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「類、制服を取りに来い」


「はい」


 ……鳴海店長の部屋に?


 昨日の暴言もあり、私は緊張した面持ちで着いていく。諸星はそのまま二階の自室に入り、部屋からすぐ出てくると二階の浴室へと直行した。


「類、一緒に入る?」


「は、入りません」


 焦る私を楽しむように、諸星はクスリと笑った。


「冗談に決まってるでしょ」


 そうだよね。


 鳴海店長が目の前を歩いているんだ。キツイ冗談だな。


 鳴海店長は自室のドアを開け、目で入れと命じた。


「……失礼します」


「これがbeautiful magicの制服。黒のパンツ二本と黒のベストは一着。白いシャツも取り敢えず二枚ある。ベストの着用は自由だ。類の制服は後日届くはずだ。当然男物だがその胸囲なら着用出来るだろう」


 ……っあ。


 鳴海店長、それセクハラですよ。


 思わず小さな胸を隠した。


「錦折は身長百八十センチ、新しい制服がくるまで、ズボンの裾あげをして着るんだな」


 私は身長は百六十五センチ。女性にしては大きい方だけど、このまま着るのは無理。今からマジックテープで直さないと。


 鳴海店長の部屋の隅には、紐でくくったままの雑誌が置かれていた。自然と視線がそちらに向く。


 鳴海店長は私の視線に気付くと、顔を近付けた。


 うわわぁ……。


 唇が……ちか、近い……。


「俺が雑誌の持ち主。何か言いたそうだな」


「とんでもありません。エロ雑誌だなんて言って申し訳ありませんでした。そもそも鳴海店長がエロ雑誌なんて見るはずはなく、この雑誌はエロ雑誌ではなく、えっと……」


「エロ雑誌と何度連呼するんだ。言いたいことはそれだけか」


「鳴海店長がカンナさんと付き合っていたなんて知らなかったから……失礼しました!」


 しまった……!

 地雷を踏んでしまった。

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