第25話 事件解決は速やかに
本格的に事件を解決すると言っても、既に探偵タロットの能力で、事件の大筋は掴んでいる。
やる事と言えば、犯人を特定する為の、詰めの作業くらいだった。
「それじゃあ、やりますか」
俺はふうと息を吐いた後、徐にロレンの両腕を持つ。
「平君?」
「レビィ、ちょっと動かすから手伝って」
その言葉にレビィが頷き、二人でロレンの体を横にずらす。
「……あった」
ロレンが寝そべって居た芝生の中心。
そこだけ芝生が抉れていて、土が露出されて居た。
「何これ?」
「弾痕だね」
「弾痕?」
レビィが首を傾げる。
俺は小さく頷いた後、ロレンを見下ろしながら説明を始めた。
「さっき探偵タロットでロレンの体を調べたら、体の中心に穴が空いていたんだ」
「そうなの?」
「うん。多分ロレンは、ワインを飲んだ時に、どこからか狙撃されたんだと思う」
そう言いながら、今度は芝生の剥がれた土面を見つめる。
「芝生の剥がれた周辺には、金属のような物は検出されなかった。つまり、これは石か土を利用した、長距離狙撃魔法による殺人だ」
「どうして、長距離の攻撃だと断言出来るのですか?」
後ろに居たグラスが尋ねてくる。
「穴の抉れ具合から、飛んで来た物の大きさは、親指程の大きさと言う事が分かります。そして、その物質は、ロレンの体を上から斜めに通過している」
自分の腕で、飛んで来た角度を表現して見せる。
「さて、この角度で狙撃されたと考えると、犯人が居る場所は……」
腕の先を三人で眺める。
そこにあったのは、この広場を一望出来る小さな山。
「あそこだ」
そう言って、安堵の息を吐く。
何故安堵の息を吐いたか。
それは、その山がある場所が、レイン帝国領だったからだ。
「グラスさん。レイン帝国には、あの山からこの男をピンポイントで狙撃出来る術者は、居ますか?」
「……」
難色を示すグラス。
恐らく、自国の戦力についての話は、したくないのだろう。
「レビィ」
「私!?」
「コルカ王国に、これが出来る人間は?」
「えーと、一流の術者であれば、出来なくも無いだろうけど……」
「けど?」
「これだけの狙撃精度を求めるなら、現場に術の軌道をサポート出来る人が居ないと、多分無理だね」
「と、言う事は……」
俺は眼鏡のタロットで、皇帝(エンペラー)の能力を発動する。
「ルビー、聞こえる?」
「はーい。バッチリ聞こえてるよお」
「俺達が会話している最中に、変な事を話してる人居なかった?」
それを聞いたルビーがふふっと笑う。
「いやあ、まるで背中に目玉が付いているかの様だね」
「つまり、居たと」
「うん。長谷川君達の真後ろ。広場の外れに居る青い服の男と、その横に居る緑の服の男」
それを聞いた瞬間、レビィがそちらを向こうとする。
「刑死者(ハングドマン)」
「ムグゥァァ!?」
「あからさまに見たら、犯人を特定出来たのがバレるから」
探偵タロットに拘束されて、地面をのたうち回るレビィ。
やがて、くたりと地面に寝そべったので、そこで拘束を解除してあげた。
「……平君は酷いね」
「レビィの反応が速すぎるんだよ」
「誉められた!」
誉めてない。
「ルビー」
「はいはーい」
「ルビーの『言質遠聴』で、何ヵ所まで聞く事が出来る?」
「流石に一ヶ所だけかなあ」
「それじゃあ、その男達の会話だけ盗聴と録音しといて」
「はい了解」
言った後、俺は皇帝の能力を解除する。
そして、ゆっくりとグラスの事を見た。
「グラスさん。後ろの二人は、レイン帝国の人間で間違いありませんね?」
「……そうですね」
歯切れの悪い返答。
しかし、もうグラスには、協力を拒む事は出来ないだろう。
「もう察して居るとは思いますが、これはレイン帝国の内輪揉めです。これを公表すれば、立場が悪くなるのはそちらです」
無言で答えるグラス。
「だから、こうしませんか?」
俺はニコリと微笑む。
「今から俺は、あの二人と狙撃手を無力化しようと思います。そしたら、後はそちらで勝手に処理して下さい」
それを聞いたグラスが目を丸める。
「……それで、宜しいのですか?」
「はい。その代わり、犯人を捕まえる為に、グラスさんにも少し協力して貰います」
「私の出来る事であれば」
胸に手を置くグラス。
それを見て、俺も小さく頷いた。
「レビィ」
「何ですか」
「俺が色々勝手に決めてしまったけど、それで良いよね?」
寝転がったままのレビィ。
やがて、ゆっくりと立ち上がり、やれやれと言う表情で頷いた。
「オーケー。ボスの了解も取れた」
俺は眼鏡を外してポケットにしまう。
さあ、犯人を一網打尽だ!
「グラスさん。貴女の生物を操る術、何体まで行けますか?」
グラスは一瞬苦い表情を見せたが、覚悟を決めて口を開いた。
「三体です」
「それは、遠方の生物もいけますか?」
「はい。それと、魔法生物を直接召喚する事も出来ます」
「では、上を飛んで居る鳥を一体。それと、高速で移動出来る、小さな生物を一体、お願いします」
「分かりました」
グラスの青い目が淡い光を放つ。
そして。
「幻視隷属」
その言葉と同時に、グラスの前に黒色の鳥と猫が現れた。
「犯人との距離を考えて、自然生物よりも召喚獣の方が良いと判断しました」
成程。良い判断だ。
それならば、俺もすぐに準備しよう。
(愚者と恋人達、解除っと)
発動していた能力を解除して、眼鏡を胸ポケットにしまう。
そして、そのままポケットから探偵タロット本体を取り出した。
「それじゃあ、まず二枚」
手元でタロットを三枚に増やし、鳥と猫に一枚ずつ咥えさせる。
「そして、この一枚は……」
タロットを山の方に掲げる。
「死神(デス)」
追跡のアルカナ。
カード越しに見えない光が走り、山の東側にポイントが表情される。
「グラスさん、作戦です」
「はい」
「スタートと同時に、鳥でポイント上を飛行。真上通過時にタロットを投下。それに合わせて、今度は猫を走らせて、後ろの男達の中心にタロットを設置」
「かしこまりました」
真剣な表情のグラス。
俺はそれに小さく頷きかけた後、グラスにしか聞こえない程の小声で言った。
「スタート」
高速で飛び立つ黒鳥。
死神で記された場所に到達すると、足で持っていたタロットを放す。
「平君!」
レビィの叫び声。
ゆっくりと振り替えると、青と緑の男二人が、こちらに魔法鍵を掲げていた。
「……遅い」
既に猫は仕事を終えて、二人の足元には探偵タロットが刺さっている。
後は、能力名を口にするだけ。
「塔(タワー)」
広域感電。
山の上から光が走り、それと同時に二人の男も感電する。
黒い煙を吐いて倒れる二人の男。
山に居た術者も、今頃はアフロにでもなっているだろう。
「事件解決……かな」
ふうと息を吐き、探偵タロットを胸のポケットにしまう。
呆然としているレビィとグラス。
今回の事件は派手に動き過ぎた気もするが、戦争になるよりはマシだろうと思った。
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