ハーレムのご利用は、計画的に。

松葉たけのこ

第1話 裏路地のヒロイン……その裏



「本番30秒前……メイク、何やってんの! そこ邪魔!」

「ヤバくね? セリフ長すぎでしょ、常考じょうこう

「どこが、だよ。てか、いつまで本読みしてるんよ。もう本番だから。そこんとこ、夜露死苦よろしく

「呼び子さんから念話ねんわきた……もうすぐそこ」

「マジかよ! はえーな、おい」



ここは異世界、場所は路地裏、季節は夏、時は夕暮れ時のカキイレ時。

寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。

これから始まる茶番劇は、奇妙奇天烈、奇想天外……起承転落、本末転倒……。



「……ヒロインAさんも暴漢役AとBも、所定の位置に。シーン1、カット1、よーい……アクション!」



ボロ木で作った、安物のカチンコを、僕は鳴らす。

俺こと原田はらだ飛鳥あすか……改め、アスカ・パラスは打ち鳴らす。



「な……なによ、あなた達!」

「グヘヘ……お嬢ちゃん、その品は俺たちのものだ……グヘヘ」

「そうだ、大人しく置いていってもらおうか」



目の前で始まった、この茶番。

セリフだけ聞けば、“暴漢に襲われる町娘”という、異世界転生ラノベの定番シチュエーションを連想するだろう。

もちろん、それは、彼らの明らかにダイコンな演技をはっきりと目にしないければ、の話だ。



「何をしているんだい、君たち。可愛らしい娘に寄ってたかって」



はい、転生勇者さま登場。

はいはい、何も知らないバカ登場。

この暗がりで、彼らのダイコンな芝居には気付かなかったらしい。

狙い通りだ。ひと稼ぎさせてもらおう。



「はぁー? てめぇに何の関係があるってんだ……グヘヘ」

「そうだ、関係ない奴はすっこんでろ。バーカバーカ!」



暴漢役A、同役名B、場に合わないアドリブを追加。

報酬の減額決定。



「関係はあるさ。僕は、可愛いおんにゃの味方だからねっ」



勇者が、ヒロインAにウィンク。

ヒロインA、思わず顔が引きつる。

よくもそんな寒いセリフで、そこまで自信満々に振舞えたな、勇者よ。


まあ、勇者は演技指導を受けている、こちら側の役者とかでもないし。

そもそもが観客みたいなものだ。

しょうがない、こちらでフォローしよう。



『……ここは耐えて下さい。勇者と結婚すれば、あとは人生バラ色です』

『で、ですよね……どうせ、ウチの家は没落貴族ですし……すいません』



よし、念話スキルでヒロインAを説得できた。

でも、理由が少しネガティブすぎる。

このままだと、いつか、ヒロインAは冒険途中に、はぐれメタルのように逃げ出してしまうかもしれない。

もうひと押しする必要があるな。



『それにほら。可愛げがあるじゃないですか。キザにやろうとして、失敗してるとことか』

『た、たしかに。言われてみれば、強気な小型犬みたい……かも?』



何だ、案外ちょろ……純情な娘じゃないか。

これなら、勇者のハーレム構築も容易だろう。

これぞ適材適所。秘書のリザは、相変わらずの慧眼持ちだな。


それはそうと、 ゆうしゃ の こうげき!



「暴漢め、覚悟しろ! ていっ!」

「ぐぁあっ!」



勇者が暴漢Aを聖剣で切り裂いた。

勇者の目からは、そう見えていただろう。

この瞬間、舞台裏、小麦の箱の影から、バフ担当役が即座に“魔法スキル:聖者の虚像”を展開。

スキルで作られた虚像を勇者は斬り、本物の暴漢Aは斬られる寸前でこれを交わす。

交わした後は、この炎天下の中、熱い地面に転がって、死体のフリだ。

ホントに死ぬよりも辛いだろう。でも、台本通りだ。



「てめぇ……殺してやる。ユアッショォォック!」

「そんな遅い攻撃で、僕を殺せるとでも……? フッ」



勇者は、跳びかかってきた暴漢Bの背中にひじ鉄を打ち込む。

マジかよ。ここに来て、それ……?

嘘……あなたのワザ、殺傷能力なさすぎ。


勇者さん、あんた、転生ラノベの読みすぎだ。



「ウォォォオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」



それでも、倒れるフリする暴漢Bには、プロ根性を感じる。

にしても、大げさだけど。赤ん坊でも産み落としそうな叫び声だ。


ゆうしゃ は たたかいにしょうりした。

ほんと は たたかいなんてないんだけど。



「大丈夫かい? 僕の可愛い子猫ちゃん?」

「ウッ……は、はい。大丈夫です。ありがとう、勇者さま」

「勇者さまなんて堅いなぁ。僕のことは、ダーリンって呼びなよ。ね?」

「えっと、はい……これからは駄犬だけんちゃんって呼びますね! 勇者さまのこと」

「え」

「こーら。返事は、“わん”ですよ」



かくして、今日も転生勇者が一人……ハーレム主人公としての道を歩み出す。

そして、今日もヒロインAが一人……ハーレム要員としての道を共に歩む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます