第42話「動き出す世界」

 前回までのあらすじ


 海を渡ったよ→何か烏賊が攻めてきたけど勝った!!→新しい街に来たヨ→隊長が拉致されて腕と体重が増えたよ(乙女的死活問題)→独裁者を倒してただのオッサンにする程度の能力を発揮!!!(今ココ)


 第42話


 直線で100km超という距離はこの滅亡へと突き進む時代。

 ゾンビだらけのの世界で辿るには聊か時間が掛かるものだった。


 大陸南部の主要幹線道路が少年達が通った時は何とか通れたというのは奇蹟に近い事だったのだと今の女性陣や少年には分かった事だろう。


 何よりもまず道が途中で途切れている事が多々あった。


 南部の過酷な環境とは裏腹に北部では動植物が多いという話だったが、それは雑草や樹木が大量という事であり、落ち葉どころか腐葉土になった地面の下に道路が埋もれていたり、途中で川などがあると橋が崩れていたり、道そのものが耐用年数の限界を迎えたのかボロボロでこれなら荒野を適当に奔った方が良かったり、という具合である。


 それに加えてゾンビの群れが溜まり易いとされている街や村のようなものがあると自動車の音や動きに引かれて群れを引き付けてゾロゾロと走るゾンビの行列が何kmも追跡してくる。


 車両の燃料は有限だし、5人に増えた人数で燃費も悪化している。


 キャンピングカーはそれなりの大きさなのでゾンビ達の目にも付き易いとなれば、魔力を安易に掛けて不可視化ばかりに頼るのも、もしもを考えれば愚策。


 要は彼らには長距離の車両移動技術が無かった。


 南部で結構楽に都市まで辿り着いていた彼らはようやくこの世界の厳しさを目の当たりにしたのである。


 また、何よりも彼らにとって辛かったのは少年のポケットの大半が莫大な魔力を吸収し、安易に捨てたり、埋めたりも出来なくなったディミスリルで占領された事であった。


 不用意に襲撃を受けたばかりの都市においておく事も出来ず。


 かと言って、水や食料をそのまま大量に抱えてもいられなくなったのである。


 結局はポケットの容量はディミスリルが7割、武具防具が1割、食料生活雑貨が1割、車両の燃料が1割というカツカツな運用となっていた。


 都市を出発して2日。


 どうしても迂回して回り道出来そうにない場所が目の前には迫っており、彼らはその中規模の都市でキャンプを張る事を決定。


 ゾンビをこっそり倒して静かに野営する準備に取り掛かっている。


「そっちに行ったぞ。アフィ何とか!!」

「ひ、ひぃいぃ!?」


 涙目なアフィスが魔力で派手に吹き飛ばしたい誘惑に駆られながらも暮れ始めた闇の中、不可視の衝撃波を腰の飾り程度にしか思っていなかった剣をへっぴり越しで振り回しながら、ゾンビを半端に解体し後ろへと後退していく。


 クローディオは作り置きの矢を節約する為にナイフ一本で走るゾンビ達に背後から忍び寄り、次々に首を撥ねている最中。


 ヒューリは己の帯剣で、フィクシーはベルが創った形と重量だけ同じ鉄製の帯剣型の塊を振り回し、頭を砕いていく。


 いつもの大剣は目立つし、取り回しが悪いので車両内部でお留守番なのだ。


 少年はその様子を全員の中心である車両の屋根に上って双眼鏡などで確認しながら、各員に敵の位置情報を魔力を用いた通信ではなくインカムセットに電波を送信する無骨な軍用無線で教えていた。


 この世界に来てから、そういった電気駆動式の機械の大半は車両をある程度治せる少年に一任されている。


 車両はゴーレム達が運転席で操作している為、隊の動きはキャンピングカーを中心にしてスムーズだ。


 もしもとなれば、中に逃げ込む事も出来るし、それを仲間達がカバーする事も出来るので後方の安心は高い。


 付かず離れずの位置。


 襲い来るゾンビの半分はクローディオが安全に後方から奇襲しつつ減らし、ヒューリとフィクシーの壁の前に脆くも崩れ去っている為、車両真直まで到達する個体は少数だ。

 遊撃要員のアフィスは涙目であったが、ゾンビの1体や2体なら相手には出来たのでまるで問題は無かった。


『フィー隊長。車両屋根からもうゾンビの群れは確認出来ません』


『分かった。街のゾンビは粗方掃討出来たようだな。最低限の遺留品をゴーレムで回収しつつ、死体は一か所に纏めて埋めて碑を建てよう。任せるぞ。ベル』


『はい!!』


 元々予定していたもうゾンビ掃討済みの古びれたガレージを持つ家の内部にキャンピングカーが入り、次々に内部からデフォルメした全員の姿を模すゴーレムがテコテコとゾンビ達の死体と遺留品を回収して少年が予め決めていた家の後ろに穴を開け始めるのと同時に集めていく。


 そうして30分後。


 全ての作業が終了した少年はゾンビ達をゴーレム達に埋葬させた後、ヒューリを伴って車両に帰還。


 不可視化され、セーフゾーンとなった場所で車両内のクーラーで冷やしていた缶飲料をフィクシーから渡され、後方スペースで一息吐いていた。


「ご苦労様だ。ベル」

「いえ、僕の仕事ですから」


「だが、その苦労も明日までだ。いや、明日からもまた苦労はしてもらうが、慣れない戦闘からは解放されるだろう」


「そうですね。ようやく騎士団と合流……あの山間部を抜けたところに皆さんいるんですよね……」


「ああ、そうらしい。生憎とハンター達が使ったルートの橋は壊れていたが、迂回したとはいえ、此処まで順調に来た。全員の疲労も許容範囲だ。あちらに行ったら、まずは食料の生産と団員達の体力の回復、健康については任せ切りになるかもしれん。何か困った事があれば、遠慮なく言ってくれ」


「ぁ、はい。でも、基本的に薬となる薬草も種とかで幾らか持ってますし、魔導を使えば、増やして種を採って量産も効きますから、食料と一緒でどうにかなると思います。外科は専門外ですけど」


「薬師一人でどれだけの人間が助かるか。あちらの人員の構成も分からない以上はもしもの事もある。今日は早めに寝て明日に備えて欲しい。風呂の後に食事をしたら寝台を整えよう。男共にも泥を落とさせねば」


「あの、僕も男なんですけど……」

「フッ、気にするな」


 汗を浮かべる少年があははと引き攣った笑みを浮かべる。


 その様子を今は狭いと助手席に追いやられ、一人で缶詰を食っていたアフィスが血の涙でも流しそうに歯軋りしながら、恨めしそうな視線で見ていた。


 それを運転席で缶詰を食っていたエルフが都市で受け取っていた堅いフランスパンの切っ先を捻じ込んで意識と共に黙らせ、優雅に麦酒ビールを嗜む。


 ヒューリが後方スペースで洗浄済みとなった遺留品を丁寧に仕分け終わって幾つかの袋の口を結びつつ、ウンウンと頷いた。


 彼らの夕暮れ時はそうして過ぎていく。

 明日への憂いが陰るような温かさと共に………。


 *


 ―――1週間前ロシェンジョロシェ市庁舎。


「ウェスター女史。亡命政権としても、日本政府としても、この一件は無視出来ないものだ。どうか、許可を出して頂けないだろうか」


 市庁舎の近頃、更に位置が高くなったオフィスの一室。


 革製の椅子に腰掛け、テーブル上で腕を組む余裕を崩さない女傑を前に日本政府及びUWSAより全権を任せれた特命大使という肩書を背負った日本人は丁寧なクイーンズイングリッシュでようやくお目通りが叶った彼女にそう許可を求め続けていた。


「ミスター村升。我々とてそうしたいのは山々なのです。、祖国の土を踏んだ海軍と海兵隊、陸軍のスペシャル・ユニット数十隊、現存数200を割るF35-AZ20機に日本の虎の子であるF-X改め第六世代型戦闘機2機と第六世代戦闘機用UAV子機30機……装輪装甲車どころか、半電池駆動可能な10式改まで持ち出して、我らロスの嘆願にようやく答えて頂けた事は誠に喜ばしいと思っております。嬉しくて嬉しくて、せめて10年前から6年前までに来て欲しかった等とは口が裂けて言いはしませんよ」


 女の猛烈なボディーブローを前にして村升事務次官。


 今や防衛省の実質的な支配者である男は『ああ、まったくその通り過ぎてオレだって涙が出るよ』というクソ苦々しいどころではない本音をおくびにも出さず……ソファーに座って粘り強い大使の仮面を被る。


「村升事務次官。別に我々はあなた達を歓迎しない、そのまだゾンビの指で傷一つ付いてないお綺麗な装甲が気に喰わない、祖国を見捨てた裏切り者が今更どんな顔をして我々に人員の支援と援助を申し出るのか、なんて事を思っているわけではありません」


 さすがの百戦錬磨で慣らして来た背広組も女の“真っ当な罵詈雑言”には返す言葉も無かった。


「ただ、性急に過ぎるのでは? と、言っているのですよ……お判りでしょう。この20万都市が生き残って来た年月が、そのまま貴方達への不信である事は」


「ええ、今身に染みております」


 女は徹頭徹尾容赦なく彼らを糾弾する。


 それは都市民達が絶対的に望む出来事ではあったが、単なる為政者としてみれば、確実にアウトな光景だっただろう。


 しかしながら、最終的に彼女が断れないという事実そのものは覆らない為、そのようやくお目通りが叶った責任者である女傑を前に村升は今こそ只管に耐えるべき時だと官僚らしい優秀さと冷静さで女の言葉が切れるのを待つ。


「ですが、都市民達とて分かっているのです。感謝しているのです。日本の支援物資、援助物資失くして生活が成り立たない事など分かっているのですよ」


「………」


「ですが、そうだとしても感情というのはそう簡単に解消出来るものでもないでしょう? 日本とて米国に敗戦した時、反発が無かったとは言えなかった。いきなり、仲良くしましょう。貴方達が求めていた支援を約束します。我々は裏切りませんと言われても、容易には信じられない」


 肩を竦めるバージニアにどれくらい吹っ掛けられるのだろうかと内心で嘆息した男が財務省の友人にこのご時世にどれだけの特別予算を毎年組んで貰えるだろうかと内心で算盤を弾く。


「ハッキリと申しましょう。我々は亡命政権が捨てたこのロスをこの10年以上に渡って維持して来た事に対して、を求めます」


「一応、国際法上はまだアメリカは存続し、この都市の主権もまたアメリカに帰属するものだと思っていましたが?」


「ははは、御冗談がお上手ね。13年前の大統領が定めた法律は御存じ?」


「存じております。我らが祖国を奪還する戦争に参戦する軍民問わない勢力は何者であれ、その奪還領土を無期限で借款する権利を得る、でしたか」


「ええ、破れかぶれでしたが、アレは正式な議会の議決を経て可決され、今も効力を失っていない戦い続けた者達への約束です」


「……ロスを国家として認めろと?」


「いえ、これからこの大陸で起る如何なる勢力の国家に対してもゾンビと戦い奪還した領土の確約と国交の樹立と正式な承認……そして、軍事同盟の締結を行って頂きたいと申しております」


「これはまた大きく出ましたね」


「残念ながら、我が都市は今現在のところ、食料や弾丸よりも権利を欲しています。我々を侮り、滅びると断言し、人一人送る事も無かった……そんな安全な国々からが欲しいのですよ」


 男が頭を掻いた。

 女の言葉は至極全う。

 ついでに言えば、正論。


 そして、何よりも現実的に“実現可能な要求”だった。


「ウェスター女史。貴女は聡明な方だ。貴女の要求は我々が呑める中でも最も大きな条件に他ならないでしょう。ですが……我々としてはソレを為すには少なくとも其方からの前払いを期待したいところだ」


「前払い、ね……」


 バージニアの視線が渇いた色を浮かべる。


「貴国は我々を何処かの安っぽい娼婦コールガールか何かと勘違いしておりません? ゾンビと戦った者達にはもう前払い出来るモノなど何一つ残っていはしませんよ。祖父を祖母を父を母を姉妹を兄弟を我が子を。あるいはその全てを、我々は失ってきたのですから」


「………」


「我々は自由を、フロンティア・スピリットを国是とし、その開拓精神は相当のものだと自負して参りました」


 バージニアがその自分よりも年上の日本人にニコリと微笑む。


「ですがね? このゾンビに覆われたフロンティアで血と汗と命を垂れ流しながら戦い続けた日々の中、更にと要求されるような生き方は……そんな年月は過ごしておりませんわ」


「………ええ、それは我々としても認めざるを得ない事でしょう」


 村升が立ち上がり、持参した黒革の鞄から取り出した画像付きの資料を数枚、彼女の前に提示する。


 その中には蒼き騎士が崩れ落ち、一人の少年が腕を失くしているシーンが確かに移り込んでいた。


「次官。長い時間を取らせる気はありません。ですが、かと言ってすぐに決まるというものでもありません」


「分かっております……」


「我々は協力し、対話を通し、あなた方へ情報提供する用意があります。ですが、それには時間を頂きたい。それが少なくはないものだとご理解を」


「少なくはない、ですか……」


「……我々はこの永遠にも思える時間を待ちました。我々と同じくらいの時間を待て等と荒唐無稽な事は申しません。ですが、意見集約と結論を得るまでの時間は待って頂きたい。我々はその結論を出す事を急いでおりません」


「……今日のところはこの辺で引き上げましょう。お互いにまだ交渉の余地はあるものとこちらとしては思っています。ウェスター女史」


「ええ、勿論ですとも。日米はアジア太平洋諸国において比類なき同盟だった。それは我らが都市でも同じ事でしょう。ですから、是非とも決まるまでロスを回って行って下さい。此処には我々の全てがありますから」


 その重たい言葉を背に男は頭を下げ、扉を出ていく。


 男は扉から少し離れた場所で待っていた米兵と自衛隊の二人の護衛を連れて、市庁舎を出て車に乗るまで一切表情を崩さなかった。


 しかし、その軍用車が出た途端に盛大な溜息を吐く。


「どうでしたか? 村升さん」


 彼の後輩の一人にして今回の一件に付いて来たまだ20代後半の部下が訊ねる。


「どうもこうも奴さん恨み節全開だったよ」

「まぁ、でしょうね」


 男達として今の今まで日本が自衛隊を失陥確実と言われて来た都市に人員を送って来なかった事の重さは理解していた。


 亡命政権の者達すらそうだったのだ。


 義勇軍の派遣が何度も国会では取り沙汰されたが、その多くは米国本土の大規模なゾンビ集団を空爆で殲滅する事に主眼が当てられ、毎回毎回計画は潰れた。


 これはユーラシア大陸の殆どの国が徹底抗戦して尚、相手の物量によって潰れた事実からも正しい選択としか言いようが無かった。


 そもそも軍人がゾンビとなって日本国内にパンデミックが輸出されるかもしれないという懸念は当時、世界各国のあちこちで見られた現象だ。


 日本とて、それは水際で何とか阻止出来ただけの事であって、奇跡に近い。


「大臣からは迅速にとのお達しでしたが、無理ですか。やはり」


「ああ、我々や祖国の内閣がやきもきする時間くらいは掛かるだろうな」


 村升がペットボトルの水を渡されて、飲み干しながら大きく息を吐く。


「でも、相手にしてみれば、これはチャンスなんじゃないですか? それこそ情報の開示や立ち入りと引き換えに我が国から諸々を引き出す打ち出の小づちですよ? 勿体ぶったって、どうしようもないでしょう。円滑に事を運べば、更なる利益を、とあちら側は思ってないんですか?」


「どうだろうなぁ。市長と取り巻き連中はありゃ完全にあの女の尻に敷かれてやがる。守備隊のトップも『ウェスター女史の許可が無ければ、協力出来ない』の一点張り。ハンターの元締めって肩書だが、実質この都市を動かしているのはあの女だ。権力、カリスマ、実績、コネ、パーフェクトだよ」


 惜しみない賞賛を贈る村升は難題を前にして大げさに天を仰ぐ。


「それにしてもこの都市単体じゃ、あの情報を上手く扱えるとは思いません。そもそもが何者なのかすら、我々には……あの女は全部知ってるんですかね?」


「知ってるんだろうよ。だからこそだ。今の世界の大勢はG4……日本、英国、ASEAN、オーストラリアで4強……だが、あの力があれば、ゾンビの親玉共を駆逐出来る可能性がある」


「正しく希望、ですか」


「ああ、それは国土の奪還に繋がる希望そのものだ。お前、北米大陸やユーラシア、アフリカにある物資と資産と施設が全て自分の手に転がり込んで来るとしたら、どうする?」


「そ、そりゃぁ、一国一城の主を……なんてのは御免ですね。考えただけで気が遠くなります。自分の国だけでも精一杯なのに」


「ああ、オレもだよ。この都市の連中も同じはずだ。だが、あの女だけは違う。恐らく本気でUWSAに治外法権と独立国家の樹立を認めさせるつもりだ」


「出来ますか?」


「やるんだよ。それが政治家ってもんだ。今までなぁなぁで済ませて来た事に代価を払えって言ってきた。こいつは下手をすれば、アメリカの分裂や内戦にすら為り得る大事だ」


「一瞬で鎮圧でしょうね」

「だからこそ、あの女も慎重に事を構えようとしてんだ」

「……おっかない話過ぎません?」


「失うもんを全て失くしたインテリなキャリア・ウーマンだぞ? 子供は若くして志願兵となって死亡。夫は戦線都市で蒸発。UWSA側からの資料なんぞ見なきゃよかったぜ。ありぁ、鬼子母神か般若の類だ」


 男の肩が竦められた。


「そっちの様子は分かりましたけど、本当に米軍の連中にGOサイン出して良かったんですか?」


「仕方ねぇだろ。あっちの要望を全部封殺も出来ん」


「あいつら、夜な夜な立ち入り禁止区画や郊外の資源採掘場、遠征組は都市が創ってるって言ってた軍事機密の要塞へ情報集めに行ってますけど」


「そんなの市庁舎側だって百も承知だ。それも交渉カードの内さ。事後承諾になったんだから、もっと寄越せと言う為のな」


「オレ達、貧乏くじですかね」


「そうだとしても歴史の転換点だろうよ。あの提督、食わせもんだぜ。他にも複数のユニットをどっかに派遣してやがる。オレ達にも知らせられない最高機密でも今頃確認してるんだろ」


「やな仕事……」


「愚痴るな。これがオレ達の戦場だ。それに日本側オレ達にだって、切り札はあるさ……」


「本当に切り札になるかは怪しいですけどね」


「そう言うな。あの連中が使っている能力や技術がもしも想像通りなら、オレ達にもあの騎士共を殲滅出来る可能性はある。そして、あるだけで絶対的にマシなんだ。無いヤツらがどうなったのかは言うまでもないんだからな」


 村升が鞄の中の閉じられたファイルを取り出して男に見せる。


 それは男も前に見た事があるものだ。


「はは……江戸時代や戦国時代ならともかく。今時、侍だの巫女だの仙人だの陰陽師だの……残されてきた来た血統とか……やっぱり、防衛省の資料にしては冗談きついっすよ……」


「いいじゃねぇか。漫画やアニメみたいな連中で世界が救えるってんだ。救わせてやれ、それが可能ならな……それがオレの意見だ」


「【陰陽自衛隊おんみょうじえいたい】……救えますか? 日本を」


 真剣な若者に聞かれて、先達は応える。


「……その為にオレは此処に来たんだ」


 男達の車両は今湊を占領する艦隊へと向かっていくのだった。

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