第63話「ベルズ・スター」
シスコの要塞改修が要塞線の内部の広さを確保したり、配管用の空間を設けたりというところで一段落するまで数日。
最終的な要塞線の設計は両都市の技術者や業者達の手を借り、ベルを通して遣り取りを行う事で完成。
数十枚の資料として出来ていた。
ここ数日は騎士団もヒューリ印の野菜の栽培と新たに始めた加工食品の開発に忙しく。
未だ残っていた食料の超長期保存技術を用いた缶詰製造技術を機材毎導入。
次々採れる野菜を加工しては生野菜よりも値段の低い超格安で都市に卸しており、今や商店付近には毎日行列が出来て、食料の備蓄にとヒューリ印の缶詰を買う者達の列が出来ている。
缶詰が売れなくなる程、都市へ行き渡ったら生産を縮小する事は規定路線。
都市への備えを盤石にしつつ、騎士団の次なる戦いへの備えは進んでいた。
「ヒューリ。明日からベルの採取した種と共に第二本部へ向かってくれ。あちらで食料生産に関する全てを任せる。ベルの導線を持っていけ。今後はあちらでもこちらと同じように食料生産と備蓄を開始する」
「うぅ、ベルさんと離れ離れ……」
「日に3回は帰って来れるのだから、そうむくれるな」
騎士団第一本部の執務室。
数日間の缶詰の売れ行きと資金を再度南部橋頭堡の要塞に回す旨の決済を行いながら、フィクシーが告げる。
「それはそうですけど……あ、あっちの要塞も改修するんですか?」
「ああ、ベルはあちらの方が敵に近いからと朝からクローディオやハルティーナと共に向かっている」
「あそこにもポータルを設置するんですよね?」
「そうだ。南部が重要なのはUWSA側の反応からも明らかだからな。ベルは7日で仕上げて来ると豪語していたぞ」
「7日で済むんだ……さすがベルさん」
少女があの大きな要塞改修がそれで済むという事そのものが実はとんでもない事であると理解しつつも、少年が言うと本当に簡単な話に思えて来るとちょっと笑ってしまった。
「あちらにも恐らく新しい培養ゾンビが現れるだろう。アレらに対処する為にクローディオが今まで南部で活動していたハンター達を教導。守備隊と同じ装備をベルが供給する手筈になっている」
「そうですか。確かにあのゾンビの群れ相手じゃ騎士団員も辛いですよね」
「まぁな。ちなみに都市側は暫定的に最初の乳白色の培養ゾンビを【アーム】、赤黒い四足の触手ゾンビを【アヴェンジャー】、あの海藻みたいな髪型のを【シャウト】と呼称したようだ。ちなみに大型蟻は【アント】……そのままだな」
「今後、南部は今までよりも厳しい戦いが予想されるんですよね……」
「ああ、だからこそ、色々と備えておく必要がある。あちらの要塞にも迫撃砲と榴弾砲と高射砲を完備させるそうだ。無論、動体誘導弾も込み込みだな。武器弾薬を増やして食料用の畑も拡大。騎士団の一部を常駐させて、医療人員も更に配備……忙しくなるぞ」
「ベルさんがまた夜寝られなくなっちゃうかもしれません……でも、私だって」
ちょっと心配そうに呟きながらも、自分とて忙しくなるのだと拳を握った少女は負けぬよう頑張らねばと頷く。
「意気込むのはいいが、根は詰めるなよ。7日後には再び第一本部で全員が顔を合わせる事になるだろう。ようやく、あちら側からの回答があるそうだ」
「……これで色々と今後の方針が決まるんですね……」
「相手がどう出るにしろ。我々のやる事の根本は変わらん。人々を護り、悪を討ち、己の我を通して、この世界に再び人の生存領域を取り戻す。帰るまで何年掛かるか知らないが、やってみせるとも……」
フィクシーの壮大なプランを前にして元お姫様、人の上に立つ事になっていたかもしれない少女は……本当にこの人が自分の上にいる人で良かったと。
そう心の底から笑みを浮かべる。
「では、7日後に」
頷き合った少女達はそうして7日後に思いを馳せる。
そして、その日は確かにすぐやって来る事となった。
南部橋頭堡大要塞。
実はベルの名前を取って【ベルズ・スター】と呼ばれつつある其処は数日後には確かに新たな姿を晒し、米軍にも自衛隊にも驚かれる事になる。
ハンター達を大規模に動員した改修作業の様子は次から次へとUAVや地表の部隊の遠距離からの望遠レンズによって捉えられ、本国へと送られる事になったからだ。
虚空から湧き出す巨大な壁。
それを大地に打ち付ける巨大な人型。
地表に次々と敷かれる石畳。
その上に設置されるレール。
更にその上を走るSLや牽引車両、ミニガン車両。
そして、堀を挟んで円形に外側へと大増築されていく幅300m、高さ30mのドーナッツ型の更なる要塞線とその周囲へと拡大する無数の奈落の大穴。
『オウ……ジーザス……』
『オレ達は何を相手にしてるんだろうな……』
呟いたのはハンター達か。
UWSAの政府首班か。
日本政府の役人達か。
分からずとも、一つだけは確かだった
7日で彼らの世界は180度の大回転を余儀なくされたのだ。
それはたった一人の少年が人々と共に叡智を傾けて造らんとした破滅への防波堤―――南部大要塞【ベルズ・スター】の威容と共にあった。
確かに7日で建造は完了したのである。
そして、7日では済むまい膨大な内装の施工が業者達の嬉しい悲鳴を上げさせ、その歓喜の中で人々は確かにゾンビ達と戦う術を手に入れたのだった。
*
日本国政府より絶対条件への満額回答が得られた瞬間。
会談場所となった市庁舎の一室では村升、八木、神谷、結城、朽木の五名は対面に座るフィクシー、ベル、クローディオ、ヒューリ、ハルティーナを前にして、その顔色を見つめていた。
紙一枚の事だ。
両者の上座には都市代表としてアンドレと市長代理という名目で責任者であるバージニアが共に座って政府からの回答を読んでいた。
「……よろしい。我が方からすれば、満額回答と言ったところだ」
フィクシーが絶対条件の全てを受け入れた日本政府側からの最終的なボール。
全てを承認する為には一人だけ自分達の指名する騎士団員を日本へ派遣して欲しいとの要求に対してにこやかに続ける。
「騎士ベルディクト・バーンを日本政府への臨時特別大使として派遣しよう。しっかりとした警護は付けて頂けると考えても?」
「無論です。フィクシー・サンクレット副団長代行」
村升が大きく頷く。
「では、時期に付いてだが、このロスの要塞建築が終了した時点でという事で如何か?」
「それは……どの程度を?」
村升の言葉にチラリとベルをフィクシーが見やる。
「10日頂ければ」
「そういう事になりました。騎士ベルディクトは10日後にこちらで用意した船に乗せて運ぶ事になる。護衛をお願いしたい」
「分かりました」
「では、詳細は都市側の官僚とバージニア市長代理、アンドレ市長の方に。我々はこれで……」
立ち上がるフィクシー達を自衛隊側の全員が見送る。
この数日、自衛隊側は助けられた部隊員達がお礼をしたいという建前で善導騎士団第一本部を訪れて、日本からの産品を贈り物として届けたり、騎士見習い達が喰い付きそうな物を用意したパーティー会場を設営して招待したりしていた。
無論、市民に無料開放されており、あくまで騎士団の接待はついでという形にするのも忘れていなかった。
日本製のアニメ、漫画、ゲーム、その他にも娯楽用の品から伝統的な手法で作られた産品の数々はロス内部での日本の影響力の拡大に一役買った。
UWSA側も様々な面で食い込むべく。
その産品を案内するガイドや翻訳などで食い込んでいて、3日にも及ぶ式典は日本が主体という事もあり、都市民達からの受けもよく盛大に幕を閉じ。
『いやぁ、面白かった。久しぶりに……』
『この式典、艦隊を駐留させている詫びだって聞いたけど』
『まぁ、いいじゃないか。政治的な事は……』
『ふふ、今日は蓄電池が続く限り……このボックス全巻を見るぜ!!』
『オレの好きだった漫画……もうこんなに出てたんだんな。また、読めるようになるとは思わなかったよ』
『ギーク崩れには辛い時代だからな』
翌日に騎士団と2都市と日本政府の会談は行われたのである。
フィクシー達が予想していた通り、兵站の中心人物であるベルの派遣を日本政府は交換条件として出して来た。
絶対条件の満額回答はUWSA側も認めたらしいが、それにしても不満がある事は米軍の動きからも明らかだった。
北米各地に散らばっていた殆どの部隊が撤収し、今はロス市街を闊歩している。
つまり、“何かあれば”、自分達は即座に武力鎮圧出来るという意図が丸見えだったのである。
だが、日本政府からの要望と問い合わせに対して従来通りの答えしか返せなかった彼らは結局のところはとにかく自分達にも情報と技術が流れて来るのならば、というところで渋々ながら同意した。
此処で争い合って騎士団を強制接収するというシナリオを彼らが考えていたのかどうか。
それは分からなくても、嫌がらせ染みた完全武装の兵隊が闊歩し、市街地へ戦力集中している様は騎士団にも都市側にも米国の無言の示威行動として映っていたのである。
―――忘れるな。
そのメッセージだけはどちらにもしっかりと届いたわけだ。
こうして市庁舎を後にした五人が昼時の最中、都市外縁部へ徒歩で向かう。
空は晴れており、都市には穏やかな風が吹いていた。
「フィー。本当にベルさんを派遣するんですか?」
「ああ、もう同行する人員は決めてある。ヒューリ、ハルティーナ、お前達がベルを護れ」
2人が顔を引き締めてフィクシーを見つめ、頷いた。
「ベルにはこの数日で更に備えを充実させて貰った。海洋調査及び、複数の国家の内情を見ねばならなかったのも本当のところだ。今のところ騎士の活動は見られていない。もしもとなれば、1度だけ私の転移術式で3人まとめて此処まで飛ばす事が可能だ。その為に護符も用意しておいた」
フィクシーがベルに白い直径2cmくらいの宝石のネックレスを渡す。
「派遣先の国家から此処までの距離の倍までなら転移出来る代物だ。管理はベルに任せる。もし騎士などに襲われてどうにもならなくなった時は使え」
「は、はい。ありがとうございます。フィー隊長」
フィクシーがUWSA側の軍人で溢れ返り、自分達が視線を集めているのを確認しながら、続ける。
「ベル。この数日で更に装備に強化を加えたお前の力は本物だ。鍛冶屋の親父もガンショップのオヤジもお前を褒めていたようにな」
要塞建築をしつつ、少年はこっそりとロスに戻り、実は馴染みの店に顔を出して、今までの研究成果を基に更なる重火器や接近戦武装の開発を行っていた。
転移のポータルを用いて南部要塞に騎士団の人員の一部が送られ、そこで彼の作業が一部代行されていた事も大きい。
「また、シスコ側でアンドレに用意してもらっていた“アレ”の再開発も見事だった。この世界の数十年前の大戦で使われていた代物らしいが、あちら側の反応で戦力を推し量るのにも役立つはずだ。眠らせてやれなくて済まんな……」
「僕は僕のしなきゃならない事をしてるだけですから。フィー隊長が元々、アンドレさんに海洋調査の必要性を説いて、探して来てくれたものですし」
「乗組員は僅か3人だが、お前達ならば大丈夫だ。共に付いていってやれないのは心苦しいが、皆必ず帰って来い」
「「「はい!!」」」
「それまでにはお前が構想した計画も私が進めておく。恐らく形にはなっているだろう。クローディオは見習い達とハンター達の教練に当たる。次に帰って来た時……その時こそ南部の秘密を解き明かしに行くぞ」
「はい!!」
ベルが頷く。
「ヒューリ、ハルティーナ。お前達にもベルの補佐を命じる。集めねばならない情報やこの世界の物資、拠点の設営や交渉時のノウハウ。纏めて置いたものには目を通しているだろうが、此処で通用したものがあちらで通用するかは未知数だ。気を引き締めて共に戦ってやってくれ」
「「了解です」」
「では、要塞建築を始めよう。多めに見積もったからな。7日で終えて、残り3日で連中の度肝を抜いてやろう。旧い船の設計図と現物……まったく、あるところには残っているものだな……ふふ」
ニヤリとフィクシーが笑む。
「お、ウチの大隊長が悪い顔になってるぞ」
「こ、これは悪い顔じゃなくて、頼もしい顔ですよ!? クローディオさん」
「クローディオさんの方こそ、悪い顔で女性を誑かしてるらしいじゃないですか。何故か、フィーだけじゃなく私のところにも話が持ち込まれてくるんですけど、一体どうなってるんですか?!」
「オイオイ。オレは女性に優しいだけだ。寝台の中でな」
「ぁう?! し、寝台……(フシュウ)」
「ちょっとハルティーナさんがフシュウ状態になっちゃったじゃないですか!? どうしてくれるんですか!?」
慌ててフォローする少年と中心にガヤガヤと談笑しながら歩く彼らを見て、UWSA側の兵の方が気後れしているようだった。
数など物ともしない。
そう、その後ろ姿には談笑していてすら、微塵の隙も彼らは見なかった。
歩くだけで人に全てを悟らせる者達がいる。
正しく、彼らの背中は何よりも雄弁に語っていたのだ。
数も暴力も物の数ではない、と。
*
ロスの要塞建築開始時、日本側から申し出があり、見学もしくは自衛隊の人員をお貸ししましょうか、という善意とその他の意味が大きそうな話が翌日に舞い込んできた。
が、少年は見られても問題ないと申し出をフィクシーと相談してから快諾。
これにUWSA側が続こうとするも、自衛隊の工作部隊だけで十分に足りているという旨を伝えた為、結局は都市の業者の人手不足を補う形で自衛隊は施設建設に中隊を派遣し、現場はとにかく唯々要塞線建築の見学者と動員されたマンパワーのみが唖然とする場になっていた。
虚空を奔る導線から出てきた巨大な壁の数々。
壁際から次々にレンガ式の建材が落ちて来ては積まれ、浸透する純粋な金属で圧着されて壁や内部構造が出来ていくのだ。
その前の時点ですら整地だけでも驚かれていた。
とにかくあちこちの廃墟が全て消え去って剥き出しの地面ばかりだったのだから。
周辺地域にある資材倉庫群の方でもリサイクル用のペレットの山が大量に湧き出していて、倉庫そのものの数も更に200棟程増えた。
大穴もまた同時に開けられ始めており、立ち入り禁止になっている区画を覗いた人々はゆっくりと地面の下へと丸い巨大な輪っかが降りて、地面がなくなっていく様子を目を丸くしながら見ている。
あらゆる状況が一つのポケットを常に満杯にしながら行われている為、今のベルは完全に座禅の人。
大型トラックの上でヒューリとハルティーナに護衛されながら、胡坐を掻いて目を閉じたまま、まるで仏像のようになっていた。
『いやはや、凄まじいものですな』
下から聞こえた英語にヒューリがトラックの上から飛び降りる。
すると、其処にはどうやら視察しに来た村升と護衛らしき八木、神谷がいた。
『村升事務次官。御視察ですか?』
『貴女は確か……』
『騎士ヒューリアと申します』
『ああ、済みません。どう呼んでいいのかと迷ってしまって、何分、異世界の方に対してどのように接していいか。我々としても色々と模索している途中なのです』
『そうですか。それで要塞建築のご視察に?』
『ええ、八木一佐は英語も話せますので連れて来ました。こちら側として護衛時にお付けする部隊の隊長はご縁もある事から、彼らとなりました』
『そうですか。フィクシ-副団長代行に伝えておきます』
『よろしくお願いします。私はまた周囲を見て回りますのでこれで』
村升が当たり障りなく二人を連れて去っていく。
恐らくは少年の傍にいる人間にコンタクトして、その感触を調べに来た。
そう、人と会う事だけが目的の視察に違いない。
政治の世界に嘗て漬かっていた彼女にしてみれば、村升はかなり強かな相手という印象を受けた。
「あの人達……また、頭を下げてる……あちらの人は礼儀正しいんでしょうか?」
少女の視線の先。
村升は軽く頭を下げながら人と話し、笑い、頷き、多くの人々との間に関係の芽を撒きながら進んでいた。
再びベルの下へ戻ろうと跳び上がろうとした時。
『あ、ヤサイの聖女様だ!!』
「え?」
思わず声をした方を振り返ると大勢の子供達や彼女と同年代の少年少女達がゾロゾロとやって来ていた。
教会付きの個人の子供達だ。
シスターが彼女の下にやってきて、頭を下げる。
『ヒューリアさん。お仕事ご苦労様です』
『あ、は、はい。こちらこそ、その、子供達の引率ですか?』
『はい。社会見学の一環で……実は子供達がどうしても見に行きたいと』
『そうなんですか』
ヒューリが大きなものを創るのを面白がるのは人間共通なのだろうかと思いを巡らせている間にも子供達に取り囲まれた。
『ねぇねぇ、ヒューリアおねーちゃんはベルきゅんが好きなの?』
『!!?』
思わずヒューリが噴き出しそうになったが、何とか堪えた。
『そ、そそ、そんなの何処で聞いたんですか!?』
女の子の言葉に少女が思わず訊ね返す。
『え~~? ギョウシャの人が言ってたよ。ベルきゅんカワイイ。ベルきゅんサイコウ。ベルきゅんとヒューリアおねーちゃんの子供が早く見たいわぁって』
『こ、子供!?』
ヒューリがアワアワしている間にも子供達が少女の周囲に群がる。
『お野菜ありがとうございました!! おねーちゃん!!』
『ベル=サンとご結婚するって聞きました!! 聖女様ってショタコン? なんですね!!』
『ちがわーい!? おねーちゃんは僕と結婚するの!!』
『フソンよ!? ヤサイの聖女様に向かって!?』
『で、でも、あいつオレ達よりよっぽどちっこくて弱そうじゃん!!』
『こら!? 騎士様にそんな事言っちゃダメでしょ!! 騎士団に入れなくなっちゃうわよ!!』
『ベルきゅん……ちょっと、いいと思ってたんだけどなぁ。でも、ヤサイの聖女様相手じゃ仕方ありませんよね!! アニメで言ってました!! ロリコンは犯罪だけど、ショタコンは正義だって!!』
『うぇ~~ん。おしっこ~~~!!』
『そこらへんでしちゃいなさい!! 服に零しちゃダメよ!! シスターが困るんですからね!!』
ワイワイガヤガヤ。
少女はどれから突っ込めばいいのかも分からずに目をグルグル渦巻き状にされてしまう。
そもそも結婚とか子供とか。
結婚は出来るだろうが、子供は作れるのか不明である。
ついでに自分はベルさんが好きなのであって、ショタコンとかいうのではない。
少なくとも小さくてカワイイとは思うけれども、小さくて可愛ければ誰でも良いわけでもない。
等々の思考は纏まらず。
『ご、ごめんなさい!! お仕事に戻らなくっちゃ!! 皆、シスターの言う事を聞いて、危ない事はしないで下さいね!! もし、良い子に出来たら、また甘いモノでも差し入れますから!!』
『はーい(子供一同)』
幼い子以外のヒューリやベルくらいの歳の子供達は弟や妹がご迷惑を掛けて、的な顔で軽く謝るような素振りをして困ったような笑みを浮かべていた。
彼らとて色々話したい事はあったのだろうが、とにかく年下達が元気過ぎる。
ヒューリがトラックの上に消えると子供達がまた元気に騒ぎながら見物人達の方へと駆けていく。
『ヒューリアさん。可憐だ……』
『ベルディクト・バーン……最高に手強い相手になりそうだぜ』
『アンタがそもそも敵にならないでしょ。まだ告白する気なの?』
孤児院のガキ大将みたいな少年の呟きを雀斑の少女が呆れた視線で見やる。
『何事も可能性は0じゃない』
『いや、どう見ても-100%くらいでしょ』
『オ、オレだって騎士団に入って訓練すれば!!』
『それでも-50%くらいじゃない?』
『ぼ、僕はヒューリアさんの胸元を後5年くらい先まで見ていられれば、それで幸せな感じです!!』
別の眼鏡の少年がモヂモヂしながら呟く。
『この屑野郎。最低ね……』
『ひぃ!? 原始、女性は太陽で、胸は正しくビッグバンだったんだよ(断言)!!? 僕は何一つやましい事なんか考えてない!! ただ、ヒューリアさんの発育が愉しみだなぁって!! それだけ!! 本当にそれだけだよ!?』
―――軽蔑の視線(女子一同)。
『ぅぅ、僕が一体、何をしたって言うの?』
女子達に変質者呼ばわりされた少年が手型を頬に付けてプルプルする。
『お前……変態だけど、分かってんじゃねぇか。やっぱ、女は胸だよな!!』
『ど、同志!? 君はあの素晴らしさが分かるのかい!?』
『ああ、オレだって、お前と同じ日本アニメ見て育ったんだぜ!!』
キラッと先程告白すると決意していた少年が同胞に歯を煌かせる。
『うぅ、親友!! ぼ、僕はヒューリアさんの乳首って本人みたいにきっと凄く可憐でさ、桜色だと思うんだけど、君はどう思う!!』
『あ、やっぱ、お前オレとは違うわ。この変態……ヒューリアねーちゃんはなぁ!!』
( ー`дー´)とした表情で彼は変態に告げる。
『ヒューリアねーちゃんの乳首は……白み掛かった桜色に決まってんだろ!! いい加減にしろ!!?』
何はともあれ。
確かに誰もが騎士団の恩恵のおかげで何とか日々の暮らしを笑顔で過ごせるくらいには健康面でも良い状態に近付いていた。
元気が良過ぎるくらい子供達は健全にアニメで毒されてもいた。
彼らが将来、共にアニメのボックスを買い続ける優良な顧客となるのは確定的に明らかな昼時の長閑な時間はゆっくりと過ぎていくのだった。
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