第14話 出した拳は引っ込めない

 床に転がる男の前に三人が集う。

 殺された男の名前は、ジーク=トスカーナ。先日の事件で捕らえられた、レイモンドの息子。

 コルカ王国東の4領主として、新たに任命されたその日に、殺されてしまった。


「さて、何故殺されたのだろうか」


 リビィがサラリと問う。


「やっぱり、先日の事件が原因なんじゃないかなあ」


 レビィが軽く答える。


「しかし、こいつはレイモンドとは違い、中々に優秀な奴だった。周りから恨まれて居る様子は無かったが?」

「リビィ姉さんは頭が固いなあ。恨みだけで人が殺される訳じゃないんだよ」

「以下にも。その通りだな」


 そんな姉妹の会話を、俺は右耳から左耳へと流して捨てる。

 ハッキリ言って、今殺人動機を考えた所で、何の意味も無い。

 何故ならば、犯人を見つける為の痕跡は、既に出揃って居るからだ。


「まあ、良いだろう」


 姉妹の会話がやっと終わり、二人が揃ってこちらを見る。


「長谷川平」

「平で良いです」

「ふむ、では平。尋問した時に気付いたのだが、お前は既に犯人の目星が付いて居るのでは無いか?」


 ああ、やっとそこまで来ましたか。

 これで、次の行動に進む事が出来ます。


「そうですね」

「え? そうなの!?」


 驚きの表情を見せるレビィ。

 俺はそれをきっちりと無視して、淡々と話を進める。


「まず、殺された男は心臓を一突きです。この状況ならば、血飛沫が飛んで居るはず」

「以下にも」

「今日はこの屋敷に沢山の人が居るので、返り血を処理する暇は無い。よって、返り血が付いた服が、どこかに隠してあるはずです」


 レビィが疑問の表情を見せる。


「そのまま外に逃げた可能性は無いの?」

「無い」

「おお、ハッキリと言い切ったね」


 これに関しては、リビィも首を傾げた。


「何故そう言い切れるんだ?」

「1つは、先日の事件を受けて、屋敷の警備が強化されて居る事」

「あー確かに。凄い警備だったね」

「もう1つは、この殺人が『計画殺人』だと言う事です」


 その言葉に対しては、二人とも驚きの表情を見せて来た。


「私から見れば、この殺人は衝動的な可能性もあるのだが」

「いえ、間違いなく計画的です」

「理由は?」


 俺は床を指差す。

 そこにあるのは、凶器であるナイフ。


「そのナイフは先日の事件を受けて、クリスティーヌさんの部屋に飾ったと聞きました」

「そう言えば、ミィケが言ってたね」

「衝動的に使うには、置いてある場所が遠すぎる。そこにある置物を使った方が早い」


 机の上にある人の形をした置物。

 用途は不明だが、人を殴るには最適だ。


「そうなると、遺恨による殺人の可能性が、グッと高くなるな」

「そうですね」

「え? 何で?」


 キョトンとした表情を見せるレビィ。

 これには、流石に溜め息を吐いてしまう。


「わざわざ先日の事件で使われたナイフを使ったんだ。関係者の可能性が高くなるに決まってるだろ?」

「でも、それを匂わせた他人の可能性もあるよね?」


 それを聞いて、少し黙る。

 いつもは阿呆っぽいのに、たまに確信を突いて来るから、逆に扱いに困るぞ?


「だから、可能性と言ったんだ」

「ああ、そうか」


 テヘッと笑うレビィ。

 少し可愛いので、本当に扱いに困った。


「まあ良い」


 リビィが話を区切る。


「次はどこを調べる? 私としては、早く調べたい場所があるのだが」


 そう言って、足をパタパタさせる。

 実は俺も、早く調べたい場所があった。


「次に調べるなら、あそこでしょうね」


 俺とリビィが指差した場所。

 暖炉の横に有る、背丈が2メートル程ある木製の本棚。


「何で?」


 当然の様に、レビィは分からない。


「火を扱う場所の横に、わざわざ本棚がおいてあるのだぞ? 燃やしてくれと言っているようなものだろう」

「ああ、そうか」

「それと、先程平が言った証言を組み合わせると……」


 俺は本棚に近付き、暖炉の反対側に思い切り引っ張る。

 すると、本棚が音を立てて動き、隠し部屋への扉が現れた。


「ビンゴですね」

「以下にも」


 満足そうなリビィ。

 レビィは小さく唸った後、扉をペタペタと触って調べ始めた。


「これ、鍵が掛かってるよ?」

「まあ、そうだろうな」

「戦車(チェリオット)」


 扉の鍵がガチャリと音を立てて開く。

 その後、俺は何事も無かったかの様に、探偵タロットをポケットにしまった。


「成程、それが例の探偵タロットか」


 リビィがふっと笑う。


「それがあれば、大抵の屋敷には無断で忍び込めるだろうな」

「そうですね」

「それに、私の魔法鍵と同じ能力も秘めて居ると聞いたが?」

「ええ、あります」


 俺はリビィに微笑みかける。


「でも、この探偵タロットは、この国では認知されていません。だから、どんなに嘘を暴けた所で、それは証拠にならない」

「ふむ。しかしそれは、私も同じ事だ」


 リビィが魔法鍵を取り出す。


「どんなに嘘を見抜けた所で、犯人が自白しなければ、証拠としては適用されない」

「そうなんですか?」

「ああ、だからこそ私は、犯人の証言に頼らずに、そこから得た真実から、絶対的な証拠を探すのだ」


 それだけ言って、扉の中へと入って行く。

 それに対して、俺は少し驚いた表情で、その場に立ち尽くしてしまった。


「平君? どうしたの?」


 扉の横でレビィが俺に尋ねて来る。


「ん? ああ、少し驚いてね」


 扉の先を眺めながら、俺は腕を組む。


「嘘を見抜ける力を持って居るから、それで犯人を追い詰めるスタイルかと思ってたんだけど、どうやら違うみたいだ」

「そう言われれば、確かにそうだね」


 首を傾げるレビィ。


「リビィ姉が犯人を捕まえる時は、大体が物的証拠が決め手になってる。能力で追い詰めれば簡単なのに、どうしてなのかな?」


 それを聞いて、思わず微笑む。

 どうやら俺は、リビィの事を少し見くびって居たようだ。


「平君?」

「ああ、うん。レビィのお姉さんは、本当に凄い探偵のようだから」

「え? 何で?」


 答えを聞かれて少し困る。

 きっと、レビィに話しても分からない。

 俺達が使える『嘘を見抜く』と言う力が、以下に野蛮で危険な力かなんて。


(だけど……)


 レビィにはそれを知って欲しい。

 だから俺は、言わずに居ようとした事を、敢えて教える事にした。


「レビィ」

「何ですか」

「俺がリビィに尋問を受けた時、何でわざと嘘を吐いたか分かる?」


 急な質問にレビィが眉を潜める。


「うーん……」


 素直に考え始めるレビィ。


「あ! もしかして! 秘密の通路がこの部屋にある事を教えようとしたから!?」

「うん、半分は正解」

「半分!?」


 小さく頷き、残りの答えを語る。


「俺がわざと嘘を吐いたのは、リビィの尋問を、俺で完結させるのが目的だったんだ」

「何で?」

「もし俺があそこで『犯人では無い』と言ったら、リビィは次にどうしたと思う?」

「……!」


 レビィが意図に気付き、目を丸める。


「そう。多分レビィを尋問していたと思う。そうなったら、この殺人の犯人は誰になるだろう」


 それを聞いたレビィが黙ってしまう。

 どうやら、レビィも気付いた様だ。

 あそこでリビィが尋問をして居たら、レビィが自白して捕まって居たと言う事に。


(……例えそれが、催眠の類いで記憶を操作されて居たとしても)


 この異世界では、証言が大きな力を持つ。

 だからこそ、俺はリビィの心理操作をして、他に犯人が居る事を臭わせた。


「あ、あの……平君」


 レビィが困った表情でこちらを見る。


「私、平君を誤解して、殴って……」

「良いんだ」


 レビィに微笑み掛ける。


「レビィが自然に振る舞ってくれたからこそ、リビィも尋問をしなかった。だから、それで良いんだ」

「でも……!」


 笑顔のまま、真っ直ぐに彼女を見る。

 そして、問う。


「レビィは犯人じゃない。そうだろ?」


 これは、レビィの中にある記憶への問い掛けでは無い。

 レビィと言う人間性への問い掛けだ。


「……」


 少しの無言。

 やがて、真剣な表情でこちらを見る。


「……私は、犯人じゃないです」


 言い切るレビィ。

 それで良い。

 だからこそ、俺は捜査を続けて居るんだ。


「うん」


 それだけ言って、肩をポンと叩く。


「さあ、あっちの部屋でリビィが待ってる。早く合流して、真犯人を見つけよう」

「うん!」


 いつもの元気を取り戻し、一足先に奥の部屋へと足を運ぶレビィ。

 俺はふ小さく笑った後、ゆっくりとした足取りで彼女の事を追いかけた。

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