間章「お休みⅧ」


―――???年前ガリオス興国期首都。


 世界の中心に七色とも付かぬ極彩色の光が降り注ぐ。


 破滅の輝き。

 何もかもを砕いていく暴風の断崖が迫る。

 此処から全てが終わっていく。


 激し過ぎる乱流に雨粒すらも凶器と化し、光が暴乱の風に混ざれば、楽土を砕いて蒸発させる程の熱量を有し、端からゆっくりと街も道も生命も……全てを呑み込んでいく。


 ガリオス首都は今や風前の灯。


 郊外から迫る破滅の壁としか言いようのないモノが押し寄せる最中。


 住民は全て他国へと送り出されていた。


 それは全方位へと拡大し、今や国土の先へと迫出しそうな程に肥大化。


 巻き込まれた家畜や動植物がどうなっているのか。

 実際のところは神すらも分からぬ有様であった。


「あいつらが間に合わない以上、オレ達でやるしかない。リスティア。我が孫娘殿」


「今更じゃろ? この日の為に育て上げていた癖に……今更に良心でも湧いたかや?」


 カラカラと朗らかに笑う女は強かった。

 世界の終わりが目の前に迫っている。


 だというのに、光の最中にあるモノを見据えて、彼女はその美貌と人を虜にするだろう女の笑みに豊満な胸元を僅か揺らして、クスクスと男に流し目一つ。


「まだ生きてる連中には全員出張って貰ってる。主神級の連中に連れてかれた死んでる連中もな。今回は例外無く死者も生者も関係無く全部使った」


「おお、さすが全てを脅して従わせた唯一の魔王閣下。で? 後、何分持つ?」


「現在の状況から言って、後1時間持たない。前回はあいつがいた。死んだ後、あいつに背負わせたくなくて、あのクソ姉と一緒に来世待ちに放り込んだからな。今回はお前しかいない。お前はあいつと違って精度はあるが、質は低い」


「で、あの強情な義姉陛下は王城から一歩も動かんと?」


「あいつの願いだ。此処が吹き飛んだら、最低限の約束も守れない男を永遠に呪ってくれるそうだ」


「歪んだ愛情表現じゃのう。知っとるぞ。ソレ後でデレデレになるんじゃろ?」


「さてな。死んでも護るのは当たり前。復興までしないと許さないと泣かれた」


「カカカ。では、護ってやるとするか。ああ、まったく……情けない男を祖父に持った!!」


「返す言葉も無い。いいのか?」


「良いも悪いもあるか。我は二度も故郷を失うのはごめんじゃ。それに死ぬとも決まっとらんじゃろう。もし、まだ御爺様に良心が残ってれば、残った抜け殻くらいは愛でてくれるか?」


「生憎とそういうのは良心じゃねぇと言い添えておく。孫娘殿……抱くなら泣ける女がいい」


「もしもの時は分かっとるな?」


「それ、オレの台詞なんだがな……もう一度だけ言うぞ。いいのか?」


「是非も無し。一緒に封印でもすりゃ良かろう。滅ぼせずとも十分じゃろ?」


「………不甲斐ない祖父で済まない」


 ボカリと顔も視ずに女は最愛の男の頭を軽く片手で殴った。


「青瓢箪の事は頼んだぞ」


「必ず生かしておいてやる。どうやらオレはまた恨まれるな」


「だから、今更じゃろ?」


『姫殿下ぁあああああああああああああああ!!!?』


「来たようだ。オレが足止めしておく」


「部下連中相手にやれるのかや? 特にあの熱血と蛙爺相手に」


「あいつらには最初から了承を取ってある。そもそもあいつらとの契約事項にも色々と書いてるんでな。若様には良い経験になった、くらいにしか思ってないだろ」

「あのカッコ付けは?」


「ま、どうにかなるさ。あの程度ならな」


「……はぁ、ちょっと耳を塞いでくれるか?」


『殿下ぁああああああああああああああああ!!!!』


 虚空で佇んでいた男女。


 その片方が自分の耳を塞ぐ。


「この大馬鹿者ぉおおおおおおおおおお!!! 小さいのが好きなのにこんな大きくなった我を好むとかまったく節操の無いヤツじゃなぁあああ!!! お前みたいな蒼くて心配性で毎日毎日飽きもせずに小さい時から変わらず子供扱いしてくる馬鹿な男なんてお断りじゃぁあああああああああ!!! 馬に蹴られて酷界に帰っとれぇえええええええ!!! 大好きじゃったぞおおおおおおおおおおおお!!!』


『ッッッ―――!!?』


「ほれ、隙だらけじゃ。征くがいいぞ。御爺様」


「はは、悪女だな」


「うむ。御爺様の孫であるからして。そうであるに決まっておろう?」


「……さよならだ。リスティア……お前との日々、面白かったぞ」


「楽土創りし者よ。我が故郷を頼む。義姉陛下と仲良くな?」


「それはあいつ―――」


「いいや、それはお前と共にいる者達の事じゃろ。きっとお婆様もそう思っておった。運命を導きし魔王よ」


「……いつかまた会おう。因果地平の彼方、大宇終わる先、何処になるかは分からずとも必ず……」


 男が去った。

 女は1人。

 滅びの壁が迫る場所に佇む。


「さて、別れは済ませた。後は……そう、お前を止めるだけじゃな。天の影……滅亡と再生を司りし、運命の闇よ……もはや、此処に汝の導く生は無し。此処に在るのは―――」


 女が虚空で翅を広げる。

 8対16翼。


 この大陸において多くの種族、多くの力有る者達が取る姿に必ず含まれる象形。

 それは鳥のように飛ぶ為の型。


「単なる国を追われた王と姫の夢の終わり。そして、続いていく者達に必要な生きるべき場所だけじゃ……今一度、お婆様に代わって終わらせよう」


 女は天を仰いだ。

 ソレが降臨してくる。


 嘗て、百万の兵の犠牲と大陸中央全ての戦力を以て撃滅された。


 口伝にしか伝わらぬモノ。


 数十年前、大陸全土を巻き込んだ争乱の中心で顕れたモノ。


 魔力、ではない。


 因果を歪めながら、ソレそのものを集めて顕現していく姿は歪みでありながら、歪みそのものが形を顕す巨大な―――。


「人の恋路を邪魔するヤツは例え神だろうが魔だろうが運命だろうが、とっととお帰り願おうかッッ!!!」


 その日の事を国民は誰も知らない。


 一つだけ確かな事は首都に帰って来た彼らには王城が無くなっているようにしか見えず、その場所に大きな紅の石板に縋って項垂れる蒼い男が……国の宰相がいたという事だけだ。


 王が布達した事は3つ。

 口を閉ざし、全てを忘れる事。

 王女の名を口にしない事。

 王城を再建する事。


 ガリオス。


 その新興国は歴史に記されぬ二つの事件によって幕を開ける。


 片方は小さな小さな出来事。


 1人の女が再建される王城にもういないという事。


 片方は大きな大きな出来事。


 1人の王が病で亡くなるという事。


 全てを継いだ女王はこう後に興国記第一巻の巻末へ記す事となる。


 嵐のようにやって来て、嵐のように去っていく。


 そんな、掛け替えの無い人々を失った数十年であったと。


 そう、これはそんな小さな国の小さな物語。


 まだ、にとってはつい先日のような日々の話に違いなかった。


 ―――?


 ふと目を開けた男が人込みに酔ったわけでもないのに既視感に眩んだ瞳を瞬かせていた。


 嘗て、国を治めていた頃。


 多くの民が集う祭りに出掛けた日の事。


 全ては宝石のように輝いていたように思えた。


 そのいつかに似て。


 今もまだ人が屯して祭りのように集う様子はそう悪いものではない。


 彼にとって、ソレがどんな類のものだろうと。


「はい。新刊だよ~~今回はB5判で120頁1200円~~」


「あ、こっちにポーズ取って貰ってもいいですか~~?」


「可愛いですね~~お、それってイグゼリオンのハルテちゃんの衣装ですよねぇ!? しかも、最終話仕様!!」


「はい。並んで下さい~~こちらがサークル・アンバーの最後尾です~」


「企業ブースはあちらでーす」


「冬の新刊落としました~ごめんなさい~~コピー本で許して下さい~~」


 同人誌即売会。

 あるいはコミケ。


 ズラリと並んだ人々の人々の波の合間を男は揺蕩っていた。


 その方手には大量の同人誌が詰まった紙袋が握られている。


 未だ、大陸で数百年前の様式である蒼い礼服を着込んだままの彼。


 場違いに見えないのは彼もまたコスプレイヤー達の1人と思われているからか。


 ただ、その立ち姿があまりにも堂々としているどころか。


 貴族然としている為にその姿に気圧された人垣は勝手に割れていた。


 だが、並ばないというような無法を働く事もなく。


 静かに片手にスマホを持った男はフリック入力を使いこなし。


 滝のように流れて来る情報を読み込みながらを吸収している。


 まぁ、使い魔に自身を投影しているだけなのだが、それにしてもあの大事件が乱発された後だというのに活気のある様子は男にとっても興味深かった。


「これが人間の熱量か。世界は変われど、人は変わらず……」


 スタスタと歩いていく微妙に目立たず馴染む背中が列の先で新刊を買うと会場から遠ざかっていく。


 冬が過ぎ去る一年の終わり。


 彼は変わっていく世界の中心で変革を齎す者達の象徴。


 空飛ぶ船を見る。

 イギリス方面から動かせないシエラⅡではない。


 現状でブラッシュアップが終了して海自に下げ渡され、空自と連携して運用され始めた空飛ぶイージス艦だ。


 ミサイル防衛という主任務が人類の絶滅寸前状態で途絶後、海洋戦力として使用されていた軍艦が殆ど航空戦力や海中での戦力にも転用された姿は正しく時代が次なるステージに到達した事を人々にその威容によって示していた。


 近くの陸上の基地に停泊する事になっているらしいソレは悠々と空を渡り、遠ざかっていく。


「………」


 東京の都市圏域が更に過密、更に効率的、更にカラフルとなった昨今。


 人が消えてもその熱量はゾンビ禍後久しく無かった高まっていた。


 会場に設置された自販機からおでん缶を買いながら、男はホクホク顔のヲタクやサークル関係者やコスプレイヤーや地方から出て来た人々の波に揺られながら人が少なくなった海辺へと向かう。


 近くにあった海が一望出来るテラス席も見える喫茶店に入れば、中は彼と同じような紙袋を手にした者達がちらほらといた。


 滅びゆく時代にも人には娯楽を愉しむ事が必要だ。


 紅茶セットに近頃復活したというチョコレート製のケーキを頼んでスマホを見やれば、本日のトピックには『善導騎士団、北米制覇に乗り出すか?』という見出しが躍っていた。


 何でもアラスカやカナダの重防御陣地に護られた幾つかの都市を庇護下において更にニューヨークまでも手中に収めていくのではないか。


 という類の憶測が飛び交っている。


 先日の億人単位のMZGの打破を皮切りにして北米の従来のゾンビは激減。


 ゾンビを捕食する森も広がっており、北米の人類圏としての奪還が開始されたとみるべきである云々。


「そろそろか」


 男は店員が持ってきた紅茶とケーキを一口。


 このような小さな店舗を構えても出す品は一級品だと概ね満足し、カラリと晴れ上がった空の下。


 新たな世界の創造を決意する。

 タイミングは重要だが、もう決めてあった。

 北米のニューヨークから主戦力が帰還する直前。


 その日、多くの人々の明暗が分かれる事になるだろう。


「ゼームドゥス」


『何ですか!! 主!!』


「首尾は?」


『万端整ってますよ!! いつでも元気に東京へ行けます!!』


「爺」


『全て揃えましてございます』


「そろそろ帰って来い。貴様がいなくては話が進まん」


『はッ、では、こちらの村での活動を切り上げます』


「……翼は戻ったか?」


『ア、アタシみたいなのを気に掛けて下さるなんて感謝感激です~~!!?』


「では、指示次第。参列せよ……始めるぞ。国盗りを」


 四人の魔なる者達は畏まる。


 そして、男は何食わぬ顔でケーキと紅茶を平らげた後、きっちり代金分の紙幣と硬貨を払い。


 それに混ぜて金貨を数枚忍ばせて、外へと出た。


 男の使い魔の翼がはためく。


 それですら通常の中位魔族を上回る能力を持つ代物であったが、空を守護せしイージスとて、その姿を捉える事はなく。


 ただ、陰陽自研が自衛隊基地において運用し始めた魔力波動使用のレーダーだけが、その音速を越える物体の存在を捉えたのだった。


 *


 ―――2週間前、魔導騎士お休み事件当日。


「ふぅ。ベルさん分を沢山補給出来た良い休日でした(*´ω`*)」


「実はベルディクトさんの休日は姉さんの休日だった?」


「あ、ベルが完全にあっち側の世界に行っちゃってるわ。お姉様」


「お前達、少しは加減しろ。夜もまだあるのだから」


「(/ω\)(す、スゴイものを見てしまったという顔をしたシュルティ・スパルナ)」


『こちらハルティーナ。八時までには帰投完了します』


 そう遠くの南米からの通信が入り、ガヤガヤと少女達は姦しく。


 夕方5時半を回ったシスコの夕暮れ時。


 この頃から開き始めた酒場が幾つかある歓楽街の端からデートコース最後の店に向かう事になっていた。


 移動は徒歩だが、前後不覚になったクテェッとした少年は魔術でフヨフヨ浮かせながらヒューリが引っ張って歩いている。


 安治は暗殺未遂の件で離脱。


 ミシェルと明神も何かあったらしく離脱。


 残るカズマとルカは少女達に付き合い続けていたが、見るのも忍びないくらいに女の子にしか見えないよう化粧までされて連れ歩かれる惨い少年の惨状を見るに見かねて後は明日聞こうと別行動して本部の地下で一緒に食事するまで離脱。


 ハルティーナの帰りが8時なので遅い夕食を取る事が決まった彼女達、ベルさんの休日を盛り上げ隊(今命名)は満ち足りた様子で突き進んでいた。


「それで最後の店は誰が?」

「は、はい。わ、私です」


 シュルティが小さくなって手を上げる。


 未だフィクシーを前にちょっと凄い綺麗な人だなぁと気後れしている彼女である。


「で、此処か?」


「はい。ベルディクトさんが好きだと聞いたので」


 彼女達がやってきたのはゲームセンター。


 それも近頃出来たばかりの日本式の輸入品の台が溢れる場所であった。


 キャッチャー系の台には色々な景品が並び。


 縫い包みから缶詰まで多種多様にズラリ並んでいる。


 夕暮れ時という事もあり、まだ盛況なようで店内はそれなりに広いが20人近い客が屯していた。


「景品を機械で取るのか。ふむ……」


 ジャラッと100ロス・シスコ$分の硬化が用意され、全員に各自好きなものを取るようにとのフィクシーの指示が下る。


 と、同時に少年はさすがにそろそろ可哀そうだからとベンチにシュルティと共に残された。


 シュルティが参加するのは後半戦。

 前半戦終了後はヒューリが見る事になったのだ。


 各自、動体視力と反射神経が鍛えられた善導騎士団の精鋭である。


 高がゲームの景品程度取ってみせらぁと奮起した彼女達は好きなものを必要なだけ取る為に連コイン。


 次々にキャッチャーから景品が落下し、店員が対応していた。


「……ベルディクトさんはどういうゲームがお好きですか?」


「―――あ、はい。ええと」


 何とか再起動を果たした少年の意識がシュルティの声に答える。


「どんなものでも面白ければ、試してみたい派ですかね」


「試してみたい……時間はあります?」


「あはは……あんまり、でも……そうですね。データで出来る場合は脳裏で九十九を使って空いた時間にチョコチョコやってます。シュルティさんは?」


「実はあんまり機械は得意じゃなくて」


「じゃあ、みんなで現実でやるゲームしましょう。トランプとか花札とかTRPGとか。時間があれば、二人で対戦出来る将棋やチェスもいいですね」


「今日ですか?」


「はい。今日は終日お休みなので食事が終わってからお風呂入って9時開始でどうでしょう?」


「皆さんとの時間とか……」

「今日一杯遊びましたし」

「何だか申し訳ないです」


「そんな事ありませんよ。こういうのが大事なんでしょうし」


「?」


「いえ、僕らっていつ死ぬか分からない職業に今就いてるわけじゃないですか。でも、いつ死んでも僕はこの記憶があれば、寂しくありません。悔いは残るでしょうけど……」


「―――強い、ですね。騎士ベルディクトは……」


「強いんじゃないんです。強がってるだけです。僕に出来る事は限られてますし、世界を動かせたところで何もかもを救えると己惚れていい実力もありません。地道にコツコツ頑張れる人達が頑張れるようにするので手一杯です」


「近頃は頑張れない人達も頑張れるようにしてません?」


「あ~それはあるかもしれません。別に働かない人はそれはそれで必要なのでいいんですが、働けない人は働けるようにするのが良いと思うので」


「何が違うんですか?」


「働かない人は働けます。もしもとなれば、働く事も吝かじゃないでしょう。でも、働けない人はどうしたって働けません。やる気や才気や物理的な困難。そういう不可能を取っ払ってしまうのが全員で生き残るのには必要だと近頃思えます」


「やっぱり、凄いです……普通の人はそこで諦めちゃうものじゃないですか」


「諦める理由が無いので」

「理由があれば、諦めます?」


「諦めた方が良い場合は……でも、大概諦めると悪い方向に流れちゃうと思うんです……逃げる事は大事ですけど、逃げ方にだって色々あって然るべきです」


 少年がそう言ってからチラリと視線を横に向けると。


 取りたいモノを取りたいだけ実力でゲットしたヒューリ達が一汗掻いたぜと言わんばかりに汗を拭い。


 他の客達から拍手されるくらい華麗に連続ゲットを終えて、店員に写真を取られて、連続〇〇回ゲットのお客様として台の横のボードに張り付けられていた。


 そろそろ戻ってくると様子なので少年が膝を払って立ち上がる。


「じゃあ、そろそろ一緒に行きましょう。後ろで応援されながら、やってみませんか? 取り方ならアドバイス出来ると思います。これでも物理学詳しくなったので」


「……はい」


 苦手で遊べないなら遊べて楽しくなるよう少年はきっと計らう。


 そう、それだけの事を今も人類全体相手にやっているのが少年の騎士としての仕事なのだろうと彼女は理解する。


 あの日、家族が少年と対峙した日。


 魔術師が知った絶望は同時に全てにおいて出来る限りの事をしておくというだけの少年という在り方に敗北した事をシュルティ・スパルナはようやく理解した気がしたのだった。


 こうして遅い夕食を本部地下で取った彼らは極めて健全に夜更かしして集まれるだけ集まったみんなでワイワイガヤガヤと色々なゲームで遊ぶ事となる。


 そして、明日が始まった頃。


 先日造った寝そべれる大広間の敷き詰められた布団で雑魚寝してしまった全員に毛布を掛け終わった少年は今日も楽しい日だったと。


 そう、微笑んでからゆっくりと忍び足で仕事へと向かう。


「……ベルさん。楽しかったですか?」


 そう後ろからもう左程眠る必要も無くなっているヒューリに問われて。


「凄く楽しかったです。皆さんとこんな風に遊べて、また今日も頑張れそうです」


「……あんまり無茶しちゃダメですよ?」


「はい。でも、無謀じゃないので時々はするかもしれません」


「行ってらっしゃい。ベルさん」

「はい。行って来ます。朝には戻りますから」


 布団の上で枕の上で頬杖を付きながら、少女はコクリと頷いた。


 仲間達を置いて魔導騎士は再び動き出す。


 再稼働し始めた魔導による物資の貯蔵備蓄。


 次々に再開された決済。


 無数の人員が処理していた多数の案件の報告書作りに書類作り。


 全てを把握しながら、少年は本部の直上。


 真夜中の入口付近で待っていた秘書2人を見付ける。


「お耳に入れたい事があります」

「重要な情報が入りました」

「はい。日本に向かいましょう」


 こうして魔導騎士のお休みは終わり。

 再び国家は、世界は、熱されていく。


 それが人知を超える者達に届く刃と鍛え上げる為に。

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