第13話 助手は嘘がお上手
新領主の御披露目式に招待されて、レイモンドの屋敷に来た探偵と助手。
その最中、突然探偵が消えたので、助手が屋敷内を探して居ると、レイモンドの部屋で新領主の死体と探偵が見つかった。
動揺しながらも、探偵が犯人では無いと感じ、一人で捜査を始める助手。
捜査の結果、探偵が犯人では無い事が分かったが、そこにもう一人の探偵が現れた。
(……とか、そんな感じか?)
三流のナレーションを頭に思い浮かべながら、その探偵と対峙する。
異世界探偵、リビィ=マーブル。
俺のパートナーである、レビィの姉だ。
「もしかして、リビィさんは五人姉妹?」
「以下にも。レビィから聞いたのか?」
「いや、名前が並びだから」
それを聞いたリビィがふっと笑う。
「父の名の付け方には、私も呆れて居る」
「そうかな? 俺は全員綺麗な名前だと思うけど」
小さく咳き込むリビィ。
どうやら、少し照れた様だ。
「……まあ、分かり安くは有ると思う」
ふうと息を吐き、俺を見詰める彼女。
今のでリビィが次女だと確定したが、大した問題では無いので言わない事にした。
「さて、茶番はここまでだ」
リビィが話を区切る。
「改めて、貴様に質問をさせて貰おう」
右手に持った紫色の魔法鍵を、ゆっくりと右目の前に掲げる。
そして。
「言質心眼」
放つ。
光を帯びる魔法鍵。
その輝きと佇まいを見て、俺の額から冷や汗が溢れた。
(まさか……)
過去にレビィは言って居た。
探偵官の魔法鍵には、録音の他にもう一つ『特殊な能力』があると。
「レビィ」
咄嗟にレビィの口元の拘束を外す。
「プッハァァ!!」
「急ぎで悪いんだが、リビィさんの事について、少し教えてくれ」
「え? いきなり何を……」
「良いから早く」
レビィを急がせる。
レビィは疑問の表情を浮かべたが、すぐに小さく頷き、倒れたままで語り出した。
「リビィ姉さんはコルカ王国の中でも、屈指の探偵官だよ」
「能力は?」
「言質心眼。その魔法鍵に掛かれば、相手の嘘は見抜かれる」
やはり、予想通りだったか。
(……っ!)
不意に甦る元の世界の記憶。
探偵タロットの根元。誰でも使う事の出来る、嘘を見抜く能力。
0番目の大アルカナ『愚者』。
(消えろ!!)
大きく首を横に振り、甦った記憶を吹き飛ばす。
ここは、俺の居た世界では無い。
あんな惨劇が繰り返される事は無いんだ。
(ふう……)
深呼吸をして心を落ち着かせる。
大丈夫。俺はレビィを救える。
俺はこの異世界の『誰よりも』、この能力の事を知って居るのだから。
「平君?」
レビィが俺に問いかける。
俺は無理矢理に微笑み、再びレビィの口元をシャットアウトした。
「ムググゥゥ!?」
「悪いレビィ。もう少しそのままで居てくれ」
うんざりした表情で黙るレビィ。
それを見たリビィは鼻で笑い、再び俺に視線を向けて来た。
「レビィはお前の主じゃないのか?」
「そうだけど、レビィを野放しにすると、余計な面倒事が起こるから」
「以下にも。賢明な判断だな」
同意するリビィ。
何はともあれ、これで一対一の状況を作る事が出来た。
さあ、ここからが本当の戦いだ。
「質問1だ」
リビィの眼前に有る魔法鍵が光る。
「長谷川平。そこに倒れて居る新領主を殺したのは、お前なのか?」
小細工無し。直球の質問。
確かに現在の状況から考えると、俺が犯人である可能性が一番高い。
だから、俺はこう答えた。
「ああ、俺が殺した」
一瞬の静寂。
やがて、足元に転がるレビィが唸りだしたが、それを無視して会話を続ける。
「どうやって殺した?」
「ナイフで一突き」
「何故レビィが拘束されて居る?」
「殺人の証拠を隠している最中に現れたから、拘束して黙らせた」
「何故お前は直ぐに逃げなかった?」
「本当は隠し通路で逃げたかったんだが、逃げる前にリビィが来てしまった」
淡々と進む会話。
ジタバタと暴れ回るレビィ。
そして、肝心のリビィは。
「……はははは!」
腹を抱えて笑い出した。
「長谷川平! お前と言う奴は……!」
必死に笑いを抑えるリビィ。
喉を鳴らして何とか調子を取り戻すと、今度は笑顔で話し始めた。
「嘘が効かないとは言え、そこまで堂々と嘘を吐かれると、こっちも困ってしまうぞ」
目に残った涙を拭き取るリビィ。
それに対して、俺は平然とした表情で肩を浮かべて見せた。
「……まあ、良いだろう」
リビィが落ち着きを取り戻す。
「兎に角、これでお前が犯人では無いという事が、良く分かった」
「そうですか」
「レビィを黙らせて居たのは正解だったな。こいつが会話に介入していれば、話がややこしくなっただろう」
「やっぱり、リビィさんもそう思いますか」
二人でレビィを見下ろす。
レビィは目をパチパチさせた後、クルリと回って俺達に背を向けた。
「ふむ、とりあえず尋問はこれまでだ」
リビィが魔法鍵を胸ポケットにしまう。
それを全て見届けた所で、俺はやっとレビィの拘束を解いてあげた。
「ブッハァァ!!」
大きく息をした後、立ち上がるレビィ。
立ち上がった瞬間、素早くこちらを向き、俺の腹部目掛けて拳を突き出した。
「グホァ!!」
「平君! 流石に酷いよ!!」
渾身の一撃に思わず膝を付く。
「だ、だから、レビィが話に参加したら、ややこしくなるから……」
「最初にそう言えば良かったでしょ!」
「言っても無駄だと判断した」
「はいぃぃ!!」
2度目の強打。
今度はゴロゴロと地面を転がり、本棚に背中を打ち付けられた。
(……酷い)
痛む背中を軽くさすりながら、小さく溜め息を漏らす。
いつもは中々に勘が鋭いのに、何故こういう時はそれが働かないのか。
レビィを『黙らせて居た』行為こそが、リビィに対する心理操作だったと言うのに。
(全く……)
鬼の形相で睨むレビィに苦笑いを返した後、ゆっくりと立ち上がる。
代償は受けたものの、最初の心理操作は無事に完了した。
これからは三人で、本当の犯人の痕跡を追うとしよう。
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