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 北麹は口角を引き上げ、唇を近づけた。

 ゾクリとし、全身に鳥肌が立つ。


 玄関でガチャンと音がし、ドヤドヤと人の話し声と複数の足音がした。


 みんなが帰宅したんだ。


 北麹は私の口を再び手で塞いだ。そして力づくで動きを封じた。


「類いないよ? お風呂かな? もう食事済ませたのかな?」


「捺希、ビール取ってくれない?」


「いいよ。波瑠さん僕に一本分けてくれない?」


「いいよ」


 北麹はドア越しの会話を聞きながら、私の胸をまさぐる。


 ――もうすぐ……香坂がここにくる。


 脱衣所のドアが開閉する音がし、次の瞬間部屋のドアが開いた。


 香坂は一瞬目を見開き、眉をしかめた。


 北麹は香坂と視線が重なり、ギョッとしている。香坂は状況を把握し、北麹に言い放った。


「悪いな。ここは俺の部屋だ。ラブホじゃねぇ!」


「……香坂蓮の部屋!?」


 北麹は香坂の剣幕に怯んでいる。


 私はすでに涙目だ。

 腰が抜け、立ち上がることが出来ない。


 香坂の怒鳴り声に三人が集まってきた。ベッドに押し倒された私に馬乗りになり、呆然としている北麹。


 何があったのか、一目瞭然だった。


「勘違いするな。俺を誘ったのは彼女だ」


「類があなたを誘った?」


「そうだ。自らブラウスのボタンを外し、関係を持つから、独立資金を援助して欲しいと言った。これは大人の商談だ。みんな出て行ってくれないか」


 怖くて声が出せない私。

 それをいいことに、北麹は嘘を並べ立てる。


「北麹様、出て行くのはあなたの方です。ここはbeautiful magicのシェアハウス。住居内でそのようなことをされては困ります。それにこの部屋は類の部屋ではない。蓮の部屋です。いくらお得意様とはいえ、このような暴挙に目を瞑るわけにはいきません」


 鳴海店長は静かな口調だが、視線は鋭い。


 北麹はベッドから立ち上がり、慌てて緩んだネクタイを絞め直す。

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