第53話「向かうべき世界」
―――??日前。
『さて、ベル。最後は私か。お前の分も説明してくれ』
『は、はい』
少年が白と朱。
二つの色で染め上げられた衣装と装甲を前にして説明し始める。
『フィー隊長のは前の装甲でも騎士相手だとまったく足りなかった事が分かったので前面装甲の素材から見直して、硬度、剛性、靭性はそれぞれ2倍近いものになりました。装甲そのものの厚さも1.5倍です』
『この装甲の色合い。何か特殊な能力でもあるのか?』
『色々と……ヒューリさんの装甲はディミスリル・クリスタルだけで造りましたけど、こちらはディミスリルを直接使わずに造りました』
『直接使わずに?』
『はい。皮膜効果で魔力親和性の高い鉱物になった金属元素を其々に幾つか混合して、試作した合金の中で最も堅く、相手との近接戦において優位な能力を持つ代物を選びました……敵からの金属元素を用いた接触式の攻撃を受けた場合、あの金属破壊現象が起きます』
『ッ、つまり金属製の武器は効かないのか?』
『そういう事になります。接触した瞬間に金属そのものへ魔力が一部浸潤し、即座に分子組成を出鱈目に捻じ曲げて破壊……普通の弾丸なら運動エネルギーを伝えるより先に自身の力で有らぬ方向に弾け飛びます』
『……しかし、それだけなら相手はあの騎士達だ。まず間違いなく対処されるな』
『はい。実際、ディミスリルやディミスリル皮膜した金属には効果が薄いと分かりました。相手の纏う魔力が強ければ、効果も発現しない時もあります。ただ』
『ただ?』
『自身の魔力と相手の魔力の密度比べ+金属破壊効果ですから、フィー隊長なら恐らく騎士相手でも効果は出ると思います。それとこの装甲は使われている技術の本質に意味があります』
『本質?』
『ディミスリルが一定量有れば、使い回せます』
『ッ、そうか。皮膜を剥がして再使用するのだな?』
ベルが大きく頷く。
『その通りです。ディミスリルが産出しない地域だろうとも金属元素さえ出れば、同じ物が大量に造れます』
『量産用か……』
『ある程度の技術的なハードルを越えれば、バージニアさんが言っていたような装備の増産が可能になるかと』
『ふふ、案外早く騎士団はお役御免になりそうだな』
『いえ、結局は励起魔力有りきですから……』
『だが、それにしても我々は今、人々を護る為の剣を手にした……全てお前のおかげだ。ベル』
何処か温かな眼差しのフィクシーに少年が少し照れて頬を掻く。
『フィ、フィー隊長の装甲と衣装には他にも色々とありますから!!』
『ほう?』
『ヒューリさんの鎧に組み込んだように【日輪機構】を腕、脚、背中、胴体、首、手、指先、全部に乗せました』
『どれだけ時間が掛かった?』
もう苦笑するしかないフィクシーが少年を見つめる。
少年の頬は朱に染まった。
『まったく、お前というやつは……』
少年が他にも色々ありますと必死にアピールする様子に……フィクシーが頭を撫でた。
『それで他には何かあるか?』
『ヒューリさんの装甲と軽装で使う装甲の中間みたいな半ドレスタイプの軽い追加装甲やクローディオさんのを参考にした威力が高くて振り回せて殴打用の武器や盾としても使える対物ライフル。肩に装着出来るオプションとして他にも色々と……』
『威力と防御重視なのだな?』
『は、はい。でも、た、大剣だけはその……合金製なだけで強度以外はちょっと……緑燼の騎士の時の剣は今回収してますけど、アレはまた素材として保存していて、今は使えません』
『そちらはあの街に戻って鍛冶屋に頼もう』
『済みません。僕が至らないばかりに……』
『謝るな。何でも出来る程に人間は万能ではない。だが、これで私はまた戦える……お前のおかげだ。ベル』
『は、はい!! そ、それと鎧の防御用の魔力だけは僕が全部に込めておきました!! 次に騎士が来ても!! フィー隊長の魔力は全部、相手への攻撃としてブツけられると思いますッ!! もう競り負けませんよ!!』
『そうか。他にもまだまだありそうだが、後で聞こう。まずは実戦だ』
『は、はい!!』
少女がふと気になってベルの分だろう更に横の一着を見た。
『ベル。お前の分の装備は普通のとは何が違うのか私には分からないのだが……』
『あ、僕の分は機能強化です』
『機能強化?』
『僕の空間制御用のポケットを維持する機能を拡大して、他の外套と繋げたりして、近くにいるなら、僕と同じ事が出来るようになります。ま、まぁ、作業の処理工程は簡単なのしか出来ないのでポケット内の組み立てや簡単な工程以外の精練や新規工作何かは不可能なんですけど……』
『いつの間にそこまで……あのクローディオの無限に矢が出て来る矢筒の製造や他の者とのポケットの共同処理経験が生きた形か……』
『はい。一緒に戦闘して傍にいる限りは自分の外套からも僕みたいに取り出せるようになりますし、ポケット内に置いておいた部品の交換や銃弾の再装填くらいなら可能です』
『これからは更に捗るな』
『元々はクローディオさんがデッドウェイトとして銃を捨てちゃう戦い方だったので……撃ち尽くした後に入れて銃弾をすぐに補給して取り出す事が出来れば、もう重症にはならないで済むかなって……』
『偶にはあいつの未熟も役に立つな。ふふ』
『そ、そんな!? クローディオさんは立派ですよ!! ぼ、僕のは単なる思い付きで……』
少年と少女がそうして頭をナデナデイチャイチャしているところに着替えて戻って来たヒューリが発見、頬を膨らませ、その後ろでクローディオが肩を竦める事となったが、その空気は何処か家族染みて和気藹々としたものだった。
(ベルの機転と進歩が無ければ、私達はあの騎士には勝てなかった……魔力を全て攻撃に転化しても恐らく奴の剣技と魔力の運用には及ばなかっただろう)
フィクシーが自身を囮役にした事を正しい判断だったと改めて回想しながら、静かに果実の皮を小さなナイフで剥く。
(アンドレに魔術具の通信装置を渡していた事。直前に騎士の気を逸らして支援砲撃の要請が出来た事。ベルが開きっ放しにしていたポケットの入り口が湊側にあった事。もしもの時の結界の護石を持たせていた事。ハルティーナによる都市崩壊級の大魔術の遅延。どれ一つ無くても我々は死んでいたな。恐らく)
粉々になった骨がくっ付き、ようやく神経も回復してきたクローディオの寝台横で缶詰も開ける。
その後、寝台の上に展開するテーブルにソレを載せた。
「手ずから食べさせてくれるんじゃないのか? 大隊長殿」
「はぁぁ、その口が聞ければ、大丈夫そうだな」
「これでもオレは病人だぜ」
クローディオが威張るように言う。
「馬鹿者。英雄には食べさせてあげたいと殺到するファンがお似合いだ」
「え、あ、いや、ちょ、その扉は止め―――」
個室で立ち上がったフィクシーが扉の鍵を開けて、その前に屯している女性騎士+市庁舎の非番な女性数人にやっていいぞ、と。
掌をひらひらさせて退出する。
「あ、それはかなり無責に―――」
黄色い悲鳴とクローディオに『痺れました!!』と殺到し、ファン宣言と共に口へ果物やら缶詰やらを咥えさせようとして押し掛けるミーハーな女性達を背に副団長代行が更に同じ病棟の個室へと向かう。
ノックして、声がした後に入れば、そこに臥せっているのはガウェイン・プランジェその人だった。
「今回の一件。ご苦労だった。フィクシー・サンクレット副団長代行」
「いえ、何とか凌ぎましたが、殆ど負け戦でした。市街地の民家の大半が全焼。更に都市の主要区画の建物にも被害が出ており、使える建造物はかなり減ってしまった上、地表にあった畑もほぼ全滅。予め色々と種などは退避させていましたが、しばらくはまたベルの世話になるかと」
「だとしてもだ。決して私では黙示録の騎士には勝てなかっただろう。報告書と映像からもそれは分かる」
「過分な評価痛み入ります」
ガウェインがふぅと溜息を吐いた。
それは彼にしては珍しい事だったかもしれない。
それをフィクシーもまた理解して、次の言葉を待つ。
「……団長は恐らく死亡している。次の団長を選出せねばならない。君に任せたいと私は思っている」
「私が?」
「団長不在の今、私では超長期に渡る求心力を保つ事は出来ないだろう。この危難に際し活躍したのは君とクローディオや騎士ベルディクト、騎士ヒューリ、別動隊の面々だ」
「………」
「戸惑いも分かる。だが、君が団長になっても恐らく文句は出ない。別にクローディオを補佐するという名目で実権を握るだけでもいい」
「……いえ、副団長殿。私はまだその任には堪えません。恐らく、これから更に黙示録の騎士達とその背後の組織、最後の大隊との抗争はこの世界の人類との間だけではなく、我々との間でも激化していくと思われます。これは勘ですが、彼らはもう我々を逃すつもりはない。そう思えます」
「そうか……その対処に回りたいと?」
「はい。この世界は広い。騎士団の再興と大陸への帰還。これを果たす為にはこの世界を見て回り、様々な技術や知識、人脈、人材を集める必要がある。そう思います」
「……解った。では、大陸に帰るまでは私が団長代行として騎士団を纏めよう」
「済みません」
「いや、唐突だった事は否めない。私も焦っていたようだ……だが、この都市の復興には時間が掛かる。彼だけ置いていくのか?」
「いえ、ベルがその……また思い付いたらしく。魔導の超長距離延伸用の魔術具と転移用のポータルを開発しています。ロスに戻る際は地道に陸路で向かうことになるでしょうが、それを終えれば、次からは転移でこの都市と行き来する事が出来るようになると」
「……彼には本当に驚かされるな」
「はい。私もです。それで、なのですが。ご相談が……」
男と少女の話し合いはそれから十数分ばかり続いた。
病院を後にする際、子猫ちゃんと戯れる狼が悲鳴を上げているような気もしたが、少女は無視して騎士団の仮本部へと向かう事にしたのだった。
*
フィクシーが団長の地位に付いて言及されている頃。
少年は……物凄く忙しく働いていた。
食物の種に魔導を掛けて、建造物の使い物にならない部分はポケットで分解して資材にして、切れた魔力電池を補充して、破壊された都市のあちこちの破壊と改修の指示出しをして、要塞線の補修と弾薬の補給を行い。
と、言っても今や少年の仕事の大半はポケット頼みだ。
それも団員達が数十人、処理を手伝ってくれているので何とかなっているが、基本的に座禅スタイルで集中してばかり。
その横では何故か重症を負ったはずなのにピンピンしていたのですぐに職務へ復帰したハルティーナが直立不動で立っている。
『ベルさ~ん。もう少しですからね~~』
『は、は~い』
『ベル様。熱くありませんか? 日傘でも……』
『あ、だ、大丈夫です。お日様を浴びてた方が気分は和らぐので』
『そうですか』
『あ、熱くなってきたらお願いします』
『はい』
その後ろのキャンピングカー内では野菜を調理しているヒューリの姿。
これからは缶詰だけじゃなくて、生野菜もベルさんには取らせますという意気込みからキッチン・スペースにはサラダ、煮物、揚げ物、色々と手の込んだ料理が普通に並んでいる。
少年達がいるのは大きな立体駐車場の屋上だ。
入って来る注文を迅速にこなしているベルの仕事により、都市の高層建築の殆どが屋上を全て分解されてリサイクル用のペレットに還元されつつ切り詰められ、残った無事な部分をコンクリや様々な防腐防蝕性のディミスリル皮膜合金で覆われた為、現在はカラフルな様相を呈している。
重量や耐火性の問題から一々違う屋根が付けられているからだ。
街はあちこちにSLや牽引車が走っており、物騒なミニガン車両の多くは守備隊が用いる分以外はすぐに使える形で厳重封印。
装備でダメになったものはもう全て新品に取り替えられ、他は分解されてリサイクル後に再形成、同じ品として利用されていた。
『新外壁付近の見回り終わりましたぁ!!』
『よぉし!! 次は要塞線の外の線路に向え!!』
『了解でぇす!! 出発進行!! あ、いっけね!? 石炭切らしてる』
『馬鹿野郎!! 牽引車じゃねぇんだぞ!! しばらくはこのSLが頼りなんだからな!! とっとと、石炭取って来い!!』
都市民達は燃えた家から必要なものを全て掘り出し、その後に同じ場所にベルと業者が造る一戸建てか。
もしくは市街地中心部の元市庁舎周囲の区画に出来る総合アパートメントへと移り住む事となっている。
最も被害が大きかった市庁舎は既に解体されており、そこにはドーム状の巨大な半地下、半地上の球状な総合住宅が聳えていたりもする。
高さ20m程のドーム球場の内部が全て部屋だと思えば、間違いないだろう。
無論、白滅の騎士の攻撃から学んだおかげで全ての素材が断熱性や耐久性、様々な死に直結するあらゆる外界からの干渉に対して強い素材。
ディミスリル皮膜合金製である。
地下部分には今現在の人口より数万人多い人間を養えるだけの設備が急ピッチで整えられており、食料生産、工業生産、その他のプラント内で造れるもので自活出来る一種のシェルター兼アーコロジーと化し始めていた。
『配管は部品単位で組めよ~~後の奴らがちゃんと修理出来るようになぁ』
『屋内人工栽培責任者の人ぉ!! 水道設備の確認書類にサインしてぇ!!』
『便器足りんぞぉ!! 発注掛けとけぇ!!』
『完成したらどんどん開放しろってお達しだ!! 第一陣は明日だからなぁ!!』
人々がとにかく今は生活再建だと次々に要望を出す為、少年の身体が空く日はないのである。
いや、身体そのものは空いているが、大抵は処理を的確に行う為、大仏もかくやという不動姿勢。
そんなキャンピングカーしかない屋上に黄色いスポーツカーがやって来る。
「トゥゥゥゥゥッッース♪」
アフィス・カルトゥナー。
今回の一件で最後にハルティーナを救った青年はフィクシーに功績を認められて、チャラさに磨きを掛ける程度の装備。
エヴァが死蔵していた高級スポーツ車にガソリンを満タンで動かせる権利(騎士団の貴重物資及び幹部級人材の運び屋的義務)を頂いていた。
暇になれば、事ある毎にキャンピングカーに出向く彼に呆れるヒューリであったが、その彼の視線がハルティーナを何処か心配そうにそっと見守っている事を理解してからは何も言わずにいる。
「あ、ウェーイさん」
座禅状態の少年に近付いて来たアフィスがキラッと振り向いたヒューリに白い歯を見せる。
「今日も昼食を御馳走になりに来たぜ!! ヒューリちゃんの料理は最高!!」
「はぁ……いいですけど、ベルさんにちょっかい出さないで下さいね? 今、集中してるんですから」
「了解了解♪ 食ったら、また貴重物資搬送の仕事だから、オレ忙しいんだよね!! すぐに帰るって!!」
その猛烈に仕事をして、仕事が出来ますアピールにげんなりしつつも、ヒューリが今日も4人分である昼食を屋上に置いたテント下のテーブルに持っていく。
そうして昼食となった。
「それでそっちの施設の方はどうですか?」
「ん? ああ、フィクシー副団長代行が仕切ってて、今はゴーレムで組んでるけど、規模デカいよなぁ。というか、旧外壁の東の誘導路正面に造って、更に壁も全部更新して。あれはもう分隊を置く詰め所というよりは本部的な何かな気が……」
アフィスが今現在、シスコに残る部隊が詰める基地に付いての感想を述べる。
「ベルさん。そんなに規模が大きいんですか?」
「あ、はい。フィー隊長が前に作ってたのと同規模にしてくれって。壁際は丁度良さそうな無人区画もあったので今僕に出来る限りに造ったら、本部の1.5倍の規模になっちゃいました」
「なっちゃいましたって……それ規模的に本部はこっちなんじゃ……」
ヒューリが額に汗を浮かべる。
「ああ、でも、そうするつもりなのかもしれません。フィー隊長が言ってました。人々を護る為とはいえ騎士団を分割するのは避けたい。あちらにはまだ沢山守備隊がいるけれど、こっちには殆どいないからって」
「もしかして、こっちに活動拠点を移すつもりなんでしょうか?」
ヒューリの言葉に少年が『どうなんでしょうか?』と首を傾げる。
「ベルさんは帰るんですよね?」
「はい。バージニアさんとも約束しましたから。それに魔導の延伸用機材は後少しで開発完了です。この世界の技術を色々と教えて貰って、使えそうな仕組みを応用したら出来ちゃいました」
「(ウチの兵站責任者って出来ちゃいましたで結構とんでもない事言うよな)」
ボソッとアフィスが呟く。
「どうやって伸ばすんですか?」
「チャンネル間の物理的な距離がポケット内に直結するまでに必要な魔力消費と距離の増加で激増する魔力負担を減らすのにビーコンを完全に導線の形で埋設して、インターネット? とか言うものに似せてネットワーク化します。簡単に言うとビーコンを細長くして地中に沢山埋設します」
「あの、数百kmはあるんじゃ……一々埋設して向かうんですか?」
「あ、それは考えがあって」
「考え?」
「地中に起点となるディミスリルのビーコンをこの都市とあちらの都市に一杯置いて、その部分から僕達が地表を移動する際に持つビーコンに向けて僕の魔力でディミスリルの地中の鉱脈を変形させながら誘導します」
「え?」
「地中の鉱脈そのものをネットワーク化しながら進むので移動するだけでいいんですよ。実はディミスリル鉱脈って凄い広範囲に広がってて……前々から調べてたら、いけそうだなってなったので」
「そ、そうなんですか?」
「はい!! 術式を地中に撃ち込みながらマーキングすれば、この方式でディミスリルの変形や誘導の他、ディミスリルの土中での採掘とか、変形の転用で地下施設とか、地中の成分も分析出来て、必要な元素が多い地域もすぐ分かって、遠隔での採掘だって捗っちゃいます!!」
目をキラキラさせるベルにちょっとヒューリは引き気味だった。
「あ、あの……いえ、何でもありません」
しかし、サラッと何かとんでもない事を言われた気もした元お姫様だが、気にしない事とする。
だって、気にしたところで彼女に付いていける世界でないのは理解出来たからだ……後、やっぱり『ベルさんは凄い!! カワイイ!!』で全部片付いたのである。
「へぇ~~大陸の中央でも同じような事してたけど、自力で同じような技術開発するとか。やっぱ、凄ぇなぁ。お前って」
「「?!!」」
ヒューリとハルティーナがアフィスの言葉に衝撃を受けた。
自分達が付いていけない話にちゃらんぽらんを絵に描いたような青年が付いていける。
その落差に何か物凄く負けた気分となったからだ。
こうして少年少女の昼時は微妙な空気のまま過ぎていくのだった。
*
少女達と青年が少年の作る事に目覚め始めた様子を其々に見守っている頃。
スイートホームのアジトの一角。
「ふぅ、彼に“アレ”の現物と設計図も渡したし、一段落だな……」
アンドレが巨大な箱が立ち並ぶ部屋の中央でカタカタとディスプレイ前のキーボードを叩いていた。
「……日本の自衛隊が動いたか。それにしてもUWSA側の動きが速い……最優先探索対象は彼と誘導システムのコアとコイツ……このままだと数日中にあいつらのユニットが到着するのは待ったなし、か」
男が見る画面には未だに存在するインターネットの一部を衛星回線越しに繋いだ独自のプラット・フォームがあった。
その表示されている情報の殆どは日本政府と米国の亡命政権の結構な深度にある情報が羅列されている。
「日本の陰陽自衛隊の創設。亡命政権側の最高機密は……さすがに無理か。だが、想像は付く。奴らの目的は恐らく……」
男が巨大な飽和核による巨大なクレーターを見つめる。
「……旧戦線都市跡ビッグ・モールド・クレーター……あのファイルが本当ならば、あそこに騎士達の情報がある。彼女の話が事実ならば、最後の大隊が南部のジャミングを行っている理由は恐らく……」
彼はとある相手が辿り着いた異国で自分の娘と思って育てて来た少女と共に何とか生活している様子を街灯の監視カメラなどを元に確認後、僅かに笑みを浮かべて、自分の片腕の端末へとメールを送る。
「彼らをこのままUWSA側へ渡すわけには行かない。四騎士が敗れた今、次の手を打つべきは、打つ資格があるのは彼らだ……」
男が内容を打つと共に今、彼らの都市へと近付きつつある自衛隊側の部隊の通信システムに割り込みを掛ける。
この北米大陸で唯一の大規模演算システム。
ディープの名を冠するスーパーコンピューター。
【
汎用量子演算機として当時最先端にして最高の力だったソレは世界で数多くのエンジニアが滅亡に巻き込まれた今となっては英国と日本のシステムに匹敵する最後の代物だ。
「頼むぞ。我らが最高戦力……娘と彼と彼らの未来を……」
遠く遠く。
極東の島国。
その東京湾に面する埋め立て地の移民の一次逗留所の外。
煙草を一本吹かしていた金髪の細マッチョな男が買い物袋片手に空を見上げていたが、胸ポケットで震える端末に気付いて、たばこを地面に落して揉み消す。
そして、端末内のメールの文面を見た後。
静かに缶ビールとツマミをビニール袋にぶら下げながら行動を開始するのだった。
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