレさせないでと思って楽しそうな琴美を止めようとしたけど結はもう耳を赤くしながらキレていた。
「はぁ?照れてないし。琴美本当にウザいから黙って」
「えー?やだぁー、結照れてて面白いんだもん。泉に惹かれたの?泉って優しいもんね」
「はぁ?あんたねぇ…!」
結はついにイラついたように立ち上がろうとしたから私は焦ってとにかく違う話題に流そうと思った。
「あっ!あのさぁ!えっと、私またピアノ聴きたいな?前に結が言ってたエレクトーン?も聴きたいんだけど……」
眉間にシワを寄せて表情を歪めている結に笑顔で明るく提案してみた。これで流れてくれと神に祈るような気持ちでいたら琴美は私の腕に更にくっついてきた。
「琴美もピアノやりたい!結ピアノやろー?エレクトーンもやりたいし!」
また余計な事を言い出すかと思ったけど賛同してくれて助かった。結は小さくため息をついたけど同意してくれた。
「…じゃあ、ピアノからやる?」
「うん!琴美も弾く!」
琴美は楽しそうに笑うと結のグランドピアノに我先に向かって弾く準備を始める。琴美はピアノ弾けるんだと意外に思いながら私はグランドピアノのすぐ近くに椅子を用意しておく。結と琴美は二人でピアノを弾く椅子に座っているけど二人で弾くのだろうか、二人は仲良さげに話していた。
「結、琴美いつものやつが良い」
「あんた弾けんの?」
「え?うん、大丈夫だよ。たまにやるし途中で代わりながらやろ?」
「……はしゃぎ過ぎないでよ」
「楽しくなっちゃったら分かんない」
何を弾くのか予想もできないけどピアノって二人で弾けるんだなと感心していたら琴美が私に顔を向けた。
「泉聴いててね?琴美頑張るから」
「え、あぁ、うん。琴美も結も頑張ってね」
ピアノに向き直る琴美。それにしても二人は並ぶと品の良い上品な姉妹みたいでピアノがよく似合っている。私は二人が鍵盤に指を置くのを何だかワクワクしながら見ていたらいきなりアップテンポな演奏が始まった。これは結の好きなシング・シング・シングだ。二人で分担して弾いているみたいで結が一人で弾いてくれた時よりもダイナミックで華やかでメロディーが踊っているみたいだった。それは聴いていて本当に気分が高揚して楽しかった。
楽譜を見ていないのに二人は息も何もかも合っているようで結は伴奏を、琴美は主旋律を弾いていて音が全く外れていないし絶妙に合っている。二人は間違いもせずに弾いているのか、私は音にも聴き入ってしまうが二人が本当に楽しそうに弾く姿に目が離せなかった。
いつもは言い合っているのに何だかんだ仲が良いのが分かる二人の様子に笑顔になっている私がいる。二人ともこんな時だけ嬉しそうな顔をして、それが私には嬉しかった。
「結!」
二人は流れるように美しくピアノを弾いていたのに琴美がいきなり結を呼ぶと結が弾いていた方の鍵盤に手を持っていって結が弾いていた伴奏を弾く。結は琴美のその合図に鍵盤から手を離すと椅子から立ち上がって琴美が座っている方に移動した。それを見計らって琴美は同じ音を繰り返しながら結が元々座っていた方に移動する。
選手交替か、私はそれにすらワクワクしてしまっていた。一つの曲でこんなに楽しくてワクワクできるなんて、私は二人を見ながらこれからどんな風に弾くのか楽しみで仕方なかった。
結が主旋律を弾きだしてからもそれはそれは楽しかった。琴美も結も本当に気分が明るくなるようなピアノを弾く。跳ねるような軽快なリズムに綺麗な音を乗せて優美に弾く様は私の心を掴んで離さない。
楽しそうな結を見ていると私はいつの間にか胸が高鳴ってしまっていた。こんな時にドキドキしてどうするんだと思うけど私の好きな結の笑顔を見ると気持ちが溢れてしまいそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます