第8話 二つ目の手段

 この異世界では、俺の住んで居た世界ほど、科学捜査の技術が進んで居ない。

 その為、何かしらの事件が起きた時は、現場証拠や関係者の証言から犯人を特定する事が、主な手段となって居る。

 しかし、それとは別に。

 それらの証拠を無視して、確実に犯人を捕まえられる方法がある。

 それは……


「言質収集!」


 そう。犯人の自白だ。


「最初は少し不安だったけど、まさかこんなに上手く行くとは思わなかったよ」


 ははっと笑いながら、髪に付いた埃を払うレビィ。

 それに対して、レイモンドは完全に固まってしまって居た。


「平君、お疲れ様。流石だったね」

「いや、俺が何もしなくても、レイモンドは自白して居たよ」

「そうなの?」


 首を傾げるレビィに頷き掛ける。


「自信家で自尊心が高い典型。自分より格下の相手には、自分の方が上だと知らしめたい」


 固まって居るレイモンドを睨み付ける。


「この状況なら、自分の罪を弱者が背負ったと解らせる事が、自尊心を保つ一番の手段だからな」


 吐き捨てる様に言って、探偵タロットを胸のポケットにしまった。


「お、お前は、一体……」


 震える指でこちらを示すレイモンド。


「ああ、探偵タロットの事か?」


 やれやれと溜息を吐き、胸ポケットから手を離す。

 そして、次の瞬間。


「はいっ!」


 何も無い両手の中から、大量の探偵タロットが現れた。


「これは『タロット』なんだから、その枚数あるに決まってるだろ?」


 この探偵タロットは、大アルカナのみで構成されて居る。

 つまり、カードの合計は22枚だ。


「そんなに沢山どこに隠してたの?」


 後ろからレビィが尋ねて来る。


「髪の毛の中とか、靴の中とか」

「もしかして、カードの数だけ能力が秘められてるとか?」

「ああ。その代わり、難しい能力は使用に条件があるから、簡単には使えない」

「へえ、凄いね」


 嬉しそうに笑うレビィ。

 少し説明し過ぎかと思ったが、それを知った所で他人が扱える物でも無いので、それで良しとした。


「それより、レビィ」


 レビィに事を促す。

 レビィは頷くと、俺とレイモンドの間に立ち、マントのポケットに手を突っ込む。

 勢い良く取り出したのは、桜色の魔法鍵。


「探偵官専用魔法鍵! 言質レコーダー!」


 そう言って、レイモンドに向けて謎の決めポーズをした。


(……儀式か?)


 色々と考えは浮かんだが、とりあえず可愛かったので、黙って見て居る事にする。


「この言質レコーダー、通称『言レコ』に登録された音声は、事件の確実な証拠として認識されます」


 とても丁寧な説明。

 恐らく、魔法鍵の詳細を知らなかった俺の為に、わざわざ言ってくれたのだろう。


「そう言う事で!」


 レビィがレイモンドに魔法鍵をかざす。


「レイモンド=トスカーナ! 貴殿を妻殺しの犯人として、城へ連行します!」


 ミステリー御用達の大立回り。

 これにて、この殺人事件は閉幕。

 俺達は無罪放免となり、晴れてここから解放される。


「……ふっ」


 はずだったのだが。


「ふはははは!!!!」


 高らかに笑うレイモンド。

 俺達を無視して天を仰ぐその姿は、まるで狂ってしまったかのようだ。


「は! はは……!!」


 しかし、笑いは続かなくなり。

 そして。


「お前らは皆反逆者だ!!」


 反転する。


「東の4領主である私を! 王の次に尊い16人の一人である私を! 貶めた!!」


 今までの経緯を無視して話を進めるレイモンド。

 虚実で強引に活路を作ろうとして居るのかと思い、探偵タロットで覗き見る。


(……成程)


 タロットの表示は『真』の一文字。

 彼は妻殺しの罪など意にも介さずに、自分を貶めた事を『罪』と信じ切って居る。

 これに対しては、呆れを通り越して少々の狂気を感じた。


「……レビィ」

「うん」


 これ以上レイモンドと話しても、進展する事は何も無い。

 だから、これで終わりにしよう。


「よっと」


 ポケットから探偵タロットを取り出す。


「お、お前達! これ以上何かする気ならば……!」

「戦車(チェリオット)」


 俺の言葉で発光するタロット。

 それに少し遅れて、ガチャリと鉄柵から音が鳴り響き、牢の扉が開いた。


「な、なな……!?」

「レビィ。後は任せて良いんだよな?」


 レイモンドを無視して話を進める。

 レビィは笑顔で頷くと、指をポキポキと鳴らしながら扉へと歩き出した。


「ま、待て! 何をする気だ!」

「犯人が抵抗したら実力行使。レイモンドさんも知って居るはずだよね?」


 苦い表情を見せるレイモンド。

 流石に分が悪いと判断したようで、後ろに下がって大声で叫ぶ。


「衛兵! 衛兵!!」


 牢獄に木霊するレイモンドの声。

 その呼び声に答えるかのように、入口からフル装備の衛兵達が現れた。


「レイモンド様!!」

「あいつらは反逆者だ! 殺せ!!」

「しかし! 探偵官が混じって居ます!」

「関係無い! 殺せぇぇぇぇ!!!!」


 怒号に怯み剣を抜く衛兵達。

 狭い牢獄に4人の衛兵。

 並んで一斉に攻撃されたら、レビィとてひとたまりも無いだろう。

 結果。


「……ねえ、平君」

「何ですか」

「どうしようか?」


 苦笑いで相談される。


(やれやれ……)


 本来であれば、これ以降はこの世界の住人で解決するべき事項だ。

 しかし、このままでは俺達は再び拘束されて、無実の罪で裁かれてしまう。

 選択肢など、最初から無かった。


「今回だけだからな」


 そう言って、探偵タロットを衛兵達に掲げる。


「く、来るぞ!!」

「防御構え!!」


 衛兵達が盾を構えてレイモンドの前へと出る。

 そんな彼らを真っ直ぐに見ながら、俺はタロットに命令した。


「塔(タワー)」


 大アルカナ16番目のカード。

 その能力は、指定した者への電気攻撃。


「あ! ああああ……!!」


 短い悲鳴。

 何事かと思い、衛兵達が辺りを窺う。

 そんな彼らの後ろで、レイモンドが口から煙を吐いて倒れて居た。


「……レ、レイモンド様!?」


 狼狽える衛兵達。

 そんな彼らに向かって、俺は冷静な口調で言った。


「真犯人であるレイモンドは、今を持ってレビィに拘束された。主を失った彼方達が次に守るべき事は、この世界の秩序じゃないかな」


 少しの沈黙。

 やがて、衛兵達は刀を鞘に納めると、レビィの指示に従ってレイモンドを拘束し、牢獄の外へと引きずって行った。



 事件が無事に解決したので、俺は安心からベッドに座り込む。

 正直、最後は本当に力技だった。

 俺の元居た世界でこんな事をしたら、捕まるのは俺だったろう。


「お疲れ様ー」


 レイモンドを送り出したレビィが戻って来る。


「一時はどうなるかと思ったけど、平君のおかげで真犯人を捕まえられたよ」


 えへへと笑い、頭を下げて来る。

 俺は小さく首を横に振り、気にするなと手を振って見せた。


「それで? 平君はこれからどうするの?」


 笑顔のレビィが尋ねて来る。

 そう言えば、この後の事は『一つの事』以外何も考えて無かった。


「そうだなあ。取りあえず外の空気を吸いたい」

「そうだね。それじゃあ、早くこんな所から出よう」


 そう言って、レビィが牢獄から出る。

 俺もベッドから腰を上げて、ゆっくりと歩き出す。

 しかし……


「ミィケ?」


 俺の後ろを見て首を傾げるレビィ。

 成程。あのメイドの名前はミィケと言うのか。


「どうしたの? 外に出ようよ」


 レビィが行動を促す。

 それに対して、ミィケは部屋の隅で佇んだまま動こうとしない。


(……まあ、そうだよな)


 そう思い、やれやれとため息を吐く。

 妻殺しの犯人は、先程確かに捕まった。

 しかし、まだこの事件は終結して居ない。


 そして、その問題を解決する事こそが、『大抵の人間』から外れた俺が、一番やりたかった事だ。

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