お姉ちゃんがたより


 「あ、もう冷蔵庫に食材がないや」


 夕食時、あたしは冷蔵庫を開けてポツリと呟く。

 こうなると買い物に行かないといけないワケだけど、小さな姉一人で留守番をさせていいものなのだろうか?

 誘拐犯とかが入ってきたらいまの姉はなすすべがない。

 さて、どうするか……。


 「無衣、もしかしてゆうはんのざいりょうがないの?」

 「あ、うん。だから買い出しに行かないといけないんだけど、お姉ちゃんはどうする? 一人でお留守番は難しいよね」

 「それはぜんぜんだいじょうぶだけど……無衣のほうはだいじょうぶなの?」

 「えっ」


 姉からなぜか心配され、首を傾げる羽目に。

 意味が分からず頭をぐるぐる回していると、ぐいっとズボンの裾を引っ張られた。


 「ほら、無衣おかねはもってるのかなって」

 「……あっ」

 「そのようすだともってないみたいね。なら、おねえちゃんのつかって」

 

 姉の気遣いと優しさに全あたしが泣いた。

 申し訳ないと思いながらも、姉の部屋へと向かい、財布を手にする。

 あたしはそのままキッチンまで戻ってくると、姉にポンと財布を渡した。


 「えっ」

 「それはお姉ちゃんが持ってて。あたし余計なものまで買っちゃいそうだから。で、一緒に買い物行こ?」

 「……そっか、うん」


 ポリポリと頬を掻きながら言えば、姉はニコッと笑った。

 

 二人して身支度を済ませ、あたしは姉を抱きかかえて家を出る。

 家に幼児用の靴がないというのと、抱っこ紐なんてものもなかったのだ。


 「無衣だいじょうぶ? わたし、おもいでしょ?」

 「ぜんっぜん平気。長期休暇で出される課題の方がもっと重いし」

 

 物理的にも精神的にもね。

 姉とおしゃべりをしながらてくてく歩く。

 近くのスーパーまでは歩いて五分ほど。

 ちょっと肌寒い季節になっていたけれど、姉の体温が思いのほか高かったので冷えの心配はなかった。

 幼子は体温が高いってのは本当らしい。


 「よっしゃ着いた~!」


 店内に入ると、姉を座席付きのショッピングカートに座らせる。

 

 「無衣これ、はずかしいよ~……」


 見た目は幼女、中身は現役JKな姉にはさぞ辛いだろう。あたしだったらこんな羞恥プレイ耐えられない。余裕で死ねる。

 でもずっと抱えているのもやっぱキツいので、お姉ちゃん我慢してね!


 「さーて、材料はっと」

 「きょうのこんだてはきまってるの?」

 「うん。カレーにしようと思うんだけど……お姉ちゃん、甘口の方がいい?」

 「ちゅうからでだいじょうぶだよ。みかくはかわってないみたいだから」


 とのことで、カレールーは中辛にし、じゃがいもとかにんじんとかを手に取りながらカゴに入れていく。

 ガラガラとカートを押しながら今度はお肉売り場に向かおうとしていると、知らないおばさんに声をかけられた。


 「あらあら~、まだ若いのにしっかりしてるわね~。その子は妹さんかしら?」

 「いえ、姉です」

 「……えっ」


 あたしの言葉におばさんがキョトンとする。

 ヤバい、そういえばお姉ちゃんは小さくなってたんだもんね!

 慌てて取り繕うことに。


 「こ、この子は双子の姉の方で、っていう意味です!」

 「あら、そういうことだったのね。おばさんビックリしちゃったわ~」

 「あ、あはは……」


 ふぅ、どうにか難を逃れられた。

 手を振っておばさんと別れ、あたし達はようやくお肉売り場にたどり着いた。


 「けっこう種類あるなぁ。量も違うから値段も違うし、どれがお得なんだろ」

 「無衣、わたしにちょっとみせて」

 「あ、うん」


 どうやら姉が代わりに比較をしてくれるらしいので、抱きかかえて軽く前かがみになる。

 姉は真剣な眼差しで吟味し始めた。


 「……ふむふむ、こっちのおにくはぐらむたんいでけいさんすると20えんおとくだね。かれーようだとかんがえたら、すこしねがはるけど50ぐらむおおいこのおにくにしたほうがいいかも……」


 姉がそう結論付けてお得なお肉を手に取った。

 あたしはそれをカゴに入れ、レジに向かおうとするけど、なぜか周りに人だかりができていて進めない。

 さっきまでは空いていたはずなのになんで……。


 「(あの子、すごいぞ。あんなに小さいのに小学校高学年レベルの計算が出来てる!)」

 「(天才だ! 天才少女が現れたぞ!)」

 

 なるほどね、原因は姉か。

 驚いているところ申し訳ないけどこの子、中身は高校生でして。

 しかも知能に関しては学年トップの実績があります。

 

 「あは、あははは……」


 苦笑いを浮かべながらあたしは全力でレジへと急いだ。

 今度からはちょっと遠くのスーパーを利用した方がいいかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます