第一話 ハグミット⑤

 ここだと案内された部屋は、暗闇の中に爺の掌に乗るキューブをそのまま人の上半身ぐらいまで大きくした物が豪華な台座の上に浮かんでいるという不思議な空間だった。扉が閉まればそこはもう全くの別世界のようで、暗がりの中で光る金色の線からは金粉が舞っているがそれは触れる前に雪のように溶け消えてしまう。


「きれい……」

「ホント? 金色って私の大好きな色なの。」


背後から声をかけられてトバリは小さく飛び上がる。そこにはトバリと同じ年くらいの可憐な少女が立っていて、こちらに微笑みかけていた。驚いて助けを求めるように二人の錬金術士に視線を送ると、「パミット。久しぶりに元気そうで何よりじゃ。」「この部屋のお守り、ご苦労さまです。」とそれぞれ口にした。パミットと呼ばれた少女は深く頷くとトバリを見つめた。トバリはそれを、瞳の奥の奥まで覗き込まれているように感じた。


「うん、やっぱり大丈夫だ。きっとチャンスはこれっきりだと思うよ。」

「そうかそうか。ならば本題に入るとするかの。……少年、単刀直入に言うと君は錬金術が使える。そして君は世界で最後に錬金術を使うものとなるだろう。」

「私達は錬金術により二百年近く生きました。流石に老い先短い。そこで錬金術士の卵の君に最後のお願いがあるのです。」


それは最後の願いと言うにはあまりに優しく、利己的とはかけ離れたものだった。大人が隠した真意を子供が暴くことなどできず、夏休みは少年の心に深く爪痕を残して別れを告げた。

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