128
毎晩特訓したんだ。
三上にも香坂にも教えてもらったんだ。
だから……
類、自信を持ちなさい。
自分で自分にハッパをかけ、屋代の座った椅子を倒し、顔にガーゼを乗せる。
湯温は少しぬるめ……。
香坂をチラッと見ると、鏡越しに視線が重なった。
「屋代様、お湯の温度は大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
素洗いしシャンプー剤を掌で泡立てる。指の腹をつかい、生え際から頭頂に向けて洗う。
「痒いところはありませんか?」
「大丈夫です。なんだろう……君の指使い、気持ちいいね。初めてとは思えないな」
「ありがとうございます」
屋代に褒められた。
初めてのお客様に褒められた。
エステティシャンの時にも、お客様から『気持ちいい』と言われたことがない私は、その一言で胸がジーンと熱くなる。
シャンプーを終え、タオルで髪の毛の水分を拭き取る。
捺希さんは次のお客様のカットを終え、屋代のブローをする。
「類、門脇様にドリンクお願いします」
「はい」
すぐにキッチンに入り、門脇に珈琲を入れる。
そのあと小池のシャンプートリートメントをし、小言を覚悟したが、意外な言葉をいただけた。
「蓮さんには敵わないけど、でも合格点ね」
「ありがとうございます」
自分の仕事を与えられ、忙しくなったけど少しだけ自信がついた。
自分もbeautiful magicの一員だと言ってくれた香坂に、私は一歩踏み出す勇気をもらった。
ショーのモデルを務めたのに、お客様は誰も私だと気付かず、相変わらず私は男性だと勘違いされてるけど。
それでも充実した毎日だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます