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「皆さん誤解されているようだ。類さん、今夜は失礼するよ。独立資金援助の話は、よく考えて返事をさせてもらう」


 北麹はさも私が独立資金の援助を申し出たかのように、振る舞っている。


 立ち去ろうとした北麹に拳を振り上げたのは、鳴海店長でも三上でもなく、香坂だった。


 ズンッと鈍い音がし、北麹が床に突っ伏した。


「貴様、わかってるのか。私は客だぞ。beautiful magicのスタッフは客に暴力を振るうのか。この女はスタッフと関係を持つような尻軽女だ!」


「誰が尻軽女だって? ふざけんな!」


 香坂が床に突っ伏している北麹の胸ぐらを掴み、再び拳を振り上げた。その拳を鳴海店長が掴む。


「蓮、これくらいでやめておけ。暴力は何の解決にもならない。北麹様、当店のスタッフに対するセクハラ行為は、婦女暴行未遂にも匹敵する卑劣な行為。警察に暴力を振るわれたと訴えるならば、こちらも警察に被害届を提出するまでです」


「これは同意の上だ。鳴海店長、あとで後悔してもしりませんよ」


 これ以上、ことを荒立ててはならない。

 私はズボンのポケットから、携帯電話を取り出し北麹の目の前に突き出した。


「ぜ、全部……録音してあります」


「……録音?」


 私は震える指で、再生ボタンを押した。

 北麹との生々しいやりとりが室内に流れた。ピリピリとした空気の中で、鳴海店長が口を開いた。


「類は当店の大切なスタッフ。先ずは、類に謝罪していただけますか」


「誰が謝罪するものか。俺はこの女にそそのかされたんだ!」


「ちが……います。私……警察に被害届を出します」


「北麹様、類はそう申しています。証拠の録音もある。警察署まで御同行願いますか?」


 北麹は四人に取り囲まれ、観念したように床にひれ伏し、私に土下座をした。


「私が悪かった。申し訳ない。警察だけは勘弁してくれ! 弁護士を立て慰謝料を支払います! ですから、警察だけは……」


「北麹様、今夜はお引き取り下さい。類と相談の上で、どうするか判断します」


 北麹は立ち上がり、逃げるように立ち去った。


 私は胸元を隠し、ベッドの上で蹲る。


「類、大丈夫?」


 諸星が上着を脱ぎ、私の体に掛けてくれた。


「いつまで俺のベッドを占領してんだよ。さっさと部屋に戻れ」


「……すみません」


「だが、蓮が部屋に来ることを計算して、ここに逃げ込むとは、類もよく考えついたな」

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