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「零士……あなた……男性と!?」
「吉沢様、類は女性です。勘違いしないで下さい」
「この人が女性? 私を騙そうたって、そうはいかないわ。彼はどう見ても男。あなたが男と付き合うはずはない。嘘をつくなら、もっと上手い嘘をつきなさいよ」
「あの……お言葉ですが。私は……女です」
「えっ? 女? beautiful magicのスタッフは美男と決まっているはず。女性が働いているなんて、あり得ない」
「吉沢様、コイツは吉沢様みたいに美女でもナイスバディでもありませんが、一応女ですよ」
香坂のやつ、ここぞとばかり嫌みの連発だよ。
「スタッフがグルになって、私を騙すのね。零士の気持ちはよくわかったわ」
店を飛び出そうとした吉沢の手を、鳴海店長が掴んだ。
「吉沢様、お客様としてのご来店ならば歓迎致します。ですが、このようなことはもう二度としないで下さい。吉沢様は俺達とは別世界の方。当店でのトラブルは、吉沢様のプラスにはなりません。どうか、あなたはあなたの選んだ道を全うして下さい」
「……零士」
「当店のスタッフ全員、吉沢様の今後益々の飛躍をお祈りしています」
吉沢の目から大粒の涙が零れ落ちた。
これが……
鳴海店長の愛し方なんだ。
彼女を愛しているからこそ、彼女を冷たく突き放す。心の中は、彼女への愛で溢れているのに。
「……わかりました。もう二度と来ません。さようなら……零士」
ドアが静かに閉まる。
「ありがとうございました」
鳴海店長が……
閉まったドアに、深々と頭を下げた。
悲しいほど切ない大人の愛の形に、胸が苦しくなる。
頭を垂れた鳴海店長の背中が寂しげに見えた。
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