理由

少年はいつも、同じ場所にいた。


おかげで、そこまで行く道を亜礼は完璧に覚えてしまった。加藤が指令を下し、実行は明後日だと言われた時、真っ先に少年に伝えようと思った。なぜかは分からない。仲が良いなんてことは勿論ないし、仲間意識だって感じはしない。でもーー強いて言うなら、亜礼と少年はよく似ていた。亜礼が勝手に思っているだけなのかもしれないけれど。


「へぇ。良かったじゃん」

指令が下った、と言ったら少年は素っ気なくそう言った。相変わらず、亜礼とは距離を置いて座っている。亜礼ももう慣れた。構わずに話し続ける。

「加藤サンだってそんなやばい人じゃないんじゃない?だって」

「お前の望みを察して、指令を下してくれたとか思ってる?」

亜礼は言葉に詰まった。だって、と口の中で呟く。加藤が亜礼を気遣ってないなら、どうしてあんな指令を下すのだろう。いつもの如く他の人に回せば良いものを、わざわざ亜礼に命じてきた。火の扱い、というのもあるのだろうけれど。

少年は鼻で笑った。おめでたいなぁ、と言う。

「加藤さんに普通の良心があれば、俺たちをそもそも予備警察にはしない」

だって、子どもだろ?と少年は言う。

「普通なら可哀想って思って、そーゆー復讐みたいなことからは遠ざけようとするでしょう」

それが本人にとってありがたいことかどうかはともかく、普通はそうして然るべきだ、と少年は小難しいことを言う。亜礼は半分も理解できない。したくない。

「ここは大人に任せろ、とかさ。加藤さんは言わないんだよ。俺たちにとっちゃありがたいかもだけど、周りからしたら俺たちはずいぶん不幸な子に見えるだろうな」

予備警察に利用される可哀想な子どもだ、となにがおかしいのか少年は笑う。亜礼はなぜだか腹が立ってきた。

「そんなさ、分かってるってんなら、なんでお前は予備警察に入ったんだよ」

虚を突かれたように少年は一瞬黙って、それからまた笑う。昏い笑みで、亜礼はぞっとした。触れてはならないところに、無神経に触ってしまったような気分だった。


知りたいなら、言ってやるよと、少年は低い声で言った。亜礼は一瞬怯む。そして、それを悟られたくないと背筋を伸ばした。

「なんだよ。大層な理由があんなら、言ってみろ」

皮肉を込めて言ったけれど、少年は突っかかってこなかった。身構えていた亜礼はまた肩透かしを喰らったような気分になり、それから居心地が悪くなる。なんだかーーいつもの感じじゃない。

「そりゃさ、あるよ。御大層な理由がさ」

じゃなきゃ、こんな風になってない。そう言った少年は、ほんの少し悲しそうに手の指を組み合わせる。

俺はーーと、少し言いにくそうに言葉を止め、意を決したように亜礼を正面から見据えてきた。


「父さんの、仇打ちだ」


下町の奴らに殺された、と少年は言った。

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