第1章 思い出話5
授業が終わると、隼人は早速バスケ部へ走り出した。
「春樹。俺は部活があるからな。先に帰っていてもいいし、また、いつもみたいに寝て待っていてもいいぞ。」
「了解。俺は昼寝ができるベストポジションを探し回っておくよ。」
隼人はそんな俺に対して苦笑いを浮かべながら、颯爽と走り去っていった。
県立桜丘高校は、県内でも指折りの進学校だが、部活動も活発でバスケ部に関しては毎年県内でもベスト4に入るほどの強豪校だ。隼人は学力的にはもっとレベルの高い高校に入れたのだが、バスケがやりたいと言ってこの高校に入ることを決めたようだ。俺はと言うと、学力的にも身の丈に合って家からも近く、何よりも田舎の高校なので近くに原っぱがあり、気持ちよく昼寝のし放題ということに惹かれて高校を決めたのだ。
早速、昼寝のベストポジションを探すために、学校の中を探検し始めた。学校の中はやはり、自然が多く、中庭から丘が見えた。
これは昼寝がしやすそうだ。
わくわくしながら靴を履き替えて中庭を通り抜けようとした時、ふと上から気配を感じ、屋上に目をやると人影が見えた。それと同時に。
―――――リーン。
声が降ってきた。今まで聞いた中でも一番強い声だ。悲鳴のような、そして怒っているような。屋上から音が降ってきたということは、屋上にいる子が落としたのだろうか。それにしては、怒っているような声だが。どちらにせよ探してあげなくては。辺りを見回すと何かが落ちている様子はない。だが、近くから聞こえてくるのだ。一体何が落ちてきたのだろう。
「どこだ・・・。」
声がうるさく鳴り響いている。頭にツンとくるような、とても高い声で助けてほしいといってるようなそんな声だった。そんな時、垣根の陰から、何かキラキラと光るものが見えてきた。見つけてほしいと言わんばかりに、大きな声で俺を呼んでくれた。
「やっと見つかった。ん?指輪か。こんな小さかったから見つかんなかったんだな。呼んでくれてありがとな。」
そう声をかけると指輪は、声を静かにしてくれた。指輪の内側を確認するとHtoAと言う刻印が入っていた。
落とし主はAさんっていうんだな。それだけじゃ誰だかわからないけど。
落とし物も見つかったので、本人に返しに行こうと階段を上って行ったところ、屋上にはもう誰もいなかった。入れ違いになったと思い、階段をまた降りて元の場所に行くと、どこか見覚えのある黒髪の女子生徒が地面に這いつくばって何かを探していた。
「あれ?三井さん。もしかしてこれ探してる?さっきここにいた時に見つけたんだけど。」
呼びかけるとすぐに三井さんは振り返った。そして差し出された指輪を目にすると、目を見開き、泣きだしそうな顔をした。その顔を見て俺はギョッとしてどうしていいかわからずオロオロしてしまった。
「春樹君。・・・あった。よかった。こんな小さいもの。見つからなかったらどうしようって思って。ありがとう。見つけてくれて本当にありがとう。」
彼女は大切そうにその指輪を両手で抱えて泣きだしてしまった。その場にいるのもいたたまれなく、ただ、離れることもできず、立ち尽くしてしまった。しかし、そこに立っているのもどうかと思い、少し距離をあけて隣に座ることにした。彼女が泣き止むまでは傍にいよう。そう思いしばらく彼女のすすり泣く声だけが響いていた。
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