第18話 地竜退治 - 1
翌日にヤラン兄さんに前日のことを打ち明けて、どうしたら良いか相談したが、兄さんにも何が正しいか分からない様だった。だけど話を聞いてくれるだけで心が軽くなった。やはり相談できる人が居るというのは良いものだと思う。
それから一月は何事もなく過ぎ、私は6歳の誕生日を迎えた。私達遊牧民にとって6歳は特別だ。6歳になると1人前とは行かなくても、働き手のひとりと見なされるのだ。もちろん最初は見習いみたいなものだが、少しずつお手伝いの内容が高度な物になって行く。お手伝いすることが増える代わり良いこともある。6歳になると自分の馬が貰えるのだ。大抵は体の大きさに合わせて仔馬が与えられる。それまでも乗馬の練習はさせてもらっているが、自分の馬となると特別だ。もちろん仔馬の世話は自分達でやらないといけない。子供達の大切な仕事だ。私も家長である兄さんから仔馬を貰った。白地に茶色の斑のある雌だ。私は嬉しくてたまらず初日は馬小屋で一緒に寝た。名前はラダルにした。「茶斑」という意味だ。アマルとカライは少し前に6歳に成って既に自分達の仔馬を持っている。アマルの仔馬は茶色一色で名前はシラン、カライの仔馬は白馬で名前はクーロだ。ふたりは我家に遊びに来る時も仔馬に乗って来る様に成った。私はそれを見て羨ましくて仕方が無かったのだ。
それからは、私とアマル、カライの遊びは遠乗りが流行になった。3人とも自分の仔馬に乗るのが楽しくて仕方が無いのだ。今日はどこそこ、明日はあそこと目的地を決めて出かける。もちろん遠いところに行くのは母さんが許してくれないから、居住地から仔馬の足で1時間くらいの範囲ではあるが、それでも今までの徒歩に比べれば雲泥の差だ。アマルは遠乗りに加えて、馬上弓の練習も熱心だ。私達も一緒になって馬の上から弓を射る練習をする。徒歩の時と違って不安定な、しかも移動中の足場からの射的だ。さらに、当然のことながら弓を射るためには両手を使わないといけない。だから馬に乗りながら弓を射る時は、手綱を使わず足だけで馬をコントロールする必要がある。よほど馬と意思の疎通ができる様になっていないと不可能だ。遊牧民は馬上から弓を正確に射ることが出来て一人前とされる。アマルはヤラン兄さんの様な立派な狩人になりたいのだそうだ。兄さんの人気は相変わらずである。カライが毎日遊びにくるのもヤラン兄さんが目当てなのは見え見えだ。まあ、相手にはされてないけどね。
誕生日から半月ほどが経ち、私はララさん達のことが気になっていた。そろそろ海水を転送する魔道具を積んだ船が到着する頃なのだ。うまく行く様にと神に祈る。日課のヤギルの乳搾りが終わり、朝ごはんを食べているとララさんから念話が届いた。
<< やあイル、元気かい? >>
<< ララさん! はい元気です。まさか、これは北の砂漠からの念話ですか? >>
北の砂漠から念話を送って来たとなると驚かざるを得ない。1,000キロメートル以上は軽く離れているのだ。
<< まあね。ただし私の力じゃないよ、船に通話の魔道具が積んであるのさ、もっともこの距離じゃ神様に貰った魔晶石に繋がないと無理だけどね。>>
<< そうなんですね。びっくりしました。ところで地竜退治の計画はどうですか? >>
<< すべて順調さ。 まさにこれから海水の転送を始める所だよ。安心しな、今日中には方が付くと思うよ。終わったら連絡するよ。>>
<< わかりました。よろしくお願いします。お気を付けて。>>
と言って念話を切る。長話して邪魔しては悪い。あとは上手く行く様に祈るだけだ。
上の空で朝ごはんの続きを食べていると、いつもの様にアマルとカライが遊びに来た。今日のヤギルの見張りは我家の当番なのでヤラン兄さんと私で行く予定だったのだが、アマルとカライが自分達も馬に乗って同行すると言ってきたのだ。断る理由もないので一緒にヤギルの見張りをすることになった。まあ見張りをするのはヤラン兄さんで私達はおまけだけどね。カライだけでなくアマルまでヤラン兄さんと一日一緒に居られるので上機嫌だ。アマルには私よりヤラン兄さんが良いのかと愚痴を言いたいが、そこはグッと我慢する。
一族のそれぞれの天幕を回って、ヤギルを集めてから放牧地に向かう。仔馬とは言え自分の馬に乗った私達は一人前のつもりでヤギルの群れの後について放牧地の方に追い立てる。ヤギルの中にもひねくれ者が居て、群れとは別の方向に走り出す奴がいるから要注意だ。そんな時は馬を駆って先回りして連れ戻さなければならない。兄さんにヤギルを誘導するコツを教えてもらいながら放牧地にたどり着いた。後はヤギルが草を食べている間に勝手にどこかに行ってしまわない様に見張るだけだ。基本的にヤギルは臆病なので群れから離れて行動する個体は無いが、どこにでも例外はいるもので、何匹か要注意のヤギルがおり、それらに注意を払う必要もある。なかなか大変な仕事なのだ。母さんやヤラン兄さんは良くこの仕事をひとりでこなしていたものだと感心する。まあ、今でも私が助力できることなんて知れたものだけれど。それにしてもアマルはまじめに見張りを手伝ってくれているが、カライときたらすぐに飽きてお花摘みを始めた。あとでヤラン兄さんに花束にしてあげるつもりなんだろうけど...。いや6歳児ってこんなもんだよね、まじめに見張りをしている私やアマルが普通じゃないのかも。
その時、念話が届いた。
<< イル、トスカだ。悪いがこっちに来れないか? 緊急事態だ。>>
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