第4話
『来訪者よ、大地を起こしてはならぬ。
土の中から黄金だけを取り出すことは出来ぬ。
大地が蓄えた富と災、そのどちらもが目覚めることになる』
――数日前、金の採掘がようやく軌道に乗り始めたころだ。
ミネラスタの原住民が私の鉱山に訪れ、意味深な言葉を残していったのは。
『忠告ありがとう。
けれどもだ、私はこの大地の富を手に入れるためにここに来た。危険は承知の上さ』
『フッ、君たちの契約は通用しないぞ? 怪獣が相手では――』
……1日の終わり、溜め息を吐きながら冷めたコーヒーを流し込む。
小屋が完成してからだいぶ作業が楽になったし、鉱夫たちからの反応も良い。
始めたころは人手不足にあえぐことになるかと思っていたが、その心配も最早ない。
「――お疲れ様っす、ボス。今日も無事に進みましたよ」
夕焼けが濃くなってきて、作業時間の終了を迎えた鉱夫たちが鉱山から引き上げていく。
その中の1人、現場の書記役を任せているリックが作業日誌を持ってやってきた。
「爆薬は問題ないか?」
「ええ、バッチリです。やっぱりボスの眼に狂いはありませんね。流石は商人だ」
「おだてたって何も出ないぞ」
そう言いながらリックにコーヒーを注いでやる。
「ありがとうございます、ボス」
テーブルを挟んた向かい側に腰を下ろすリック。
……まだ若いが頭が良いし、銃の腕も立つ。優れた開拓者だ。
彼のような男が私の元に来てくれたのは本当に幸運というものだろう。
「――無事に報酬を支払えそうで良かったよ。金が出て来ない可能性も考えていた」
「ふふっ、そういうこと他の奴に言わない方が良いですよ。俺たちは働きに対して報酬を受け取る。
だから掘り出されたものが金だろうが屑だろうが関係ない。でも、ボスの懐が潤って良かった。貴方ほど良い雇い主はいませんから」
聡明な男だ。自らが結んだ契約の意味を理解している。
手に入った富の行き先も、何に対して報酬が支払われるのかも、どちらが危険を負担するべきなのかも。
ガンマンや鉱夫としてではなく、商人としても雇いたいくらいだ。
「リック、君はどうしてメタリアに? その頭と銃の腕があればセルタリスでも仕事はあったろう」
「んー、割のいい仕事がなかったからですかね。俺、嫁の身体が弱くて、金が要るんですよ」
「なるほど。確かにメタリアでの仕事は稼ぎが良いものな」
わざわざ海を越えて労働者が流れ込むくらいには稼げる場所だ。
まぁ、逆にそれだけエウタリカが疲弊していたというのもあるのだろうが。
既に職に就いている者たちで溢れていて、若者の席は少なかった。私やチェスのような人間が幸運だったのだ。
「ボスのおかげでまた稼げますんで、カミさんも喜んでくれるかと」
「ふふっ、そいつは良かった。君とは長い付き合いになりたい。優秀だからな」
「今の報酬が続くようでしたら、望むところです」
――男2人、不敵に笑い合う。そんな時だった。
大地が揺れたのは。
「ッ……?!」
「”地震”って奴ですかね、遠い東ではよくあることだって聞きますが」
「どうだろうな……”怪獣”かもしれない」
”ハッ、あんなの先住民のオカルトでしょう。グランドアークじゃあるまいし”
リックはそう笑う。
そうだよな、ウィルドマスター社の持つあの情報を知らない限り、そう思うのが普通だ。
「――また、揺れましたね」
「リック、お前は帰れ」
「……いいや、帰るのは貴方と一緒です。行くんでしょ? 中を確認しに」
魔術師殿から貰ったウィルドマスターライフルの新型を握る私を前に、リックは自分のリボルバーに弾丸を装填していた。
「効かないぞ、拳銃程度じゃ」
「じゃあ、こいつも持っていきます。その新型に比べたら威力は劣るでしょうがね」
「……本当に良いのか?」
こちらの確認に頷くリック。
「今、ここが御破算になったら俺も困りますから。怪獣とやらを殺せたら追加報酬ってことで良いっすか?」
「――良いだろう、お前の銃で倒せたのならな」
「じゃ、報酬は弾んでくださいよ?」
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