第244話
コジロウの殺気に、先程のことを思い出して怯えるリゼ。
その様子にカリスが気付く。
「おいおい、殺気が漏れているぞ」
カリスの言葉で、コジロウは我に返る。
「失礼しました。拙者も鍛錬が足りておらぬようだ」
謝罪をしながら、自分の未熟さを口にする。
「お聞きしてもいいですか?」
話が出来る状態になったと思い、リゼが質問をする。
「なんでしょう?」
「コジロウさんが、ヤマト大国の国王……代表なのですか?」
「滅相もない。拙者は留守を預かり身です。本来であれば次期将軍である若様の役目ですよ」
「若様……ですか?」
「若様は見聞を広めるため、数人の里の者とともに世界を旅しておられます」
これ以上は聞いてはいけないと思い若様の話題には触れないでいると、コジロウの代わりにカリスが説明を始めた。
「一番偉いのは将軍だ。リゼのところでいう国王だな。その将軍は今、空席で若が第一候補だ。次に侍大将のコジロウと、忍頭のハンゾウといったところか? 世話役だったロウジューは何年も前に亡くなったからな」
「そうです。本当であれば侍大将の座にはムサシが就くはずでしたが……」
「ムサシからの連絡は?」
「全くです。数年間の武者修行から帰ってきて、若様がいないと知るないなや、同行できなかったことを恥じて、そのまま若様を探すと言って飛び出していったきりです」
「本当に……連絡一つよこさないで、何をやっているんだか」
「ムサシのことですから、簡単に死ぬことは無いですが、若様と合流出来ていれば良いのですが」
「どうだろうな、世界は広いからな」
「ムサシはともかく、若様のことなら心配無用です。なにしろ、若様は唯一無二の方ですから」
「たしかに、将軍の血筋……いや、先代将軍と奥方様の子だからこそ、若は特別だな」
コジロウをカリスは懐かしそうに話をしていた。
「カリス殿。先代と戻られたということは、やはり……」
「察しの通りだ。だが、リリス聖国も簡単に仕掛けて来ないだろう。一応、同盟国の動きもあるしな」
「拙者たちはドヴォルク国に恩義があります。時が来れば、いつでも命を投げ出す覚悟がある故、いつでも戦う準備は出来ております」
「おいおい、そんなこと言ったら若が悲しむぞ」
真剣な眼差しで話すコジロウを茶化すカリスだったが、その言葉に嘘は無い。
話を聞いていたリゼはコジロウが言った“先代”という言葉が引っ掛かっていた。
カリスと一緒に来たのはナングウだ。
そのナングウのことを“先代”と呼んだことに間違いない。
「ちょっと、いいですか」
話の途中でリゼが質問をする。
「なんでしょうか?」
「コジロウさんでなく、カリスさんにですが……カリスさんとナングウさんは、ものすごく偉い人なんですか?」
どうしても気になったリゼは思い切ってカリスに質問をする。
「もしかして、リゼ殿に何も話していないのですか?」
「あぁ……面倒だし話していなかったかもしれないな」
「カリス殿やナングウ殿の客人という立場の方に……はぁ」
コジロウは呆れたように、大きなため息をつく。
「ナングウ殿はドヴォルク国の先代国王です。そして、カリス殿はドヴォルク国に三人しかいない名匠の一人です。過去形なのは何年も前に名を御譲りになられました。つまりカリス殿は、初代オスカー殿になります」
「いや~」
少し照れるカリスだったが、名匠という言葉にリゼの鼓動が早くなる。
以前に受注したクエスト『名匠による武器の制作』を思い出したからだ。
カリスが自分の武器を製作してくれる可能性は低い。
他の名匠も同じだが、職業が変わったことで戦いの幅も広がった。
そして、目の前には同じ職業のハンゾウがいる。
今を逃せば、自身の成長は無いとリゼは思っていた。
だが、それとは別に気になることがあった。
「その……先代国王に失礼な態度を取っていませんでしたか?」
リゼはカリスに恐る恐る尋ねる。
「あぁ、大丈夫、大丈夫。爺さんの態度見れば分かるだろう」
カリスは笑いながら、リゼの悩みを一蹴した。
その笑い方がリゼの不安をより大きくさせてる。
「リゼ殿はいずれ、自分の国に戻られるのですよね?」
「はい、そのつもりです」
「そうですか。もし、御手間でなければ先程、話をしたムサシと出会うことがあれば伝言……いいえ、手紙を御渡しして頂くことは可能ですか?」
「はい、構いませんが……ムサシさんという侍の方としか、分かりませんので、人違いの可能性もありますが、それでもよろしいですか?」
「そうですね……では、手紙を渡す前にこれを見せていただき、その者がヤマト大国や、拙者たちの名を出したら本物ということで、手紙を御渡しいただいてもよろしいですか?」
「はい」
リゼが返事をすると、カリスが腰に掛けていた袋から、なにかを取り出した。
「それって、これか?」
「はい、そうです。カリス殿の場合は、ムサシと面識がありますから必要ありませんが一応、確認のためにとお持ちいただいております」
「分かっているよ」
気付くとハンゾウが箱のような物を持っており、それをリゼに渡す。
箱には手紙と、カリスが見せてくれた独特な形をした石の首飾りだった。
「これは勾玉といい、拙者たちヤマト大国の守り物になります。ヤマト大国でこれを知らない者はおりませんので、確認の際には必ず見せていただきますようお願いいたします」
「はい、分かりました」
リゼは丁寧に勾玉の首飾りと手紙を、アイテムバッグに仕舞う。
「もし、ドヴォルク国以外で忍に出会った場合にも、それを見せるとよいかと思います」
「そうだな。サスケと出会う可能性があるからな」
サスケはアルカントラ法国への諜報活動をしていることを教えてくれた。
コジロウはサスケの情報から、世界の国々が裏で暗躍しているが、その動きがここ数年で活発になっていることを危惧していた。
「それよりも、問題なのはあの裏切り者だな」
「サンダユウですな。あやつの首は私が必ず……」
コジロウの語尾が強くなると同時に殺気を感じた。
ハンゾウも口調こそ変わっていないが、言葉からも意思の強さを感じる。
「サンダユウというのは、ヤマト大国をリリア聖国に売った裏切り者だ」
「裏切り者?」
カリスがコジロウとハンゾウよりも先に話す。
「あぁ、ヤマト大国の情報を全てリリア聖国に伝えて、大軍を国に引き入れた張本人だ。それに――」
「サンダユウは前忍頭でした」
ハンゾウが話し辛そうなカリスの代弁をする。
現忍頭としての覚悟だった。
「リゼ殿も忍だと知られれば、ヤマト大国の出身だと思われて、サンダユウからの刺客が向けられるかもしれません」
「は、はい」
思っていた以上に”忍”という職業が特殊過ぎることを痛感する。
そして、サスケ宛の手紙を渡すことがサブクエストになるかと思っていたが、目の前に表示されなかったので、サブクエストにならなかったのだと少し残念な気持ちになった。
なによりも忍だと知られれば、サンダユウからの刺客に襲われるが、忍だと証明しなければサスケと会うことも出来ない。
矛盾した話だと思いながら、リゼは話を聞き続けた。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十一』
『魔力:三十』
『力:二十五』
『防御:二十』
『魔法力:二十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:百一』
『回避:五十三』
『魅力:二十四』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・購入した品を二倍の販売価格で売る。
ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日
・報酬:観察眼の進化。
■サブクエスト
・瀕死の重傷を負う。期限:三年
・報酬:全ての能力値(一増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)
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