第91話「決別」

闇の眷族と静寂の王~トゥルー・イン・ザ・ダーク~


 追加登場人物


 シヴァルヴァ・ハスターシャ(???????)♂


 ・魔浄眼の主にして片目が疼き、片手に封印を持つ高位魔族のオッサン。本人は長命な魔族達の中でも若手であり、今だ中堅とは呼べない程度の実力しか持っていないが、彼の瞳と腕の力は上位者を凌駕し、滅ぼす程の力を秘めている。嘗ては祖国であるクアドリスの領邦において側近として暮らしていたが、今はその日暮らしであり、陰陽自衛隊富士樹海基地に陰ながら居候する不審者。大抵、目と片手が疼いている為、それを誤魔化す為に絶えず笑っている。くくくく、お前も家無し宿無し祖国無し魔族にしてやろうかぁ!!!


 ヴァセア・クリーズナー(???????)♀


 ・東京を孕ませたキッチュな低位魔族。ちょっとビルを風に乗せて東京を瓦礫に出来る程度の能力しかない小物。ただ、死んで蘇生するくらいの特殊な能力はあり、小間使いとしてクアドリスに飼われている。いつも誰かに情報を持っていく様子は働きバチだが、戦闘狂で生粋のS&M+人食いの役満女。蛾蟲呼ばわりされると怒るが、翼は蘇生時に失くしてしまったので今は仲間内で妖精さん扱いされている。


 天地蛙リバーシア(?????????)♂


 ・ヤバイ蛙の化身。帽子を被った老蛙……嘗て、大陸最高位の頂点存在が在籍する組織に席を置いていた推定億歳クラスの超高位魔族。ただし、今は後見人で本の蟲な上に日本の学術書と歴史書に夢中の暦蛙。過去、大陸の特定の地域では神として崇められ、神格位も持つ有能な水生系魔族でもある。自生種と呼ばれる存在であり、魔族の世界―――酷界において自領を立ち上げれば、確実に10兆単位の臣下を持てるが、ヨチヨチ歩きの赤子の興国を優しい目で見るお爺ちゃんとして奮闘中。


 片世頼充かたせ・よりみつ(43)♂


 ・白戸重工という企業のトップである代表取締役の40代。白戸は日本国内有数のコングロマリットであるが、今現在はとある理由から日本政府との間にはあまり良い関係を保てていない。ただ、その繋がりは深く。未だ戦闘機などを筆頭とした軍需品の生産においては総生産量の3割以上を受注しており、年間の各企業の連結決算は7兆円規模と推定される。この30年程で急成長した新興企業連合体である白戸財閥は創業家である白戸家を筆頭に3つの家が深く関わっており、現在は関西から関東の周辺に数十の関係企業を持つ新興の成金である。しかし、関連企業の殆どが別の業種毎の会社でありながら、規模が一律に数千億円程であり、総資産額は全体で20兆円以上と言われる。片世家は白戸家と創業時の共同出資者ではあるが、その株は一切非公開で流出しておらず、同時に株式で受け取れる全ての不労所得が日本国内の児童養護施設に寄付されており、正体不明の足長おじさんと称されて久しい。ただ、片世家は地方の寂れた地域の一戸建てに住まっており、家族も数名で一般人としてひっそり暮らしているという。当人には一人妹がいるが、兄弟仲は悪くなく。クリスマスや正月、お盆、桜の季節、夏休みなど、結構頻繁に会っては飲み会を開いているらしい。


 由比卓也ゆい・たくや(????????)♂


 ・熱血を絵に描いたような人物であり、近頃出現した新興宗教団体【熱血会】の代表にして今は子供達の養育者。彼が何処から来たのか誰も知らないが、時々一人でブツブツと何処かと生身で交信している事から、信者達には熱血の神と話しているに違いないと言われている。極めて熱血な性格であり、人を励まし、人を慰め、人を叱り、人を激励する最上級の熱血語を操る。子供達からの受けは非常に良く。東京崩壊時に出た孤児や逃げ出した児童養護施設預かりの子供達を集めては熱血指導で更生させ、人が征く道を己の背中で示す姿が一部では聖人としてネットでも話題になりつつある。クアドリスに日本占領を任されている辺り、実は当人よりも内政に優れていると仲間達からは思われている。彼の魔族としての能力は分かっておらず、遠隔で話している人物の肉体を爆裂させる程度の能力以上の事は未だに分かっていない。ただ、彼を認めない仲間は一人としていない上、クアドリスから信頼されているのは間違いない。




 前回までのあらすじ


 陰陽自衛隊(候補)見参即全滅!!→久しぶりだねエヴァン先生!!!→新技術が手に入ったので潜水艦(複製)を返却致します(かしこ)→怪しい奴らを捕まえろ→どうやら魔族がアップを始めたようです→東京受胎→善導騎士団東京本部起動(こいつ、動くぞ)!!!→陰陽自衛隊(真)基地落成(完成まで4日)!!→とある少年の夏休みの始まり→やっぱり、平和が一番だけど何かおかしいなぁ?→やっぱ時代は3Pですよね!!→不幸属性の姉妹をドン底から掬い上げてみせる程度の能力→ヒューリ=オネー=サンと愉快な姉妹達→闇に乗れ戦士達!!!




 第91話「決別」


 荘厳なりしもの。

 富士の樹海の先。

 市街地も程近い場所。


 彼らが急降下した先で見付けたのは明らかに今まで出会ってきたモノとは毛色の違う物体だった。


 破壊された巨大な黒い門のような何か。


 ソレが上空100m以下に降りた瞬間に地表に現れたのだ。


 恐らくは一定距離に近付かなければ、相手に認識出来ない魔術の類が周囲には働いている。


 生い茂る一面の青み掛かった稲穂がそよぐ最中。


 その上部が無い門のような何かは全長20m程の大きさで聳えていた。


 だが、魔力反応無し。


 しかし、その奥から次々に培養型ゾンビ達がまるで団体旅行客かという数でゾロゾロと進み出ている。


 門の向こう側は暗闇で覗けない。

 それでも少年には其処が何処なのか分かった。


「―――概念域が開かれてる?! そんな、術者も魔力も無しに出来るはずが……」


 いつも少年が使う力に酷似した門の形態をした何か。


 それはしかし、すぐにギィィッと軋んだ音を立てて閉まったかと思うとその力を誇示し終わったとでも言うように空間に滲んで跡形もなく消え去っていく。


 だが、彼らの下で群れを成す数千匹の培養ゾンビ達の中心。


 門の有った場所にはゾンビ達とは違う黒いフードを被った人影が二人。


 いつの間にか稲穂は黄金色に染まり、風に吹かれた先から靡いて陽光に輝いていた。


「視線誘導弾!! フルオート射撃開始です!!」


 少年が指示を出し、ヒューリ、カズマ、ルカの三人が片手で下の培養ゾンビ達に次々と銃撃を浴びせていく。


 すぐに人影が何か身振り手振りをするとゾンビ達の方で対処が始まり、多くが腕や触手で頭部を防護した。


 しかし、それでも一気に数百体が人影の周囲で掃討される。


「カズマさん!! 視覚情報をマーキングします!! 降下寸前に指定した周囲に2500度強で熱量爆撃!! 悠音さんと明日輝さんはただちに上昇して下さい!!」


「「はい!!」」


「おっしゃぁあああああああああああ!!!! 行っくぜええええええええ!!!!」


 ベルが敵認定したフード事、ゾンビを殲滅するべく指示し、外套を剥ぎ取ってルカに渡したカズマが腕を離したと同時に提示された全域に収まるよう自らの周囲に10発近い大火球を生じさせ、装備無しなら焼け死んでいるような熱量を直に装甲で受けつつ、ソレを地表へと放った。


 一発10mを灰どころか融解させる約3000度の熱量の塊が急速に落下。


 絨毯爆撃にも似てゾンビの群れを熱量の一斉開放による起爆で抉り取って更地にしていく。


「これがカズマ……君の本当の力……」


 ルカはその凄まじい光景に目を見張る。


 少なくとも一個師団の砲兵部隊による砲爆撃にも劣らぬ威力が面制圧したのと変わらぬ惨状。


 いや、融解するならば、事実はそれ以上なのかもしれず。


 猛烈な熱波が少年の着地とほぼ同時に上空に退避していた彼らに吹き上がる。


 その上昇気流の中、ベルは二人の人影が未だに顕在なのを確かめていた。


 だが、それはカズマが火球を直撃させなかったからだ。


 敵とは言っても知性ある誰かなのは確実。

 それを知ってか知らずか。

 僅かにカズマが手加減した、とも言える。


 だが、爆発の衝撃と熱波によってフードを剥ぎ取られ、未だ炎が燃え盛る最中、ゾンビ達が消し炭になった世界に―――『馬鹿な』という耳元からの声を確かに全員が聞いた。


 そして、ルカもまた確かに呟く。


『そんな―――あの二人が、生きてるはずは……』


「安治総隊長? どうしたんですか。彼らを知ってるんですか? ルカさんも……」


 ようやく着地の衝撃から身を起したカズマもまた炎の中で照らし出される二人の人影の正体を目の当たりにして固まっていた。


『―――騎士ベルディクト。あの十代に見える少年と少女は……カズマの組員……スリーマンセルを組んでいた相手だ』


 その八木の声にルカ以外の誰もが驚く。


 八木と安治に送られているベルからの映像は確かに顔を明確に映し出している。


 鋼色の四肢と胸元に空いた菱形の大穴。


 そして、まるでスーツ染みて顎から身体を覆う黒と銀の装甲、いや……鎧。


 だが、誰の目にも一つだけ解った事がある。


 それは―――二つの人影に頭部が無い、という事だった。


 顔はある。

 だが、顔の後ろに中身が無く。

 人間の顔面はまるでお面のようにも見えた。


『まさか、拉致され……あんな風になっていたとは……はは、コレが子供を戦わせようとした我々大人への罰か……ッッッ』


 あまりの出来事に安治が心の折れたような声で……しかし、絶対に仕事は遂行しなければならないという大人の使命感からか……歯を軋ませた。


「オイ……何の冗談だよ……なぁ?」


 呆然としながら、カズマが炎逆巻く世界で相手に語り掛ける。


「何て顔してやがる。とっくの昔にオレ達は脚を踏み入れてたはずだぜ? この地獄って現実から逃れる術なんて無ぇんだ……陸自に入った時から、本当は分かってたんだろ? なぁ、相棒……」


 カズマが思わず一歩後ろに下がった。


「何狼狽えてんのよ。アンタが敵を前にして逃げるわけ? そんな装甲付けちゃってさ……日本護るんでしょ? なら、戦いなよ。目の前にいるゾンビと。この馬鹿カズマ……」


 まるで、昨日に戻ったような錯覚。


 ああ、少年が二週間前なら毎日のようにしていた会話を前に狼狽し、驚愕し、顔を歪め、俯く。


「クソ―――オレがお前らを……」


「護ってくれたら、どうなったってんだ。悪りぃが始めさせてもらうぜ。こっちも命が掛かってる」


「詳しい事を言ったら死んじゃうんだ。だから……アンタが死んでよ。カズマ……」


 二体の影。

 いや、未だ二人の影が少年に向けて手を翳す。

 すると、その片手には方陣が浮かんだ。


「クソッ、クソッ、クソッ、クソォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 カズマが涙を降り切って片手を二人に向けた。


『待って下さい!? カズマさん!!』


 だが、ベルの制止を振り切り。


 三人の攻撃はまるで息を合わせたかのようにピタリと一致して。


 カズマの腕の先に発生した熱量が灼熱の砲撃となって太陽の如き光を放った。


 瞬間。


 周辺地域一帯で気温が一気に60度超まで上昇。


 それとほぼ同時に生まれた爆発がカズマと2人を中心にして膨れ上がり、少年は緊急起動した鳥型ゴーレムを全て導線に変化させ、戦闘区域周辺を封鎖するように導線で囲み、市街地まで漏れようとしていた巨大な衝撃を全てポケットに引き込んで減殺する。


 衝撃と熱量の投棄先である東京湾全域が急激な熱量の供給で一気に水温が3度程上がった。


『冷静になれ!! カズマ!!』


 安治の声が届いたのかどうか。


 急激な熱膨張で弾け飛んだ空気がその場へと舞い戻るように真空へと引き込まれ、キノコ雲が上がる真下……赤熱化した装甲を纏いながら、爛れ始めた肉体が治癒術式で再生していく少年は未だ立つ二つの影を前にして片膝を付く。


「こっちの装甲も限界か。だが、前よりはマシじゃねぇか。中二病なネーミングの必殺技を撃ち合って超絶バトルもの……お前の望んだ通りの結果だろ。愉しめよ……オレ達の間にはもうそれくらいしかやる事なんぞ残ってねぇんだ……」


「うっわ、装甲チリチリしてる……でも、まぁ、いいわ……アンタの本気受け取ったから……やるじゃん」


 あの頃ならば、きっと何よりも嬉しかっただろう賞賛を受けながら、全身の冷却機構が作動されっ放しで冷やされている少年は霜の降りた顔面で二人を凝視する。


「ヴァルター……ユンファ……オレは……オレは―――」


「何も言うなよ。オレらとお前の道はもう交わらねぇんだ。今日は挨拶と実益を兼ねてお前に会いに来ただけだ。次からはもう容赦も手加減もしねぇ。油断すれば、お前の後ろの連中が死ぬ。そして、油断すれば、やっぱりお前が護りたかったモンが無くなる」


「オレが、護りたかったもんは……もんはなぁ!!!」


「オレらみたいな奴をもう増やすなよ。家族、親、兄弟、仲間……こんな事で失うのはオレ達だけでいい。だろ?」


「―――お前」


 ニィッと、ヴァルターが唇の端を歪める。


「オレは卑怯なゾンビだ。忘れるな……敵にもう話し掛けんじゃねぇぞ」


「じゃ、精々いきなさいよ。馬鹿カズマ」


 二人の身体が地表に開いた黒い何かに沈んで消えていく。


 その瞬間、伸ばされた手は何の為のものだったのか。


 彼らが消えて、黒いソレも消えた後。


 残ったのは汗すら凍る程に体温を冷却され続ける少年と融解して熱が冷めていく大地。


 何とか降り立ったベル達がカズマを回収した時。


 もう、その意識は途絶えていた。

 そろそろ九月になろうかという時期。


 東京湾周辺で海水温の急激な上昇が確認され、上昇気流が発生し、積乱雲が発生して大雨が降った日。


 米国政府が未だに掌握する関東圏の基地で次々に爆破事件が発生。


 しかし、その容疑者は影も形もなく。


 米軍は日本政府及び善導騎士団の支援を拒否した後、周辺を封鎖。


 何があったのかという問いに対して基地機能が破壊されたと説明するのみに留めた。


 それが一体、対魔騎師隊の戦闘とどう関わっているのか。


 それは当事者たる彼らにすら未だ分からぬ事であった。

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