その後の世界

「どうして!何で穂花がこんなことにならなきゃいけないんですかっ!

 そもそも学校がイジメを放置したのが問題でしょ!

 ちゃんと、そいつらの名前を教えなさいよ!」


 校長室の中、里中穂花の母親が、激しい剣幕で怒鳴る声が響き渡る。


「私も、っ……なぜ、舞が?

 あの子は、何にも問題のない……よく出来た子だったのに……」


 対照的に宮内舞の母親がすすり泣き、隣で父親がその肩を抱いている。


その場に呼ばれた英語教師の高松由紀も、どうしてこんな事になったのか、全く理解できなかった。


そのニュースは二学期の始業式の直前に警察から知らされた。埠頭に打ち上げられた二つの遺体。


水死体にも関わらず、とても状態は綺麗だったそうだ。おそらく、すぐに水から出る事が出来たのだろう。


 亡くなった二人の女生徒、宮内舞と里中穂花は、ともに高松が担任を務める二年一組の生徒だった。


 ただ、教室内で二人が仲良くしているところは一度も見た事がない。


 里中は小学生の頃からずっと続くイジメを受けていて何度も問題にあがる生徒ではあったが、なぜそんなにイジメられなくてはならないのかわからないほど、善し悪しに関わらず大きな特徴のない生徒だった。


 そして、彼女は5月末には不登校になり、6月には捜索願いが出されていると聞いていた。


 一方の宮内は活発で、何をやらしてもトップ10に入り込むような非の打ち所がない生徒で、生徒会副会長の任に就いていた。


 彼女については、よく出来た生徒というほか何も言葉がない。


 ただ一つだけ、本当に些細な出来事が喉に小骨がつかえているような感覚で残っている


 あれは、昨年度の3月に行われた生徒会役員選挙の事だ。


 生徒会役員に立候補する生徒は少なく、毎回優秀な生徒に依頼して信任投票で選出される形を取っていたのだが、何故かこの時は会長職に二人の立候補者が現れた。


 一年一組の宮内と、一年三組の佐藤だ。三組の担任だった高松が、一組の担任の鈴木に相談すると、彼はあっさりと宮内の立候補した職を副会長に変更した。


 その翌日、宮内は職員室に怒りの形相で現れたのだ。


「先生、どういう事ですか?

 私は会長に立候補したんです。副会長じゃありません!」


「いやあ、会長の立候補者がもう一人いたし。いいじゃないか、どっちにしても生徒会役員に変わりはないんだから」


「私にとっては大違いです。

 修正してください」


「いやぁ、でもね。

 二人いるって事はどっちかが落ちるって事で……」


「そんなの、最初から覚悟して立候補したんです」


「いやぁ……、ねぇ、高松先生」


 年配の男性は、こうして女生徒と揉めるたびに、その収拾を女教師に振ってくる。

 ため息をついて、宥めるように言葉を紡いだ。


「男の子を立てておいた方が、賢い女として支持されるものなのよ。あなたの手腕は確かなんだから、会長を掌で転がすつもりで副会長を務めたらいいのよ」


 宮内は、表情を失い蒼白な顔でこちらを向いた。

 責めてるのか、どうかもよくわからない、とにかく能面のように無表情になり、無言で一礼して職員室を出て行った。


「あのくらいの女の子は、我が強いからねぇ。

 助かったよ、高松先生」


 そのお礼に、何かまとわりつくような不快なものを感じながらも、会釈して次の授業の教室に向かった。


 まあ、でも、本当に些細な出来事だ。宮内はこんな事で、自殺するような生徒じゃない。


「思春期ですし、こうして二人でおり重なるようにして発見されたという事ですし、恋仲だったんじゃないでしょうかねぇ」


 校長がのんびりとそんな事を言った。


「何ですって!

 学校側はイジメの責任を認めないつもりですか?」


「いえ、もちろんそれも一因ではあったと思いますし、学校としては再発防止に一丸となって取り組みます。

 けれど、女の子同士の許されざる恋を悲観して、そうして二人で散っていったと考えたら、悲しいけれどもとても美しいように思うんですよ」


 宮内の母親は、一層声を上げて泣きだした。


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