仲間

つるつると、銀色に輝くドアを加藤は押す。おかしな機械音が聞こえて、滑るようにドアは開いた。

どんな仕組みだろう、とまじまじと見ていたら、加藤が笑い混じりに亜礼の名を呼んだ。

「さっさと通らないと閉まるよ」

亜礼が慌てて通ると、加藤は平然と前を歩いている。では、あのドアはここではそう珍しくないものなんだ、と亜礼は思う。

「ちょっと迷路みたいだけど、防犯の為なんだ」

 加藤はそう言って、奇妙に入り組む廊下を歩いていく。一人なら絶対迷ってしまいそうだった。ぐねぐねと進んで、五分ほどで小さなドアの前に着いた。

 加藤が屈みながら通った後を亜礼が続く。ドアの内側は狭くて天井が低い。照明もろくになくて、息苦しくなるような圧迫感があった。

「ちょっと居心地は悪いけど、わざとだから」

加藤が少し笑う気配がした。怖がっているのがバレたのかと、亜礼は震える手を握りしめた。

不意に加藤の姿が消えた。亜礼は目を瞬いて、横道に逸れたのだと気がついた。手で探ると、少し前の右の壁にぽっかり空間が空いているのが分かる。亜礼がその道に入ると、淡い光が目を刺した。霞む目を凝らすと、加藤が立つ場所に開いたドアが見えた。

「ようこそ」

加藤がそう言う。開いたドアの先には、ごちゃごちゃと雑多な物が散らかっている部屋があった。

「ここが我が班の部屋だよ」

 加藤が手で指し示す先には、様々な人が複雑な顔で亜礼を見ていた。

 本当に歓迎されてないんだ、と感じた。それで構わないけれど、果たして仕事になるのだろうか。

「加藤さん、また変なの拾ってきたんですね」

そう言ったのは40ほどの男だった。亜礼に強張った目を向けてくる。

「下町の子なんでしょう。上手くいくんですか」

「それはアレイ次第だから」

あ、この子の名はアレイだから、と加藤は言う。亜礼は黙って突っ立っていた。

「加藤さんは他にやることあるんじゃねぇの」

そいつの面倒は俺らに押し付けるのか、と別の男が嫌そうに言う。

「そうね、あたしもちょっとーー」

「大体、なんで下町の餓鬼が予備警察になりたいなんて思うんだよ」

「前代未聞、だろ」

「下町の餓鬼なんて誰も歓迎しねぇよ」 

 亜礼は下を向きたくなるのを必死に堪えた。加藤は特にフォローもせず黙ってその様子を眺めている。

 班の大人たちは亜礼とは関わり合いたくない、という風に眉を顰めているし、亜礼の方も話す気はなかった。自分が予備警察になったからといって予備警察に好意的になるわけではない。

 頑なまでに黙り込む亜礼と、亜礼を歓迎しない雰囲気に呆れたように加藤が微笑んだ。

「今日から仲間になるんだから、そんな頑固なこと言わないで仲良くしてくれ」

大人なんだから、と加藤は言う。勘弁してくれ、という風に男が天井を仰いだ。

「加藤さん」

 加藤に呼びかけたのは、たぶん亜礼と同い年くらいの少年だった。加藤が言ってた子か、と亜礼はぼんやり思い出す。

「俺は大人じゃないでしょ?」

 そうだな、と加藤が面白がるような声音で頷く。

 変なこと言う、と亜礼は少年を見た。気の強そうな目が印象的だーーと考えていたら、突然視界がぐるんと回った。

 背中から床に落ちて、息が詰まる。げほげほと咳き込む亜礼の頭上から、少年の冷たい声が降ってきた。

「下町の奴なんて、俺は仲間だと思わない」

下で這いつくばって生きてろ、と捨て台詞を吐いて少年は部屋を出て行った。

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