おねロリ

りんごのタルト

お姉ちゃんがちっちゃい


 「――無衣むいおきて、たいへんなの!」


 朝、あたしが毛布に包まりながら、まどろんでいるとお腹の辺りに衝撃が走った。ドスンドスンと、まるで小さな子供にのしかかられているような感じ。

 とはいえウチにはそんな子供いない。

 家で一番年下なのは十四歳のあたしだからだ。


 「……ん~?」


 不思議に思って瞼を開けてみる。

 ぼんやりとした景色の中に、見覚えのない小さなシルエットがあった。


 「誰ぇ~? どこから迷い込んできたの?」

 「わたしよ! 有衣ゆいおねえちゃんよ!」


 んなバカな。

 そのシルエットは見たところせいぜい五十センチほどしか身長がないように見える。赤ちゃんとかそのぐらいのサイズだ。

 対して、あたしの三つ年上である姉は身長が百六十センチ以上はある。

 似ても似つかない。事実なら遠近法どんだけくるってるんだって話よ。

 

 「ゆいちゃんね。自分の名前言えて偉いね~、おうちの場所も言えたりする?」

 「ここよ! ウチここ! 無衣ほら、よくみてわたしのかお!」


 そう言って自称姉があたしの顔辺りに迫ってくる。

 とはいえ暗くてよく見えない。カーテンをきっちり閉め切っているせいだ。

 仕方なくひとつ伸びをしてから、あたしは自称姉を抱えてカーテンを開けにかかる。

 手をスライドさせると、眩しい日光に目がくらみ、少ししてゆっくりと瞼を開いてみた。


 「あっ」


 思わず声が漏れた。

 というのもあたしの手の中にいる人物は、本人の証言通り姉だったから。

 ところどころパーツは幼くなっているものの、顔立ちはまるっきり姉と同じだ。

 

 「……お姉ちゃん、なに小さくなってるの? スモー〇ライト発明したの?」

 「ううん、そうじゃないの。あさ、おきたらこうなってて」

 

 首を傾げてうんうん唸り声をあげる姉。

 普段からよく見る仕草だけど、なんだかこう……知的さみたいなものが足りない。

 子供が背伸びしているようにしか見えない。

 

 「どうしよう……きょうはがっこうやすみだからいいけど、ずっとこのままなんてことになったら」


 もみじのような小さな手のひらでぺちぺちとおでこを叩いて、悩むそぶりを見せる姉。

 本気で困っているのだろう。

 どうにか元に戻れないかと身体を伸ばしたり、ぴょんぴょん飛び跳ねたりしている。


 「…………」

 

 その様子をずっとそばで観察していたあたしは、口元を手で覆っていた。

 なんでって、こうしないとニヤけ顔を姉に見られてしまうから。


 ヤバい、可愛いなにこの生き物!

 ちょっと舌っ足らずになってるのも可愛い!

 もうずっとこのままでいいんじゃないだろうか!


 姉には申し訳ないが朝から目の保養になっております。


 「はぁはぁ……つ、つかれた……」


 やがて体力が切れたらしい姉はぽふんとカーペットの上に横たわった。

 いまにもずり落ちそうになっているパジャマは、元のサイズのままらしい。

 これじゃ動きづらいだろうな。


 「お姉ちゃん、その恰好大変じゃない? 小さい服持ってこようか?」

 「そ、そうね……無衣おねがい」

 「――――っ!?」


 瞬間、あたしの全身に電流が走った。

 お姉ちゃんが……あのお姉ちゃんがあたしを頼ってくれた。

 ぽかぽかと心が温かくなって、羽が生えたみたいに身体が軽くなる。


 「ふふふ、ふふふふっ」

 「む、無衣? どうしたの」


 あたしの挙動不審な様子に姉が軽く引いている。

 だけど、お姉ちゃんには分かるまい。出来損ないが優等生に頼りにされた時の喜びってやつは!


 

 *  *  *



 あたしの姉、椎名しいな有衣ゆいは天から二物も三物も与えられたすごい人物だ。

 容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、スタイルも抜群。

 それに加えて人当たりも良く、誰に対してもフレンドリー。もちろん、あたしにだって声をかけてくれたり、笑顔を見せてくれたりととっても優しい。

 けして人の悪口を言わないし、困っている人を放っておいたりしない。

 そんなだから誰からも頼りにされるし、すごくモテモテだ。

 ちょっと天然っぽいところがあるけど、むしろプラスのポイントにしかならないので最終的な評価は完璧超人に落ち着く。

 

 だけど一つだけ、困った欠点がある。

 この姉、完璧すぎるせいで人に頼ることをしないのだ。

 どんなことも自分で出来てしまえるがゆえに、全部引き受けてしまえる。

 しょい込んでしまうのだ。


 そんなところがあたしは心配で心配で仕方なかった。

 だから今回のことは、ちょっとは気楽にな~という神様からの采配なのかもしれない。


 

 「無衣ごめんね、めいわくかけて」

 

 持ってきた子供服を姉に渡すと、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げられた。

 

 「いやいや全然迷惑じゃないし。むしろウェルカムだし」

 「そんなふうにいってくれてありがとう。でも、あとはじぶんのちからでのりきってみせるから」

 「ちょおっと待った!」


 あたしは分からず屋の姉に待ったをかけた。

 

 「話聞いてた!? もっと頼っていいって言ってるの!」

 「うん、でも、おねえちゃんはだいじょうぶだから」

 「だいじょうぶじゃないって……はぁ~~もう~~っ!」


 聞く耳を持ってくれない姉にしびれを切らしたあたしは、ずいっと顔を近づけた。

 姉の前でさいっこうに口元を歪ませながら言ってやる。


 「この際だからはっきり言っておくけど。あたし、お姉ちゃんが小さくなったこと嬉しく思ってるんだから」

 「ど、どうして……そんなひどいこと」

 「ふふん……ひ、日頃の恨みを晴らそうと思ってるワケ。一人じゃなにも出来ないお姉ちゃんにあたしがちょっかいかけまくってやるから。頼らなきゃいけない場面でひたすらに世話を焼いてやるっての」

 「…………」


 悪役みたいな笑みを浮かべれば、姉は顔を俯けてしまった。

 ヤバい、怖がらせちゃったかも。

 

 ていうか別に恨んでないから!

 いつもかまってくれてありがと。

 感謝してます。


 で、でも、宣言したからにはやるしかないか。

 覚悟してよお姉ちゃん!

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