第19話 助手はお腹が減りました

 中央広間の中心にある階段に腰かけて、三人がふうと息を吐く。

 御披露目式が中止となり、片付けが行われている広間。

 それをぼんやりと眺めながら、俺は思考を停止させて、脳の疲れを回復させていた。


「なあ、平よ」


 上の階段に座って居るリビィが口を開く。


「先程の事件の事なのだが……」

「はあ」

「お前が最初から『正義』を使って居たら、もっと簡単に解決していたのでは無いか?」


 聞かれると思って居た質問。

 いつもなら懇切丁寧に解説する所だが、俺はもう疲れてしまって居たので、要点だけを話す事にした。


「最初から『正義』を使っても、レンツを犯人には出来なかったよ」

「何故だ? 催眠を解けば、簡単にレビィの証言を提示出来ただろう?」

「レビィの証言はね。だけど、レンツが催眠を使うと言う証拠が無かった。だから、あいつが魔法鍵を使うのを待って居たんだ」


 それを聞いたリビィが、ふむと頷く。

 そんなやり取りを見ていたレビィが、ふふっと笑った。


「何だ?」

「ううん、今日初めて会ったばかりなのに、二人は凄く仲良くなったなあって」


 その言葉に苦笑いを返す。


「まあ、昨日の敵は今日の友って言うから」

「私は最初から敵のつもりは無いのだが」

「ああ、そうだっけ?」

「それよりも、今の平は随分とだらけて居るな。もしかして、最初からそう言う人間なのか?」


 それを言われて、そう言えばと思う。

 この異世界に来てからは、偉そうな態度ばかり取って居たから、自分の話し方をすっかり忘れて居た。


「そうだよ。俺は本当はこういう人間。とてもダラダラして居て、余計な事をやりたくない性格なんだ」

「その割に、短期間で大きな事件を二つも解決したな」

「それはまあ、流れだよ流れ」

「ふむ、そう言うものか」


 頭だけを後ろに向けて、上下逆に二人の事を見る。


「正直言って、俺はもうこう言うのは勘弁だよ。浮気捜査とか猫探しとか、人が死なない仕事をしたい」

「ええ! 私はもっと大きな事件を担当したいのに!」

「事件に大きいも小さいも無いから」


 そう言って、大きく溜め息を吐く。

 レビィの言う大きい事件とは、殺人事件などの事を指すのだろう。

 前に居た世界のせいで『そう言う事』には慣れて居るが、好んでそう言う場所に行きたいとは思わなかった。


「そう言う事だから、こういう事件はもうお終い。俺はあの小さな事務所で、地域の皆さんに貢献出来る仕事をするよ」

「ふむ、それは残念だな」


 リビィがふうと息を吐く。

 どうやら、俺の言った事に納得してくれたようだ。

 ……と、思ったのだが。


「この事件を解決した事により、平は完全に探偵協会から目を付けられた。これからはレビィを通して、お前目当てに仕事が舞い込んで来るだろう」


 それを聞いて沈黙する俺。

 それに対して、レビィは不服そうな顔で立ち上がった。


「探偵官は私なんだけど!?」

「仕方ないさ。前回の事件も今回の事件も、平の功績が大きかった」

「現地収集したのは私です!」

「それはそれ。これはこれ、だ」


 頬を膨らませるレビィ。

 どうやら怒って居る様だが、本当に怒りたいのは俺だ。

 何で事件解決の為に、探偵では無く助手を使おうとするのだろうか。


(探偵タロットは証拠にならないのに……)


 これが一番面倒くさい。

 探偵タロットが証拠として認定されて居れば、今回の事件も殺人が行われた部屋で、全て解決して居ただろう。


(色々と回りくどいんだよなあ……)


 今日行った捜査を思い出して、再びため息を吐く。

 正直、他人の心を操作して弱味に突け込むのは、もううんざりだ。


「ああ、もう何も考えずに、ダラダラと深夜アニメでも見て居たい……」

「しんやあにめ?」

「カラーの自動紙芝居」

「何それ凄い!」


 目を輝かせるレビィ。


「と言うか! 本当に平君は何者なの!?」

「俺は異世界転移者です」

「ハイ来た嘘! 異世界転移なんて出来る訳無いじゃん!」


 そう言った、レビィの横。

 さりげなく魔法鍵をこちらに掲げて居たのは、リビィ。


「ふむ、面白いな」


 魔法鍵をしまい、ふっと微笑む。

 今俺が言った事を真実と捉えるかどうかは、彼女に一任しよう。


「所で平、私から一つ提案があるのだが」

「はい、何でしょうか」

「私の助手にならないか?」


 自然な流れからの重い一撃。

 流石にこれには、体ごと振り返ってしまった。


「リビィはこの国屈指の探偵官なんだろ? 当然の様に、助手の一人や二人……」

「私は一人で頑張る派なのだ」

「どんな派閥だよ」


 遂に敬語も使えなくなってしまった。


「今回の事件で、私は自分の魔法鍵の新しい可能性を知った。平と居れば、もっと有効な使い方を出来ると確信した」

「だけど、助手を兼任してる奴なんて、居ないでしょ?」

「ああ、居ないな」

「それなら、他の人間に……」

「しかし、それが違反という訳では無い」


 成程、そう来ましたか。


「だが、断る」

「何故だ? 私では不服か?」

「そう言う事じゃなくて、俺はレビィの助手だから」


 それを言った瞬間、レビィの目が輝く。


「そう! 平君は私の助手なの! だから、姉さんの助手には……!」

「ふむ、ではこれで決めよう」


 リビィが取り出したのは、紫色の魔法鍵。

 その能力は、嘘の感知。


「今から私が平に質問をして、『真』と言う文字が出たら、助手にする事を諦めよう」


 それを聞いて、苦笑いを見せる。


「では、質問だ」


 魔法鍵を向けて来るリビィ。

 正直な話、リビィが俺に何を質問するかは、もう分かって居る。

 そして、その答えも分かって居る。


「平は私の助手になるのが、嫌か?」


 ニコリと微笑むリビィ。

 その笑顔がとても綺麗で、やれやれと頭を掻く。


(全く……)


 今回の事件を通して、リビィの事は良く分かった。

 妹思いで真面目な性格。たまに弱さを見せる所も嫌いでは無い。

 そして、何よりも人に優しい。


「その答えは……」


 この異世界の人間と比べれば、俺は嘘を吐くのが上手いと思う。

 だけど、彼女の魔法鍵は、その嘘を見抜く力がある。


「……嫌です」


 魔法鍵の表示は『嘘』。

 やっぱり、この能力は最悪だ。


「うむ、何かあったら連絡する。たまに事務所に遊びに行っても良いか?」

「それに関しては、雇用主であるレビィに聞いてください」

「絶対に駄目! 平君は私の助手なの!」

「分かった。無許可で行く事にしよう」


 仲良し姉妹が上で喧嘩を始める。

 俺はやれやれと溜め息を吐いた後、後ろに向いて居た体を元に戻した。


(ああ、お腹が空いたなあ……)


 これにて、今回の事件は全て終了。

 俺は晴れて二人の探偵助手となり、お腹ペコペコ万々歳。

 あれだけあった食事は既に片付けられて、見る影も無い。


(こんな事なら、式が始まった時に食べて置けば良かった……)


 そんな俺の視線の先。

 広間の奥にある、屋敷外への大扉。


(……ああ、うん)


 探偵姉妹を見る事も無く、ゆっくりと歩き出す。

 大扉の方から近付いて来る彼女。

 広間の中央で対面して、お互いに微笑む。


「何か、色々と大変だったよ」

「そのようですね」

「式で何も食べられなくて、お腹も減って居るんだ」

「そう思って、事務所にお食事を用意してあります」


 流石はプロのメイド。抜かり無しとはこの事だな。


「あ! ミィケー!」


 階段の上から手を振るレビィ。

 リビィもふっと笑い、階段から立ち上がる。


「それじゃあ、帰ろうか」

「そうですね」


 こちらに向かって来る探偵二人。

 それを遠目に見る助手とメイド。



 こうして、俺は二人の探偵の助手になってしまった。

 これからは、この二人のせいで、もっと面倒な事件に巻き込まれるかもしれない。

 だけど、今はそれを忘れて、ミィケの食事を楽しみにするとしよう。

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