第10話 異世界タッグ結成

 薄暗い牢獄の階段を上り、屋敷の通路へと出る。

 最初に目に映ったのは、長い廊下とその先にある美しい庭園。

 流石はお偉いさんの屋敷。庭の隅まで手入れが行き届いて居る。

 そんな事を思いながら、俺はゆっくりと廊下を歩き、途中で庭に出て近くにあったベンチに腰掛けた。


(ふう……)


 小さく息を吐き、ぼんやりと空を眺める。

 雲一つ無い青々とした大空。

 自分が居た世界では、こんなに開けた空を見た事は無かった。


(……少し、やり過ぎたかなあ)


 そんな事を思い、もう一度ため息を吐く。

 俺はミィケを救う為に、自分が出来る事をやった。

 しかし、それはあくまでも自分の理想であって、彼女が望んで居た事では無い。

 誰かを思って行動した所で、結局は相手の受け止め方次第なのだ。


(でもまあ、良いか)


 そんな事を思い、小さく笑う。

 起こってしまった事を悔いても、過去は戻って来ない。

 俺が良しとして行動したのだから、俺はこれで良いのだ。


「何かを悩んで居る若者が一人」


 後ろから声が聞こえたので、頭を上げて後ろに向く。

 見えたのは、逆さまのレビィ=マーブル。


「独りで抱えて居ないで、お姉さんに相談してみてはどうかな?」


 ズイッと顔を近付けて、ニコリと微笑む。


「いや、別に何も……」

「ふーん、そうですか。それなら良いんですけど」


 レビィは顔を上げると、クルリと身を翻して俺の横に座った。

 少しの沈黙。

 やがて、レビィが口を開く。


「……私はミィケの本心なんて、考えて無かった」


 ポツリと言って、作り笑いで俯く。


「ミィケはレイモンドに無理矢理手伝わされた。命令だから仕方なかった。だから、無実なのは当然だと思ってた」


 いつものように、エヘヘと笑う。

 いや、悲しんで居るのか。


「平君は、相手の気持ちが分かる人なんだね」


 こちらを窺うレビィ。

 そんな彼女に対して、視線だけをそちらに向ける。


「相手の気持ちが分かる人間なんて居ない」


 そう言って、胸ポケットから探偵タロットを取り出す。


「ただ、俺が元居た場所では、相手の心を窺う機会が多くてさ。それを繰り返してるうちに、相手がどういう言葉を求めて居るかは、何となく分かるようになった」


 指の先で探偵タロットをクルクルと回す。

 諸悪の根源。

 この探偵タロットのせいで、俺の元居た世界は……


「それよりも」


 仄暗い記憶を消してレビィに顔を向ける。


「レビィはミィケの事を、最初から知って居たんだな」

「え? うん。ミィケは友達なんだ」

「最初に出会った時にメイドって呼んで居たから、他人だと思ってたよ」


 それを聞いたレビィが、恥ずかしそうに頭を掻く。


「一応私、探偵官だから。私情を挟まないように、そう呼んだの」

「そう、それだ」


 俺はピッと人差し指を伸ばす。


「結局の所、探偵官って何なの?」


 今更の疑問。

 しかし、レビィが最初にそれを口にした時から、ずっと気になって居た。


「平君、本当に知らないの?」

「ああ、俺はこの国の出身じゃ無いから」

「この国って……この大陸全ての国に、探偵官は存在して居るよ?」


 やってしまった。

 しかし、吐いた言葉は飲み込めない。


「ええと……とにかく、俺は凄く遠い所から来たから、この大陸の事はサッパリ分からないんだ。だから、教えて欲しい」


 そう言って、頭を下げる。

 レビィは少しの間不思議そうに俺を見ていたが、やがて何かを納得した様で、笑顔で説明を始めてくれた。


「探偵官は、国に認められた捜査のプロ集団なの。各々が特殊な魔法鍵を持って居て、それを駆使して様々な出来事を調査するんだ」

「それって、犯罪以外の事も調査するの?」

「うん。基本的には、国から依頼された全ての事を調査する」


 成程。警察のような組織では無くて、本当に探偵のような存在なのか。


「各々が特殊な魔法鍵を持って居るって言ってたけれど、レビィの使った音声録音が、レビィの魔法鍵の特殊能力なの?」

「違うよ。その能力は探偵官なら誰でも使える能力。むしろ、それが使える魔法鍵を持った人間が、探偵官に選ばれるの」

「成程。選ばれしエリートって訳だ」


 それを聞いたレビィの表情が一瞬曇る。

 今の反応のせいで、それ以外にも何かがあると分かってしまったが、レビィが何も言わないので、スルーしておく事にした。


「成程。良く分かった。説明ありがとう」


 それだけ言って、再び頭を下げる。

 次に頭を上げた時、レビィはこちらを見たまま、口をモゴモゴとして居た。


「レビィ? まだ何かあるの?」

「う、うん。それで何だけど……」


 どれだ?


「探偵官は一人前になったら、助手を一人雇う事になって居るの」

「ふーん。そうですか」


 嫌な予感が頭を過る。


「東の4領主とか言う凄い人を逮捕したレビィさんだ。当然の様に、助手も素晴らしい人間なんだろうね」

「え、ええとね……」


 エヘヘと頭を掻くレビィ。

 分かり安過ぎるから、その仕草は止めた方が良いと思う。


「探偵官は大きい事件を一つ解決する事によって、初めて一人前とみなされるの。だから、私は今回の事件で一人前になって……」

「おめでとう。レビィさん凄い」

「ねえ、話をはぐらかそうとして居ない?」


 当然だろう。

 俺はこの世界の出身では無いのだから、助手になった所で足を引っ張るだけだ。

 レビィには捜査官としての素質を感じたから、真っ当な助手を仲間にして、真っ当な捜査官になって欲しいと思って居る。


「そう言う事だから! 平君!」

「今日は天気が良いなあ」

「私の助手に……!」

「夕飯は何にしようか」

「助手に!」

「その前に宿を決めないと……」


 突然頭から言葉が消える。

 そして、広がる視界。


「……平君?」


 不思議そうな顔をして居るレビィ。

 その後ろ。

 長く続く廊下の一角。


(……っ!)


 その光景を見て、口角が勝手に持ち上がる。

 ああ、良かった。

 本当に……良かった。


「ミィケ!!」


 跳ねるように言って、レビィが走り出す。

 ゆっくりと中庭に降りて来るミィケ。

 そんな彼女に向かって、レビィが思い切り飛び付いた。


「良かった……! 本当に……!!」


 隠す事無く泣きまくるレビィ。

 それに対して、優しく頭を撫でるミィケ。


(……ああ、うん)


 込み上がる思いを胸に秘めて、ゆっくりと胸ポケットに手を入れる。

 取り出したのは、探偵タロット。


「恋人達(ラバーズ)」


 6番目の大アルカナ。

 その能力は……撮影。

 無邪気に微笑む二人の姿が、探偵タロットに静かに収められた。


(……まあ、良いか)


 いつもの口癖を思い、ゆっくりと探偵タロットをしまう。

 そして、決める。


「たいらくーん!!」


 視線の先で大きく手を振るレビィ。

 その横で笑顔を見せてくれるミィケ。

 そう。

 この世界に来て初めて見る、彼女の本当の笑顔だ。



 少し前までの俺は『大抵の人間』だった。

 だけど、それも今日でお終い。

 俺は異世界探偵の助手になり、この世界の不条理を……壊そう。

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