第21話 見習い三女は出来る人
畑が害獣に襲われている事を知り、俺を引きずりながら畑へと向かう女性。
マーブル姉妹の三女、ルビー=マーブル。
中々の怪力だと感心したが、このままでは恥ずかしいので、俺は自分の力で歩き出した。
「いやー、悪いね。無理矢理引っ張って来ちゃって」
ルビーが俺の腕から手を離し、少し前を歩き出す。
「でもさ、あの部屋スパイが居たから。あそこで話すのは少しヤバいかなって」
「ルビーさんは気付いて居たんですか?」
「さん付けとか、やめて欲しいな。何か恥ずかしいからさ」
少し照れた表情を見せるルビー。
「でも、やっぱりレビィは抜けてるなあ。あんなに分かり安いのに、わざわざスパイを部屋に招き入れるなんて」
「あ、招き入れたのは俺です」
「え? ああ、そうなんだ」
ルビーがニヤリと微笑む。
「もしかして、余計な事したかな?」
「大丈夫です。ルビーと話すのなら、多分こっちの方が良い」
「うん、私もそう思う」
はははと笑い、頭の上で腕を組む。
(この人……)
見た目と話し方で大雑把な印象を受けるが、実際は頭の回転が速くて、洞察力も優れて居る。
まだ探偵見習いと聞いたが、探偵としての資質はレビィより上に感じた。
「それで? わざわざスパイを招き入れて、長谷川君は何を狙ってたんだい?」
「ある程度情報を渡して置いて、当日にどういう反応があるか、試そうかと思って」
「ふぅん。余裕だなあ」
「でも、ルビーが本当の能力を見せたのは、少し予想外でした」
そう言うと、ルビーがクルリとこちらに向き、後ろ向きで歩き出す。
「気付いてたんだ。私が嘘吐いて無いって」
「そうですね」
「やり過ぎたと思う?」
「別に」
俺の返答にニヤリと笑うルビー。
やはりこの人、『分かっていて』わざと能力を見せていたのか。
「面白い。長谷川君は面白いね」
満足そうな表情を見せた後、ルビーが正面に振り返る。
そんな彼女を、俺はもう探偵見習いと言う括りでは見て居なかった。
無言のまま少し歩いて居ると、ルビーがピタリと止まり、いきなり走り出す。
(むむっ!?)
みるみる小さくなるルビー。
このままでは置いて行かれると思い、必死に彼女の事を追いかける。
(は、速い……!?)
俺も頑張って走って居るのだが、ルビーとの距離が全く縮まらない。
頭が良くて運動神経も良いとか。彼女は完璧超人なのか?
「くっ!」
このままでは見失ってしまうと思い、仕方なく探偵タロットを取り出す。
そして。
「死神(デス)!」
大アルカナ13番目のカード。
その能力は『追跡』。
「はぁ、はぁ……」
息を切らしながら、探偵タロットに記されたルビーの動向を追う。
五分ほど走り続けると、町外れにある畑の一角で、大声を上げて居るルビーの姿が見えた。
「わあー! わあー!」
手をブンブンと振り回しながら、畑の中を駆け回って居るルビー。
どうやら、自分の畑を荒らして居た鳥を、追い払って居る様だ。
「わー! わー!」
必死な表情。
しかし、声には怒気が感じられず、黒鳥はルビーを馬鹿にしているかの様に、畑を悠々と荒らして居た。
「わー! わー!」
「あの、ルビー?」
「え? ああ、長谷川君か」
ルビーが困った表情を見せる。
「いやー困った。いつもなら音爆弾とかもって来るんだけど、緊急だから何も持ってきて居なかった」
「あの鳥は?」
「カラシュ。この国一番の害獣で、その被害は年間一億レンとも言われて居て……」
淡々と説明するルビー。
それにしても、男っぽい話し方の割に、叫び方は可愛かったな。
「長谷川君、私は真面目に話しているよ?」
「ああ、ごめんなさい」
「よし。それじゃあ、助けて下さい」
まあ、そうなりますよね。
(しかしなぁ……)
畑の上を飛び回って居るカラシュ。
その中の一匹に、特殊な個体が居る。
「あれ、さっきのスパイですよね」
「その様だね」
青と黄色のオッドアイ。
まさか、ここまで追って来るとは思って居なかった。
「良いんじゃないかな。ついでに殺しても」
「いやー、流石にそれはどうかと」
「あれを殺っても、本人は死なないけど」
それは多分そうだろう。
しかし、術者にダメージは入る訳で。
(仕方ないな……)
やれやれと頭を掻いた後、程々に叫ぶ。
「今から凄い光が出るんでー。目を潰されたくなかったらー。術を解いて下さーい」
反応するオッドアイ。
やがて、目の色が元に戻ったので、俺は探偵タロットを畑に放り投げた。
「太陽(サン)」
大アルカナ19番目のカード。
その能力は『閃光』。
「……!!」
地面に刺さったタロットから光が弾けて、目が眩んだカラシュがボトボトと落ちた。
「ふぅん。何でもありなんだ、それ」
何事も無かったかのように、俺の横で腕を組んで居るルビー。
その表情は、流石に笑って居なかった。
「もしかして、私と同じ能力もある?」
「ありますね」
「そうかあ」
そう言って、小さく溜め息を吐く。
「そりゃあ……滅ぶだろうね」
その言葉にドキリとする。
どうやらルビーは、リビィから『その話』を聞いて居たようだ。
「まあ、良いけどさ」
それだけ言って、こちらを見る。
「それで? どうして長谷川君は、わざわざ術者に警告したのかな?」
「目を潰したく無かったからですね」
「ふぅん。会いたいんだ。術者に」
俺は小さく頷く。
「大丈夫かなあ。多分あれ、青色の魔法鍵の使い手だよ?」
「俺もそう思います」
「ああ、だから会いたいのか」
青色の魔法鍵は特級魔法鍵。最初の事件でレイモンドが言って居た言葉だ。
その全容はまだ分からないが、普通の魔法鍵と違うのならば、調べておきたい。
「長谷川君は根っからの探偵なんだねえ」
「探偵じゃなくて助手ですけど」
「そうだった」
言った後、やっとルビーが微笑む。
「仕方無いなあ。それじゃあ、私も手伝ってあげるとするか」
「助かります」
「その代わり、今日は一日畑仕事を手伝って貰うよ」
むむ、余計な仕事を課せられてしまった。
しかし、この人の協力を得られるのなら、喜んで手伝おうじゃないか。
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