第16話 真偽の応酬

 御披露目式が開かれている中央広間。

 その先にある階段の上に三人が立ち、集まった貴族達を眺める。

 きらびやかな衣装を身に纏い、団欒を楽しんで居るお客様方。


 大変申し訳ありませんが、今からこの場所は、尋問部屋と化します。


「それじゃあ、手筈通りに」

「うむ」


 ポケットから探偵タロットを取り出す。


「力(パワー)」


 大アルカナ11番目のカード。

 その能力は『音声拡張』。

 俺は能力を発動させたまま、タロットをリビィの口元に掲げる。


「あー、お集まりの皆様。お楽しみの所、失礼致します」


 タロットで増幅されたリビィの声が、中央広間に木霊する。


「ただ今この屋敷内で、傷害事件が発生しました。我々探偵が捜査を開始しておりますので、パニックにならずに、この場から離れぬ様にお願いします」


 抑揚を効かせたリビィの説明。

 広間は一時騒然となったが、流石に広間から飛び出した者は居なかった。


「それでは最初に、皆様に質問をします」


 リビィがポケットから魔法鍵を取り出す。


「言質心眼」


 嘘を見破る特殊魔法。

 これ程堂々と発動されてしまっては、小細工をする事など不可能だろう。


「質問です」


 貴族達がゴクリと息を飲む。


「この屋敷の隠し部屋について、ご存じの方は挙手をお願い致します」


 ストレートな質問。

 本来ならば質問を捻って嘘を炙り出すのだが、今のリビィにそれは必要無い。

 当然のように、隠し部屋を知って居る者は、ゆっくりとその手を上げた。


(はい、犯人確定と)


 手を上げた人物は、たった一人。

 先日の事件で殺されたクリスティーヌの実弟、レンツ=トスカーナ。


「では、レンツさんは広間の中央に、ご足労お願いします」


 掛けている眼鏡をクイッと直し、ゆっくりと歩くレンツ。

 わざわざ中央で尋問されると言うのに、その姿には威厳すら感じられる。


(あの貫禄で27歳って……)


 レンツを眺めながら苦笑いをする。

 彼とクリスティーヌは歳が30以上も離れているのだが、それに関しては彼等の父親が頑張ったからだそうだ。


(ああ、貴族怖いわぁ……)


 まるで、戦国時代の日本。

 そんな事を思いながら、俺達は広間の中央でレンツと対面した。

 腕を組んでこちらを見て居るレンツ。最初にリビィが質問する。


「レンツさん、何故貴方が呼ばれたか、思う所はありますか」

「……ふむ」


 ゆっくりと思考するレンツ。

 やがて、無表情のまま口を開く。


「その隠し部屋から、事件に関わる何かが発見された……と、言った所か」

「その通りです」


 頷くリビィ。

 それに少し遅れて、レビィが足元にある袋から、隠し部屋にあった衣装を取り出した。


「これに見覚えは有りますか?」


 レンツが血にまみれた衣装を眺める。

 そして、一通り見終わった後、言った。


「私が着て居る衣装と同じ物だな」


 そう。

 その衣装は、今レンツが着ている物と、全く同じ物だった。


「何故この衣装が隠し部屋にあるのだ?」

「それに関して、レンツさんに質問します」

「ほう」


 最初の山場。

 レンツの答える内容によっては、この一撃で決着が付くだろう。


「レンツさんは、この傷害事件に関与して居ますか?」


 静まり返る貴族達。

 そんな中で、レンツは眼鏡を持ち上げて、当たり前の様に言った。


「……関わって居るだろうな」


 リビィの魔法鍵の反応。

 真実。


「ま、まさかレンツ殿が……!?」

「そんな馬鹿な!」


 貴族達がざわつく。

 しかし、俺達に取っては、想定内の返答だった。


(……こいつは困ったな)


 苦笑いで頭を掻く。

 ここでレンツが『知らない』と言ってくれれば、もっと楽な展開になって居ただろう。


「私が着て居る物と同じ衣装が発見されたのだ。関わって居るに決まって居る」


 つまり、そう言う事。

 この人は、嘘と真実を使い分ける力を持って居る。


(厄介だなあ……)


 リビィを探偵役に抜擢する位だ。ある程度の答えは、既に用意して居るだろう。

 その壁がどれ程の物か。もう少し様子を見た方が良さそうだ。

 

「質問を続けよう」


 リビィが話を切り返す。


「レンツさんは、この衣装を複数持って居るのですか?」

「ああ。だが、正確な数は分からない。この屋敷にある私の部屋にも有るはずだ」

「それは、誰でも持ち出せる物ですか?」

「無理だろうな。今はこの屋敷の警備が強化されて居る」


 まるで、自分を追い詰めるような返答。

 しかし。


「まあ、腕の良い職人が居れば、同じ物は作れるだろうが」


 簡単にひっくり返す。

 相変わらず無表情のレンツ。

 この男を自白まで追い詰めるのは、少々骨が折れそうだ。


「ふむ、平よ」


 リビィがこちらに向かって言う。


「彼を相手に、これ以上の探り合いは無駄だ。ストレートに行った方が良い」


 打ち合わせとは違う内容。

 しかし、尋問の主導権は、魔法鍵を持つリビィにある。

 つまり、こうなる。


「レンツさん。貴方がこの傷害事件の、犯人なのですか?」


 先走るリビィ。

 ここでレンツが素直に白状すれば、この事件は終了するのだが……


「……」


 長考するレンツ。

 いや、わざと間を開けているのか。


「……私は」


 レンツの口元に視線が集まる。

 俺も探偵タロットを眼前に掲げて、レンツの言葉を待つ。


「私は、この事件の……」


 ああ、とても良い間の使い方だ。

 この状態ならば、誰もレンツの言葉を疑わないだろう。

 だから、言えば良いさ。


「……犯人では無い」


 静寂。

 全員がリビィの言葉を待つ。


「……ふむ」


 軽く咳き込むリビィ。

 次の台詞を言いたく無いのだろうが、既に賽は投げられた。

 もう、後戻りは出来ない。


「レンツの言った事は……真実だ」


 沸き上がる驚きの声。

 事件の話は一気に盛り上がり、中にはレンツを誉める者まで居る。


(やってしまったなあ……)


 軽く溜め息を吐く俺。

 こちらを見て目を細めるリビィ。

 中央広間に居る貴族達は、完全にレンツの味方になってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます