流れ星に願いを


 カチコチと時計の針が進む音が聞こえる。

 体感ではそろそろ午前零時を迎える頃だ。

 息をのみながら、その瞬間を今か今かと待ち構える。


 「…………さん、に、いち――――っ」


 変化は一瞬で訪れた。

 瞬きをしている間に、それまでのことが夢だったんじゃないかと思えるぐらいにあっという間だった。


 「……っ」


 身体を起こして、隣で眠る妹が起きないようそっと立ち上がる。

 視界が高い、身体が重い、少し肌寒い。


 「戻ってる……」


 漏らした声はいつものソプラノボイス。

 どうやら私の身体は元の、十七歳の時の状態に戻ったらしい。

 

 「良かった、無事に戻れて」


 安堵の息をつきながら、私は横にある毛布を体に巻いて、窓際へと向かう。

 カーテンを少しだけ開けば、眼前には夜空と、瞬くほどの星が広がっていて。

 一つ、また一つと流れ星が現れては消えていく。


 


 ――――事の発端はおそらく、私が何気なく流れ星に願ったせいだろう。



 おとといの夜、勉強の息抜きついでに窓の外を眺めていたら、夜空を埋め尽くすくらいの流れ星が流れていた。

 それは願い事を三回唱えられるぐらい、長い間続いていて。

 私は咄嗟に心の中で願った。


 『一日だけでいいから、妹と仲良く過ごしたいです』


 私の三歳年下の妹、無衣はすこし不器用なところがある。

 そのせいで周りから浮いてしまって、独りぼっちになることが多かった。

 根はとっても優しいのに誤解されるのはきっと辛い。

 私は妹と仲良くしたくて、声をかけに行くけどどこか壁みたいなものを感じることがあって。

 すごく悲しかった。

 

 このもやもやした思いを胸に抱えたまま生きていくんだろうかと考えていた――最中の出来事だった。

 身体が小さくなってしまったのは。

 

 最初の方は私自身ビックリして、気が動転していたせいで妹に助けを求めた。

 きっと気味悪がられて嫌われるかもしれないと思っていたのに、妹の反応は意外なもので。

 頼ってほしい、と言ってくれたのだ。

 考えてもみれば誰かに頼ることをしたのは初めての経験だった。

 

 妹は一生懸命、私のために頑張ってくれた。

 ご飯を作って食べさせてくれて。

 眠くなった私を寝かせようとしてくれて。

 独りぼっちにならないように買い物に連れてってくれて。

 お風呂に入るには誰かの助けがいるでしょ、って叱ってくれて。

 

 たった一日で私は、妹からたくさんのことを教わった。

 

 頼られることは嬉しい、でも自分がちゃんとしなきゃって気を張り詰めてしまうせいで心にゆとりがもてなかった。

 押しつぶされそうになって、心が小さく縮こまっていく中で。

 本当の優しさを知る妹が、小さな私の心を大きく満たしてくれた。


 

 「きっと、仲良くなれたよね……」


 私はすやすやと眠る妹に近づいて、そっと頭をなでる。

 うぅん、と小さく声を上げたけど起きる気配はなさそう。


 「朝起きたら、ビックリするかな」


 私が小さくなった時はあんまり驚いた様子がなかったから、たぶん元に戻っても普段通りかもしれない。

 でも、縮めた距離は元には戻らないでほしい。

 

 「――無衣、これからは頼りにさせてね」


 そう耳元で囁くと、妹は少しだけ笑ったように見えた。

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おねロリ りんごのタルト @tarte00

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