第12話 異世界探偵のルール

 ミィケとレビィが合流して始まった、探偵事務所の掃除。

 最初は時間が掛かるだろうと思って居たのだが、プロメイドであるミィケが無双して、夕方には片付いてしまう。

 俺とレビィはそんなミィケに圧倒されて居たのだが、ミィケが夕食を作ると言ってきたので、大人しく事務所で待つ事になった。



「……はぁ」


 ピカピカに磨かれた来客用の椅子に座り、大きく溜め息を吐く。


「掃除には、自信があったんだけどな……」


 ポツリと呟き項垂れる。

 先程まで行われていた大掃除。

 少しは活躍出来ると思って居たのに、出来た事と言えば荷物運びだけだった。


「やはり本職には敵わないのか……」

「ふふふ……平君ごときがミィケに勝とうなんて、まだまだ考えが甘いね」


 正面に座って居たレビィが語る。


「ミィケはメイドの中でも名門中の名門、ワトソン家の人間だよ? 本来こんな場所に居る立場じゃないんだから」

「こんな場所って、ここはレビィの探偵事務所だぞ?」

「……そうなんだよねえ」


 今度はレビィが溜め息を吐く。


「やっと一人前になった探偵の事務所に、ワトソン家のメイド。普通に考えたら狂気の沙汰だよ……」

「そこまでの事なのか?」

「……平君は本当に何も知らないんだね」


 やれやれと手を広げるレビィ。

 どうやら馬鹿にされたようだが、本当に何も知らないので、何も言い返せない。


「まあ、良いじゃないか。ミィケが自分からここに居たいって言ったんだから」


 仕方なく、無難な言葉を言っておいた。

 レビィが黙ってしまい、コチコチと柱時計の音だけが響く。

 俺も黙って夕食を待って居たが、折角時間があるので、レビィに探偵の仕事について、話を聞く事にした。


「なあ、レビィ」

「何ですかあ」

「探偵事務所は完成したけど、これからどうやって仕事を受けるんだ?」

「そうだねえ」


 前にある机にベタリと張り付き、ダラダラと話し始める。


「基本的には、国から命令された仕事をするかなあ。後は、訪ねて来たお客さんの依頼をこなしたり、自分達で営業したり……」


 半端に語って再び黙る。

 俺としては、もっとお堅い仕事を想像して居たのだが、どうやら俺の知って居る探偵業と変わらない様だ。


(それなら、俺でも大丈夫そうだな)


 そう思い、ホッと胸を撫で下ろす。


「そう言えば!!」


 下ろした途端に、レビィが口を開いた。


「平君に探偵心得を話して無かった!」

「探偵心得?」


 レビィが机から跳ね上がる。


「そう! 探偵と言う仕事をする上で! とても大切な心得だよ!」

「そうですか。では、教えて下さい」


 大きく頷き、立ち上がるレビィ。


「心得その1! 探偵は憶測で物事を語ってはいけない!」


 事務所に響くレビィの声。

 俺は当たり前の事だと思って居たのだが、黙って頷いておく。


「心得その2! 探偵は己の成果を誇ってはいけない!」


 当たり前の以下略。


「心得その3! 探偵は常に公平でなければならない!」


 これに関しては、少し遅れて頷く。


「む、平君。何か異論があるみたいだね」


 違和感を見逃さないレビィ。

 探偵としては流石だと思ったが、その異論を言いたくは無かったので、苦笑いを返す。


「……まあ、言いたく無いなら、言わなくても良いけど」


 それを聞いてホッとする。

 正直、追求されなくて良かった。

 レビィの言った『公平』と言う言葉が、どれだけ難しいかなんて、言った所で分かる筈も無いのだから。


(……言葉としては覚えておこう)


 そう思い、これ以上は考えない事にした。

 探偵心得の披露が終わり、再び事務所に沈黙が訪れる。

 夕食まではもう少し掛かりそうだったので、俺は音楽でも聴こうと思い、探偵タロットを出そうとした。


「……そう言えば、明日トスカーナ家の新領主の御披露目式があるから、よろしくね」


 ……したのだが。


「明日!?」

「え? 何?」


 突然の発言に、それを忘れてしまう。


「幾らなんでも早すぎないか!?」

「早くないよ? 普通だよ?」

「それによろしくって!?」

「うん、私達も招待されて居ます」

「何で!?」

「あーもう。うるさいなぁ」


 レビィがうんざりした表情を見せる。


「私達がレイモンドを捕まえて領主が変わったんだから、招待されるのは当然でしょ?」

「……そう言うものなのか?」

「そう言うものなのです」


 色々と納得は出来なかったが、そう言う事らしいので仕方なく頷く。

 しかし、あの事件の事を考えると、行きたいとは到底思えないのだが。


「言っておくけど、強制参加だよ」


 レビィが渋い表情で釘を刺してくる。


「私だって、本当は行きたくないのに……姉さんだって来るし……」

「姉さん?」

「何でも無い! 兎に角! 明日はレイモンドの屋敷に行くからね!」


 それだけ言って、黙ってしまうレビィ。

 俺は物凄く嫌な予感がしたが、探偵からの命令だったので、大人しく従う事にした。




(……で、この状況だよ)


 やれやれと溜め息を吐いた後、掲げて居た探偵タロットを降ろす。

 少し時間は掛かってしまったが、現場検証は全て完了した。

 結論から言えば、やはりレビィはこの男を殺した犯人では無いようだ。


(しかし……)


 レビィが犯人では無い事は判明したが、問題が一つ有る。

 それは、真犯人がまだ分からない事だ。


(痕跡を辿れば、分かるんだけど……)


 部屋の至る所に犯人の痕跡はあるのだが、俺にはそれを追えない理由が有る。

 それは……


「ほう。面白い場面に出会したな」


 入り口から聞こえる女性の声。

 俺はやられたと思いながら、ゆっくりと振り返る。


「新領主の死体に拘束された探偵。それに、巷で噂の青色魔法鍵の男か」


 腕を組んでこちらを見詰める女性。

 肩まで伸びた薄紫髪に、自信に満ちた細い瞳。背は俺と同じ位で、服装は白シャツに紺色のミニスカート。

 そして、右耳にキラリと光る、茶色いチェックのイヤリング。


「レビィのお姉さん?」

「以下にも。リビィ=マーブルだ」


 リビィが胸のポケットに手を入れる。

 取り出したのは、紫色の魔法鍵。


「さて、捜査を始めようか」


 ユルリと上がるリビィの口元。

 そんな彼女の姿を見て、俺はただ苦笑いを作る事しか出来なかった。

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