第23話 今回は最初から力技です

 交流会が行われて居る広場の中央。

 貴族達が倒れている人物を取り囲み、各々小声で話をして居る。

 俺とレビィはその最後方から、静かに成り行きを眺めて居た。


「リビィ、間違っても飛び込むなよ」

「え? 何で?」

「俺達はただの招待客なんだよ」

「ああ、そっか」


 テヘッと笑うレビィ。

 彼女は稀に真理を突くのに、基本的には抜けている。

 ここで突っ込んで捜査など始めたら、国際問題になると言う事を、きちんと理解して居るのか不安だった。


「でもさ、今この場所には探偵が居ないんだよ。どうやって事件を解決するんだろ?」

「いや、居る事は居るんだよ。動けないだけでさ」


 首を傾げるレビィに対して、視線で辺りを窺がわせる。

 すると、貴族達の間に混じって、死体の周りを念入りに見て居る人間が見えた。


「あれって、もしかして……」

「うん、レイン帝国の探偵達だ」


 こちらの国も探偵を忍ばせて居るのだ。相手が同じ事をして居ても不思議は無い。

 問題は、この後どういう展開になるかだ。


「いやー、困ったね」


 そう言いながら、俺はポケットから眼鏡を取り出し、徐に掛ける。


「何で今眼鏡!?」

「いや、俺目が悪いから」

「そうなの!?」


 全くの嘘!

 これは、探偵タロットをレンズとして嵌め込んだ物です。


「皇帝(エンペラー)に会いたいなあ」

「え? 何言ってるの?」


 大アルカナ4番目のカード。

 その能力は『遠方盗聴』。


「あー、ルビー聞こえるー?」

「わわっ!?」


 レンズからルビーの驚く声が聞こえる。


「……は、長谷川君なのかな?」

「うん。探偵タロットの力で、そっちの音を拾ってるんだ」

「ああ、そう言う事か。こういう使い方もあるんだねえ」


 ふふっと笑うルビー。

 そう。

 俺とルビーは、お互いを盗聴する事で、遠方に居ても会話が出来るのだ。


「それで、私に何か用かな?」

「ああ、ちょっと状況を知りたくて」

「ふぅん。何が知りたいんだい?」

「死んだ男の名前と職業」


 それを聞いたルビーが、少し間を置く。


「ええと、レイン帝国の外交官で、名前はロレン=クロイツだね」

「その人はどういう人?」

「戦争否定派の代表で、レイン帝国でもかなりの権力を持ってるみたいだよ」

「成程、そいつは不味いね」

「何で不味いの?」


 聞き耳を立てて居たレビィが尋ねて来る。


「コルカ王国の人間が殺したのなら、既に国際問題。レイン帝国の人間が殺したのなら、戦争肯定派の可能性が高い」

「あー、そゆ事かあ」


 納得するレビィ。

 最近は姉のリビィと探偵業をやって居たはずなのだが、成長していないのは気のせいだろうか。


(……まあ良いか)


 とりあえずレビィの事は放っておいて、事件について調べよう。


「ルビー。死体の周りに居る人達は、何が死因だって言ってる?」

「毒殺が一番多いかな。ワインを飲んで居る時に、いきなり倒れたみたいだね」

「ふーん、毒殺かあ」


 会話をして居る最中、周りに居た貴族達が少しずつ散り始める。

 このまま会話を続けて居たら怪しまれると思ったので、俺は会話を打ち切る事にした。


「とりあえず、これ位で。また何かあったらこっちから連絡するから」

「ああ、そうか。一方通行なんだね。はいはい、了解でーす」


 それを聞いてから、俺は皇帝の能力を解除した。

 さて、これで基本的な情報は手に入れた。

 次はどうやってこの事件を解決するかだ。


「平君。これからどうする?」


 レビィが尋ねて来る。


「うーん。そしたラバー……」


 言葉の途中で違和感に気が付き、ゆっくりと振り返る。

 真後ろに居たのは、レイン帝国第二皇女、グラス=ブルーレイン。


「……ズっとそこに居ました?」

「ええ、そうですね」

「俺達のやってた事も見て居たと」


 それを聞いたグラスがクスリと笑う。


「随分と便利な物をお持ちなのですね」


 少しの沈黙。

 俺は苦笑いを作り、レビィの事を見る。


「レビィさん、やってしまいました」

「平君……油断し過ぎだよ」


 溜め息を吐くレビィ。

 起こってしまった事は仕方ないと思い、そのまま話を発展させる。


「ええと……このままでは事件が解決しないので、レインさんの力で何とか出来ませんかね?」

「そうですね。もうこうなってしまっては、交流会どころでは無いでしょう」


 そう言って、レインが一歩前に出る。


「皆さん、お聞きください」


 貴族達の視線がレインに集まる。


「このまま黙って見ていても、何も解決致しません。ですので……」


 上がる口元。

 ああ……これは悪巧みだ。


「こちらに居る探偵お二人に、この事件を解決して頂きましょう」


 ざわつく貴族達。

 本来ここに探偵が居てはいけないのだから、そうなるのは必然だろう。


「た、平君! 何でバレちゃったの!?」

「え? ああ、色々あるんだよ」

「色々って!? もしかして平君は、バレてる事を知ってたの!?」

「うんごめん」

「ごめんって!?」


 慌てて居るレビィ。

 しかし、俺は予想の範疇だったので、特に慌てる事も無かった。


「良いですよね? お二人さん?」


 楽しそうに言って来るグラス。

 俺は溜め息を吐いた後、頭を掻く。


「別に良いですけど、殺されたのはレイン帝国の人なんだし、そっちの探偵が捜査した方が良くないですか?」

「それは逆です」


 俺は首を傾げて見せる。


「うちの者が殺されたからこそ、そちらの探偵が事件を解決して、無実を証明するべきだと思います」


 成程、確かにその通りだ。

 そしてグラスは、俺達が捜査する所を見て、こちらの能力を把握すると。


「何か異論はございますか?」


 微笑んだままのグラス。

 まあ、今の会話で、お互いに探偵を忍ばせて居た事は証明出来たし、俺達が捜査した所で、大きな問題にはならないだろう。


「……分かりました」


 そう言って、俺はレビィを見る。


「そう言う事だから、頑張ろうか」

「うん、私はまだ話を理解出来てません」

「とにかく、俺達がぐしゃぐしゃっと事件を解決してしまえば良いって事」

「平君、今日ちょっと言動おかしいよ? もしかして、壊れちゃった?」

「どうだろうね」


 微笑む俺を見て、レビィ溜め息を吐く。

 会話を利用して色々と『仕込んだ』のだが、やはりレビィは気付かなかったか。


(まあ、レビィだからなあ……)


 それはそれで好都合。

 このまま情報を収集しながら、ついでに事件も解決しようじゃないか。

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