第十八話 爆走
「ヤス様。こんなに詰めるのですか?」
「あぁ問題ない」
ヤスの前には、コンラートが持ってきた武器と防具が並んでいる。
それだけではなく、食料やポーションも置かれている。
「ヤス様。これは、武器と防具と食料とポーションと魔石の目録です。ダーホスに渡してほしい」
コンラートが目録をヤスに渡す。受け取った目録をポケットに押し込むふりしてエミリアに格納する。
「わかった。それで積み込んでいいよな?」
「えぇ大丈夫です。数は品物の確認はいいのですか?」
「武器と防具の本数と、食料の数。ポーションの総数が合っていた。種類までは俺じゃわからない。ミーシャも居たし、ラナも居た。これで騙されたら俺が間抜けだったと思う事にする」
「ヤス様・・・。それでは・・・」
「いいよ。それと、こっちで使う武器と防具も残してあるのだろう?ユーラットには、それほど戦える者は多くないのだろう?」
「そうですね。こちらも、冒険者を選出してすぐにユーラットに向かいます」
「わかった。挟撃できればいいのだろうけどな」
「そうですね」
「そのためにも、ダーホスに情報が伝われないと駄目だな。よし。これでいいだろう」
ヤスは、話をしながら
「コンラート。ミーシャ。それから、ラナ。俺は行くぞ!」
「え?」「は?」「・・・」
ラナだけはやっぱりという表情をしている。
「ヤス様。外は・・・」
コンラートが何かいいかけた所で、ヤスは
前方をしっかりと照らすライトをみて、コンラートもミーシャも何も言えなくなってしまった。
「大丈夫だ。それに早いほうがいいだろう?今から出れば、夜明けには到着できる」
「え?半日程度ではないのですか?」
コンラートがアフネスとミーシャから聞いた事から推測したのは、ヤスの
「いや、あれはリーゼも乗っていたからな。もっと出せる。それにミーシャの話では、ユーラットまでの道には商隊がいるとは思えないのだろう?」
「確かに、商隊はいないと思います。帝国から来た商隊にも話を聞きましたが、関所を越えたのは自分たちだけだと言っています」
「もし、商隊が居たとしても助けるのは無理だから無視するけどな」
「それは・・・。でも、そうですね。商隊は自己責任ですし、ユーラットの方が大事です」
コンラートではなくミーシャが断言する。
ヤスは窓を開けて見ている者たちに退くように指示を出す。
滑り出しこそ少し焦ってホイルスピンをさせてしまったが、その後は問題なく走れている。しっかりとタイヤが路面を掴み始めれば速度を維持して走る事ができる。
門まで皆が付いてくると言っていたので、ヤスは速度を落とした。
門が近づいてきた所で、ラナが
「ヤス殿。リーゼ様が暴れだすと思いますが、宿に軟禁しておきます」
「頼みます。早ければ明日の夜には帰ってきます。明後日の朝にはリーゼを迎えに行くと伝えてください」
「わかった。無理はしないようにしなさい」
「もちろんですよ。無茶と無理が嫌いですから、絶対に大丈夫です」
「それを聞いて安心した」
ヤスは門を出て
本来なら門で検閲をしなければならないのだが、コンラートが代わりに手続きをしていたので、ヤスはそのまま門を出た。
街道に出た所で、一度速度を上げた。領都から離れた事をルームミーラで確認してから、
”エミリア。後ろの荷物を全部しまうけど大丈夫だよな?”
”問題ありません”
ヤスは、後ろに回り込んで荷物をしまっていく。
”マスター。目録と荷物を突合しますか?”
”必要ない”
スマートグラスを取り出してから、ルームライトを切る。
すでに時速は130キロを越えている。
ヤスは遠慮すること無くアクセルを踏み込む。
”エミリア。索敵範囲内の魔物をスマートグラスに表示”
”了”
”FITで討伐が可能なのはゴブリン程度だよな?”
”1体ならオークまでいけますが、損傷が激しくなります”
”結界を張っていても損傷が激しいのか?”
”データが不足しているため推測できません”
”ひと当たりしたら判断できるか?”
”了”
ヤスはゴブリンかコボルトが居たら結界を張った状態で突っ込んでみようと考えていた。
幸いな事に日本にいる時には人を轢いたり撥ねたりした事はない。器物破損も・・・。無いと思っている。そのために、積極的に魔物を轢いたり撥ねたりする事に忌避感があったのだ。しかし、そんなことを言っていられる状況ではない。今運んでいるのは命と等価な情報なのかもしれない。武器や防具も大事なのだが、情報が正確に届くだけでも対処が可能になる。対処が早ければ助かる命が増えるかもしれない。
FITを限界まで飛ばしている。
速度は、150を超えた辺りからあまり上がらない。路面が悪い事もあり、制御が難しい。ディアナと違って姿勢制御が入っているわけではないので、バンプで跳ねるのだ。それだけではなく道に石があり避ける必要がある。結界があるので、いきなり横転する心配は無いのだが、速度が著しく落ちてしまうのだ。
ヤスは大きな岩を避けながら速度を殺さないようにカウンターを当てながら爆走している。
スマートグラスには走るべき方角が示されている。しばらく走っていると、赤い点が表示され始める。
「エミリア!念話じゃなくても大丈夫だよな?」
『はい。マスター』
「よし、一番近いゴブリンまでのナビを表示」
『了。6体の群れです』
「丁度いい。そこを潰すぞ!」
『了』
スマートグラスに方角を示す矢印が出る。
ヤスは、速度を80キロまで落として、矢印の指示に従う。
「おおよその距離を表示」
『了』
赤い点までの時間的な距離で表示される。
「ドライブモニターの映像をスマートグラスに表示する事はできるか?」
『可能です』
「前方のドライブカメラの映像を拡大して表示。接敵の10秒前からカウントダウン」
『了』
ヤスは、スマートグラスに表示されている情報を読みながらゴブリンの群れに近づく。
(10)(9)(8)(7)(6)
(見えた!)
ゴブリンの群れを見つけて、ライトをハイビームから通常のライトに戻す。
気づかれているだろうがゴブリンたちに対処できる時間は存在しない。
速度をあげられたFITがそのままゴブリンの群れを跳ね飛ばす。
スマートグラスの赤い点が消えたことを確認した。
「エミリア。FITの損傷は?」
『皆無』
「正確に!」
『0.06%。呼称名:ゴブリンを轢いたタイヤが損傷しました。すでに回復しています』
「結界で倒せそうだな」
『結界の損傷6%。速度が出ていれば6体程度の群れなら問題ありません』
「わかった。ユーラットに向かう。ナビを頼む」
『了』
ナビの表示が切り替わる。
「ユーラットまでの時間的距離を表示」
『了』
スマートグラスに表示される時間は、3時間12分。
流石に休憩なしでは辛い時間だ。
「1時間走ったら休憩する。安全な場所があればスマートグラスに表示」
『了』
ヤスの指示を受けて、エミリアは54分後に休憩のアラームを鳴らす。
FITの中で30分ほど仮眠を取ってからヤスはハンドルを握る。日本に居たときにもやっていたように、頼まれた物を頼まれた場所に運ぶ。
今回の依頼には時間指定が存在していない。
”なる早”で運ぶ事が推奨されていた。実験を挟んだが宣言した通りに朝日が登る前にはユーラットに到着した。
Hybrid車でエンジン音もそれほどしないが静寂な朝にはやはり目立つ音だ。開けた場所ならいいが、山が近い場所ではやはりエンジン音が響いている。
通ってきた街道の近くには、大きくなった魔物の群れは存在していなかったが索敵範囲内には数千の魔物が確認できた場所も存在していた。
ヤスが、そんな爆弾を持ってきたとは知らないイザークが聞き覚えのあるエンジン音を聞いて、ヤスがユーラットに戻ってきたのだと思って門の前で嬉しくなって待ち構えた。ヤスが到着するまで・・・2分の時間が必要な状況だ。
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