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「ありがとう。このハサミが一番手に馴染んでるんだ」
「はい」
「類、泣かないで。俺は言ったはずだよ。必ず店長として東京に戻ると」
「……はい」
「俺が店長になったら、類を俺の店に引き抜く。類が俺以外の人を想っていたとしても……類を迎えに行くよ」
「……私を?」
「だからそれまでに色々な技術を身につけてプロになれ」
「む、無理です。私なんて不器用だし、みんなの足を引っ張ってばかりだし」
「類の周りを見てごらん。蓮さんも捺希もいずれは店長になるほどの逸材だ。鳴海店長なんて幹部候補だよ。類は恵まれた環境にいるんだ。類なら出来る」
「私なら……出来る?」
「そうだよ。類なら出来る。俺は今日からbeautiful magicのライバルだ。来年のショーは俺のヘアメイクで必ずグランプリを獲る」
「波瑠さん……」
「さよならは言わない。類、行って来ます」
「……行ってらっしゃい」
ホームにベルが鳴り響き、新幹線のドアが閉まる。
私は泣きながら三上を見つめた。
『かならず……もどる』
声は聞こえないが、三上の口の動きを必死で読み取った。
新幹線は走り出す……。
追い掛けても手は届かないのに、私は泣きながら新幹線を追って走った。
◇
「ただいま戻りました」
「類、遅いぞ。真鍋様のシャンプーを」
「あっ、はい!」
店に戻るとそこは戦場と化していた。
でも、どんなに忙しくてもスタッフは微笑みを絶やさない。
「鳴海店長、ありがとうございました」
「類に礼を言われる筋合いはない。真鍋様お待たせしました。類がシャンプーを担当致します」
初めて来店されたお客様をシャンプー台に案内する。『かならず……もどる』三上の言葉を胸に、私はお客様に笑顔を向けた。
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