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 ◇


「あんまりだぁー……」


 仕事を終えシェアハウスに戻った私は、諸星相手に香坂に言われた言葉をそのまま吐き出す。


「まぁまぁ、そんなに泣かなくても。でもこの調子なら、僕達の圧勝だね」


「捺希さんまで酷い。私は女なのに、女性にキスされたんですよぅ」


 諸星の缶ビールに手を伸ばすと、スッと取り上げられた。


「はいはい、キスくらいで騒がないの。類は禁酒だよ。鳴海店長と蓮さんと波瑠さんは仲良くバーに飲みに出掛けた。今夜僕達二人きりなんだよ。正体無くすと僕が食べちゃうからね」


「わ、わ、わ、禁酒します。絶対飲みません」


 諸星は笑いながら缶ビールをグイッと飲み干す。私が焼いた広島風お好み焼きを美味しそうに口に運んだ。


 ずっと気になっているアノことを、聞くなら今しかない。


「捺希さん……あのぅ」


「なに?」


「私達あの日……」


「僕が類の部屋に泊まった日? 僕達が一線を越えたか聞きたいの?」


「……っは」


 ズバッと言われると、言葉に詰まる。


「類の体は何も覚えてないの? 痛みも快楽も?」


「……っあ」


 ヤバイ、刺激が強すぎる。


 諸星は私の様子を見てクスッと笑った。


「類は面白いね」


 もうこれは飲むしかない。


 ビールに手を伸ばすと、諸星にサッと取り上げられた。


「類が自分で思い出すまで教えてあげない」


 諸星は私の手を握り、指の間に諸星の指を絡ませる。


 ただそれだけなのに……。

 ドンドコドンドコ、乱れ太鼓のように鼓動は大きな音を鳴らし、火が点いたように全身が火照った。

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