第10話
勉強会当日、私はしっかり身支度を整えて家を出て待ち合わせの駅できっかり十分前には待っていた。
しかも、駅でちゃんとしたお菓子も買った。あんなお嬢様の家に行くんだから失礼のないようにしないと。私は結が来るのをそわそわしながら待っていたら結は学校でよく見かける大きな高級車でやって来た。
何か明らかに普通に走ってる車と違うから遠目で見ても分かったけど駅のロータリーに入ってきた車はたぶんベンツってやつ何だろう黒光りしていて高級感が漂っている。私の近くで止まった車からまずはスーツの男の人が出てきて車の後ろのドアを開けるとやっぱり中からは結が出てきた。
可愛らしいブラウスにスカート、結は生粋のお嬢様スタイルで颯爽と私の元に来た。
「おはよう、あんた早かったんだね?良い心掛けだわ。早く行くよ」
「あっ、はい」
制服じゃなくてもお嬢様なのが滲み出ていて可愛くて羨ましく思うけど口調はいつも通りだった。千秋達の前とでは大違いだ。可愛いけど恐怖を感じた私は急いで結に付いていくと高そうな車に乗った。
こんな車乗ったことねぇ、家どこなんだろ。私が緊張しながら車の中できょろきょろしていたら結はウザそうに言った。
「田舎臭いんだけど」
「あっ、はい。すいません」
何かもう謝るのが普通になってきてるけど私はきょろきょろするのをやめた。
「あんた、次の中間テストは前よりも点数取らせてやるつもりだから今日は真面目にやってよ?」
「勉強教えてもらう側なんだから分かってるよ。真面目にやるに決まってんじゃん」
真面目にやらないはずないだろ。私は真面目に答えたのにあんまり信用してなさそうな顔をされた。
「だったら良いけど、今日で分からないとこは全部潰すからね」
「はい。よろしくお願いします」
私の全く信頼がない感じは結が最初の喧嘩をしていたのもあるが、千秋の事もあるんだろうけどあんな投げられといて信頼が失くなりそうな事をする訳がないのに失礼なやつだ。ていうかまず顔と目線が失礼だよね。
何かしら負の気持ちを持ってそうな顔するし本当にハエを見るような蔑んだ目で見るし、怖いから言えないけど。
しかも、こんなぞんざいな扱いされるの初めてで嫌とか思う前に反応できないわ酷すぎて。道端のゴミ位にでも思われてんのかな?私の存在切なっ。
そんな風に思っていたら何か凄い大きな門を潜った。着いたのかなって思っても回りは木々に囲まれている。ん?家は一体どこにあんの?結にバレないように回りを伺っていたら大きな噴水が見えてきてその後ろに城みたいな家が見えた。私は驚愕した。
この噴水は所有してんの?ここは公園かよ。家でかいし、病院か何かなの?何人で暮らしてんの?私は噴水のデカさにも驚いたけど家のあまりのデカさに面食らった。
「ほら、早く行くよ」
いつの間にかスーツの人が車のドアを開けてくれて結はめんどくさそうに私に声をかけてから先に降りてしまった。私も続けて早く降りると結は城みたいな家のドアをまたスーツを着た人に開けてもらっていた。こいつはマジでお嬢様だ。
未知の経験に私はどよめいておやおやしながら結の後ろに付いて行って家の中に入る。
ホテルみたいに綺麗で広い家の中は高そうな絵やインテリアが置いてあって豪華な照明もあった。そして庶民には分からないような高い価値があるであろう置物みたいな物が置かれていた。
私は何人靴脱ぐんだよって位広い玄関で靴を脱いでこれまた高そうなスリッパを履いたらワイシャツにエプロンをつけたスーツの女性が私達の元にやって来た。
「お嬢様お帰りなさいませ。そしてお友達の泉様もよくいらしていただきました。私はお嬢様専属のメイドの九条です。家の運転手に何か不備はなかったでしょうか?」
綺麗な印象の九条さんはにこやかに言うから私は慌てて答えた。不備があるのは私だよ。
「ないです。全くないです。わざわざ迎えに来ていただいてありがとうございます」
「いえいえ。ないなら良かったです。今日はお嬢様と泉様のためにお菓子を焼きたいのですが何か嫌いな物はありますか?」
「それもないです。あの、私の事はお気になさらないでください」
下々の身としてはお菓子を焼かせる何て申し訳ないけど九条さんは綺麗な顔をして笑うだけだ。
「そんな事はできません。お嬢様のお友達ですから。ではお菓子を焼いたらお嬢様の部屋に伺いますので今日はお勉強頑張ってくださいね」
「あ、はい。すいません、ありがとうございます」
私は九条さんのいい人ぶりに感心していたら結はめんどくさそうに口を開いた。
「九条わざわざ出迎えないでいいって言ってんでしょ。私いつものが良いからいつものも作ってよ」
「はい。もちろんです」
「さ、早く行くよ」
結は九条さんにも私と同じように悪態をついてからスタスタ歩いて行ってしまった。あいつこんないい人に何てやつだ、さすが結。私は九条さんに頭を下げるとバカ広い家を結の後ろに付いて歩いた。
歩いていると結のお嬢様ぶりには感心する。結が通るだけで使用人のような人達は頭を下げるし結は僅かに頭を下げてるけど顔は私といる時と一緒だ。ていうか、家が広くて迷いそう。
辺りを見ながら階段を上って何個目かのドアの前で結はやっとドアを開けた。
やっとかと思いながら私も結に続こうとしたら部屋の中を見て驚いた。
中もこれまた広いしまた部屋の左右の奥に扉がある。どこに続くのか気になるけど部屋の右側には高級そうなデスクに棚、そして家族で座るような大きなテーブルと椅子まで用意してある。あと部屋の左側には映画館みたいなでっかいテレビに高級そうなソファーと棚にメダルとか賞状とかトロフィーがこれでもかって位飾られてあったが、何より驚いたのは部屋の真ん中にある大きなグランドピアノだ。グランドピアノって学校でしか見た事ないんだけど所有してる人いるんだね。
金持ち過ぎてたまげた私は部屋の前で固まってしまった。
「?早く入れよ。何してんの?」
そしてまたしても結にウザそうな顔をされる。私は謝りながら部屋に入るけど何かもうどこにいたら良いのか分からなくて挙動不審になっていた。
「あんたどうしたの?キモいなぁ。早く座って」
「…あ、うん。座るわ」
結は大きなテーブルにある椅子に座るとテーブの横にあった小さなワゴンから大きなデキャンタに入った飲み物をコップに注いだ。私は座ろうと思ったけど席ありすぎるし何かどこに座ったら良いのか分からなくて真ん中に座った結と反対側の端に座った。
「何でそこに座んの?私の隣に座るだろ普通」
「あ、ごめん何か頭が混乱してて」
こんなでかいテーブルに座った事がない私は庶民丸出しだった。今度から困ったら結の隣に座ろう。私は焦りながら結の隣に座ると結はさっきの飲み物を入れたコップを私の前に置いた。
「で、あんたどの教科が分からないの?」
部屋広すぎて落ち着かない私に結は髪をウザそうに後ろに払いながら言った。私はキレられるのを覚悟してちょっと気まずいけど答えた。
「大体ほとんど」
「は?だから具体的にどれよ」
「だから全部。ほぼ全部分からなかったり分かっても応用はできなかったりするよ」
あぁ、言っててバカなの再確認するけど一生懸命やっても私にはこれが限界よ。何言われるかなと思っていたら結は大きなため息をついた。
「じゃあ、最初は数学からね。もう来週だからテスト範囲しかやらないけどしっかりやるから分かんなかったらすぐ言って」
「うん、ありがとう」
結は高級そうなデスクから何冊か教科書とノートを持ってきた。私もノートとか色々準備する。準備をしながら結が意外にも暴言を言わないのに驚いた。もっとバカにすると思っていたから。
「なんか、もっと色々キレられると思ったけど、本当にありがとうございます」
私は先にお礼を言っといた。また後でも言うつもりだけど。結はそれに数学の教科書を開きながら真面目な顔をして答えた。
「できないからって笑ったり何かするはずないでしょ。そんなクズみたいな事私がするとでも思ってんの?あんた友達いないみたいだし聞く相手もいないならできなくても当然の話だし私は今友達だからちゃんと助けてやるっつーの」
「……結本当にありがとうね。助かるよ」
言葉遣いは悪いけど結の根の良さには私をぞんざいに扱う事を忘れる位嬉しく思う。だけど結はお礼を言ったのにいつもの舌打ちを私にしてきた。
「チッ……うるさいな、さっさとやるよ」
それはただお礼を言ったのに少し照れているみたいだった。
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