第8回講義の前
今日も204室は講義が始まるのを待っていた。
佑紀乃はまだ一枚も書いてない小説の原案を練っていた。
——あぁ、ほんっとなんも浮かばないわ。どうしてみんなああやって色々浮かぶのかな。
カンナが佑紀乃の肩に体重を乗せてきた。
「ねー、ゆきりん。結局メガネちゃんとあの彼、どうなったか聞いた?」
「あぁ、正式に交際を終わらせたらしいよ、やっぱり勉強に集中したいからっていうことで」
パーマンが割り込んできた。
「そんで簡単に終わったのか?」
「うん、そう」
「へえ、スッキリしてていいな。あいつクズ認定だけど、後腐れないところはむしろ好感触だな、俺としては」
そんなことを話していると、入り口のドアがガチャリと鳴った。
入って来たのはメガネちゃんだった。
「あれ? メガネちゃん」
その姿を見て、皆はっとした。
というのもメガネちゃんは眼鏡をかけていた。
それだけではない。服装もいつもの白Tシャツ、デニムガウチョを穿いていたのだ。
「みなさんこんばんは」
「メガネちゃん、コンタクト止めたんだ」
「はい、気に入ってたんですけど——。だからやめました」
「だから?」
「ええ、ゆきりんさんの言ってた事思い出して」
佑紀乃は口をへの字にした。
「私なんか言ったっけ?」
「はい、わたし自分を大切にしようと思いました。やっぱりわたしらしさってこういうことかなって。そして本当の意味で自分の良さに気づいて、自分を大切に思えるようになったら、またコンタクトにして、おしゃれしようと思います」
パーマンが寄って行った。
「それでいいんだよ、メガネちゃん。もし何か困ったことがあったら、いつでもおじさんに言いなさい。何でも……」
そう言ってメガネちゃんの肩に手を置こうとした手をカンナが横から勢いよく払った。
「痛って! 早いんだよ、ツッコミが」
「だから触んなって言ってんだろ?」
「まだ触ってねーだろ?」
「触ろうとしただろうが」
そんな二人を見ながら、佑紀乃とメガネちゃんは目を合わせて笑った。
「なんか、あの二人見てると平和でいいな、って感じる。世間はさ、どこかの国がミサイル飛ばすとかさ、警官の拳銃が盗まれるとか怖い話もあるみたいだけど、そんなの忘れちゃうよね」
「はい、あのお二人ってお似合いですよね。一層のこと、付き合ったらどうですか?」
パーマンとカンナが止まった。
「あのな、メガネちゃん。いくらなんでも言っていいことと悪いことが……」
「そーだよ、どうみたって人種がってゆうか、種が違うっしょ? こいつとあたしじゃ! あ、それってもしかしてこの前のあたしへの仕返し? もう!」
ちょうどその時、張本が204室に入って来た。
「みなさんこんばんは。それでは第8回の講義、始めますよー」
(閑話休題の後、第3章:不死川玄太という男 へ続く)
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